第166話 スリランカが危ないかも
いよいよ今の学校に通うのも最終日になった。
由香以外の人たちには、転校の話はまだしていない。
由香も約束通りに黙っていてくれたようだ。
朝の全校朝礼で野中先生と橋本先生の探索者養成学校への転勤が通達された。
生徒のみんなは、合格率が五パーセントにも満たない学校への二人の転勤を羨ましがっていた。
「由香、ずっと黙ってくれていてありがとうね」
「そうとう言いたかったけどね、なんとか理性で持ちこたえたよ」
「由香はダンジョン通いはずっと続けたの?」
「まぁ、それなりにね。でも博多ダンジョンはうちの生徒たちだけでなくこの辺りの受験生がみんな集まって来てたから、思ってたほどは強くなれなかったよ」
「そっかぁ、ダンジョンランキングでどれくらいだったら合格ラインなのかな?」
「どうだろうね? 一千万位以内だったらカラーズだから、一億位以内でぎりぎりラインなんじゃないかな?って予想はしてるんだよね」
「どうだろう? 一億位だったら世界中の軍人さんや警察官をあわせればそれくらいの数がいそうだけどね。今で何位くらいなの?」
そう聞くと由香がランキングカードを取り出して見せてくれると十一億位台だった。
「全然でしょ?」
「でも、今から強くなりたい人を養成する学校なんだから、必ずしも今の順位だけが大事っていうわけでもないと思うんだよね。面接でのアピールとかで乗り切れるといいね」
「そうだね。頑張るよ」
きっと私と一緒に少しダンジョンに潜れば合格ラインを超える事は容易だろうけど、それをしちゃうと結局後から由香が苦労しそうな気がするから、まずは自力でなんとか頑張ってほしいよね?
家に戻るとTBに餌を与えて少しゆっくりしていた。
「先輩、今日は狩りに行かないんですか?」
「明後日には、新月の日を迎えるからね。今日は一日ゆっくりしておこうと思うの、お料理もしたいしね」
劉さんから預かった写真を鑑定した結果は首都のコロンボダンジョンが五十五層までのBランクダンジョンで現在十八層までの到達、もう一つのジャフナダンジョンが二十二層までのDランクダンジョンで十二層までの到達だった。
スタンピードを起こすのはジャフナで間違いなさそうだね。
杏さんと一緒に冴羽社長とミーティングを行う事にして、冴羽社長に来てもらう事にした。
「心愛ちゃん、そういえば転移マットがここと金沢の間の専用になっちゃってるから西陣の事務所とここを繋ぐようにもう一つ置いてもらっていいかな?」
「そうですね、金沢とここを繋ぐ方が使用頻度が高いからアニメマットの方を事務所用にした方がいいですよね。擦り切れちゃいそうだし」
「そうだね、それは心愛ちゃんに任せるからもう一つ用意しておいてね」
「了解です」
「本題なんだけど、スリランカのジャフナダンジョンは地理的にはセイロン島の北の端にあって、半島状態の場所に存在しているのは理解してるよね?」
「はい、地図で調べました」
「それなら、スタンピードが始まったと同時に半島の根元辺りに結界の壁を作ってもらう事は可能かな?」
「はい、大丈夫です。でも……スタンピードが始まった直後であればダンジョンの入り口近辺を囲んだ方が効果は高くないですか?」
「そこに、問題が存在するんだ……心愛ちゃんが仕入れた情報通りに現在のジャフナダンジョンは、中国政府によって管理されている。そしてそこに侵入するには中国によって設置されているダンジョン支部の許可が無いと入場できない状況なんだ」
「そうなんですか? それじゃぁスタンピードを終結させるための突入が出来ないじゃないですか」
「そこでだ、半島の根元で魔物の侵入を遮る事が現在出来る最善手になる。ダンジョン以外の権利は中国側も現状では持っていないからね」
「でもそれだとジャフナの町は壊滅してしまいますよね」
「権利を持っている中国が戦力を投入して抑えない限りは間違いなくそうなるだろう」
「中国と言えども、劉さん達の部隊以外ではスタンピードを抑えるなんてできないですよ?」
「そうだろうね、恐らく劉大校の言ってたようにそれを画策する勢力があるのだろう」
「じゃぁD-CANとしてはどう動くんですか?」
「まず、中国にダンジョンの権利を放棄させる。条件は北京の結界構築だね。北京の広さは、四国全土に近い広さがあるんだけど、心愛ちゃんの能力で広域結界を張る事は可能かい?」
「今のままでは難しいですが……手段がないわけではありません」
「そうか、その話をスリランカが中国に対して抱えてる負債と相殺で提案する。そしてスリランカ政府の負債はD-CANに対しての負債となる。金額として二兆円ほどかな」
「そんなすごい額だったんですね……」
「D-CANがスリランカに対して求めるのはアンリさんの部隊『クリスマスホーリー』の本拠地をジャフナ半島に置く許可だ。これも既にスリランカ側とは内々に話は出来ている。勿論、決してジャフナ半島の人々を追い出すわけではなく共存していくつもりだからね」
「そうなんですね。後は中国政府との話だけになりそうですけど、冴羽社長は伝手はあるんですか?」
「流石に中国政府との繋がりは無いから、スタンピードが起こってしまったタイミングでスリランカ政府から、世界に向けて救助要請を発信してもらう。それをWDAを通じて今回の被害の全ては、ダンジョンを管理していた中国の責任でありその賠償を行う責任があると声明をださせる。そのタイミングでD-CANが手をあげ、北京の結界構築とバーターでスリランカの権利を放棄させれば、ほぼ、こちらの思惑通りに話がまとまるだろう」
「結界構築に関する費用がほぼ二兆円になるって事ですか? 金額が大きすぎてよくわからないんですけど……」
「北京の広さから考えたら二兆円なんて格安だと思うよ?」
「わかりました。私はそれまでに広域結界を北京全土に張れるようになっておけばいいんですね?」
「よろしく頼むね」
さぁ恐らく北京全体を包めるほどの結界だと、二段階は強化しないと無理だからお料理を二品作んなきゃね!




