第13話 希
シャワーを浴びてリビングに行くと、お母さんが買って来たお弁当を二人で食べた。
熊本に行って来たらしくて、辛子レンコンと馬のもつ煮込みが入っていて、私好みの味付けだった。
辛子レンコンは極端に辛いのは苦手だけど、今日のはちゃんとお味噌の香りもして美味しいと思った。
今度自分でもチャレンジしてみよう。
穴の中に隙間なく辛子味噌を詰めるのは結構難しいんだよね。
ポイントは辛子味噌の硬さかな?
馬のもつ煮込みは、生姜の香りがアクセントになって牛のもつ煮込みに比べると、お肉独特の臭みが無くて優しい味だったな。
ダンジョン産では内臓肉のドロップは見た事ないけど、手に入ったらチャレンジしてみたいな。
お弁当を食べ終わってテレビを視ながら寛いでいるとスマホに着信があった。
(誰だろう?)と思って画面を見ると希だった。
『希、どうしたの?』
『先輩、今日は色々ありがとうございました。あの後大変な事になっちゃったんですね……ちょっと今から先輩の家に行ってもいいですか?』
『別にいいけど希は疲れてないの?』
『疲れてないと言えば嘘になりますけど、どうしても先輩とお話がしたいんです』
『じゃぁ待ってるよ』
『もう家の前に着いちゃいました』
『ハヤッ』
玄関を開けると当然のように飛びついて来て、うなじの匂いを嗅ぎ始めた。
「お風呂上がりの石鹸の匂いも、癒されますぅ」
反射的に叩き落しちゃった。
「先輩酷いです。傷心の乙女の扱いが……」
「傷心の乙女は、うなじの匂いを嗅いだりしないからね」
希を食堂の方に案内して話を聞く事にした。
「先輩、酷いんですよ……あの後すぐに昭君と日向ちゃんの家に電話して迎えに来て貰ったんですけど、私と悟が擦り傷程度だったのを見て『貴方たち二人は大けがをした二人を見捨てて自分達だけ助かろうとしたの?』っていきなり言われちゃって、昭君がちゃんと弁明はしてくれてたんだけど、ご両親は全然私達を信用してない感じで、しかも先輩の事も『じゃぁその人はポーションⅢって言うお薬を持っていたのに使ってくれなかったの? どんな守銭奴なのよ、一言文句言わないと気が済まない』とか言い出しちゃって、もう呆れて何も言えなかったです。挙句に『もう二度とダンジョンなんかに近づかせたりしませんから貴方達も二度と誘ったりしないでよ』って言われて、何か全部人のせいなんですよ、酷いですよね」
「うーん、気持ちが解らないでも無いけど、それは酷いよね。私も生死をさまようような状態だったら、迷わずポーションでも何でも使ってたけど、意識もはっきりしてる状態だったし、同じパーティで狩ってた訳でも無いんだから、原価で分けるのは最大限の譲歩だったと思うんだけどな?」
「全然先輩の言い分は、間違って無いと思います」
「面識があるのは希だけだったしね」
「でも先輩に持たせて貰ってた『ポーションⅠ』が無かったら、あの状態でも出血多量で死んだ可能性もあったのに……」
「まぁしょうが無いわよ、希はどうしたいの? それでもまだダンジョンに行く事を続けるの?」
「ちょっと迷ってます。私達じゃ今日のミノタウロスに手も足も出なかったですし、今後また同じ事が起こるかもしれないと思うと正直凄く怖いです」
「それが当然の感情だよ、迷いが有ったり怖いと思いながら戦ったりすると、必ず大きな怪我をするよ。その状態で希にダンジョンに行って欲しくは無いな」
「……先輩、そう言えば先輩はミノタウロスの所に行ったんですよね?」
「うん、行ったよ」
「どうだったんですか?」
「うん、貴方達の後に挑んだパーティの人達が沢山倒れていたわ」
「それって、死んでたんですか?」
「そうね……」
「先輩が行った時には、まだミノタウロスって居たんですか?」
「居たよ」
「どうしたんですか?」
「倒したよ」
「えぇぇええ、どうやって倒したんですか? 先輩って一人ですよね?」
「普通に倒せたよ?」
「先輩、どんだけ強いんですか?」
「普通だよ」
「絶対嘘」
「普通だってば」
「だって先輩、言ってたじゃ無いですか、ミノタウロスは十層の守護者だって」
「確かに言ったね」
「十層をソロ討伐できる人なんて、聞いた事ないですからね」
「そう? 私はパーティを組んだ事無いから、それを言われても良く解んないわね、さっき希も言ってたでしょ? 一緒に狩りをしたりするとそれに伴って面倒事もついて廻るからね。私は一人でいいよ」
「でも、もし先輩が同じくらいの強さの人達とパーティ組んだりしたら、二十層とか三十層とかで狩りして超お金持ちになれるんじゃないですか?」
「どうでしょうね? 一人でも別にそれは困らないわよ?」
「ぇ……それってお金は困って無い宣言ですか?」
「まぁ……そうかな?」
「先輩、私を買って下さい。いえ、飼って下さい」
「嫌」
「何でですか? この超絶可愛い美少女をあんな事やこんな事に使い放題なんですよ? 絶対お買い得ですよ?」
「今の所間に合ってるし、守りながら戦う事自体が余計に負担が増えるだけだからね、さっき希も言ったでしょ? 同じくらいの強さがあるなら別だけどね」
そんな感じで希と話してると再びスマホに着信があった。
杏さんからだった。




