第100話 【閑話】心愛のルーツ
~~~~
今回は百話記念の短編です。
心愛のお父さんの話だよ。
~~~~
この世界にダンジョンが現れて一年が経った。
俺にとってこのダンジョンと言う存在は胸が躍る事だらけだ。
今まで見た事の無いような食材も沢山ある。
既存の物と同じような食材でも味わいが全く別物だ。
俺の料理人魂が訴えかける。
もっとうまいもん作れるだろ? てな。
俺の一人娘、心愛はまだ小学校の六年生だが、どうやら料理に関しては俺の血を引いてくれてるみたいだ。
母親の翔子の料理センスを引き継がなくて良かったぜまったく。
朝から甘い味噌汁を飲む生活はちょっと俺には厳しいからな。
しかし俺の料理人としての矜持が、料理を粗末にすることを許さないから、出されたものは全て綺麗に平らげて恵みに感謝する。
心愛の料理は、すでにその辺の料理人と比べても遜色は無い。
親としての贔屓目?
無いとは言えないが、冷静に判断してもレベルは高い。
まったく先が楽しみだ。
だが俺は生涯を美味いもんを作る事に賭けた男だ。
まだまだ負けれねぇ。
和食の職人として、旅館での経験を積んだ後は、中華、フレンチ、イタリアン、エスニックに韓国料理、何でも貪欲に学んで取り込んで来た。
美味い料理をお客さんの顔を見て提供したいから、こじんまりとしたオープンキッチンと広いカウンターの食堂を開いた。
俺の腕を買ってくれる旅館やホテル、有名料亭やミシュランの星を持ってるレストランまで、幅広い店からの声もいまだに掛かるが、お客さんの顔を見て、その人が今食べたい物を判断して提供できる。
そんな店じゃ無いと俺には満足できないんだ。
だからこの大衆食堂『心愛』が俺には何よりの宝物なんだ。
◇◆◇◆
今日も食材の調達だ。
ダンジョン産の食材を大衆食堂で提供するには業者から仕入れてたんじゃ到底無理だ。
俺自身がダンジョンに潜って、直接獲って来たら仕入れは無料だからな。
だから、うちの店には常連がとても多い。
例えばだ。
今日狙っているミノタウロスの極上霜降り肉。
こいつを業者から仕入れたら一キログラム当たり二万円の高額食材だ。
そんなもの店で出したら一体いくら貰えば店を継続できる?
だが俺が倒して持って帰れば、お客さんの笑顔が沢山見れる値段で提供できる。
さぁ今日も十層のボス部屋周回だ。
この階層には、まだ他の奴らは来ないからな。
いつも貸し切りだ。
俺のランキングプレートの文字色は、この日課のミノ肉調達のせいで、恥ずかしい事に派手な色だ。
こんなもん誰にも見せれないぜ。
ダンジョンでは協会ランクのAランク探索者のカードを見せるだけだから、それは何人かは居るし気にならねぇ。
何週目かのボス部屋周回をした時だった。
やべぇ……何だこの敵はレアボスか? いや違うな。
何度かレアボスには出会ってる。
真っ赤なミノタウロスがそうだからな。
こいつは、まずでかさも違う。
ミノタウロスはせいぜい三メートルだ。
こいつは五メートルを優に超える。
牛の形ではあるが格が違う。
やるしか無いな。
美味しく食ってやるから成仏しやがれ!
やべぇ、俺のナイフが刺さらないぜ。
俺は、食材の解体は極めてるからナイフ一本で動物であれば、問題なく捌けるんだが刃が刺さらなければ話は別だ。
どうする?
そうだな、皮が斬れないなら切れる場所に刃を立てれば良いだけだ。
渾身の力を込めて、目ん玉に刃を突き立てたぜ。
その後は……記憶がない。
どこだ? ここは? 俺は死んだのか?
あのバカでかい牛はどうした?
解らんな。
「気付いたか? あんな所でゴールドランカーが倒れてるなんて驚いたぜ?」
「誰だ?」
「俺か? レジオンのアンリだ」
「レジオン? 傭兵か? 何で博多のダンジョンにレジオンが居る?」
「人材不足でな、世界中のダンジョンでスカウトをしてるぜ、だがここは博多じゃ無くてパリだがな」
「パリだと? あの牛はどうなった?」
「俺が通りかかった時にはお前がミノタウロスにけられてる所だった。お前のランクなら、ミノタウロス程度じゃ相手にならんだろうから不思議だったが、殺されかけてたから斃してお前にはポーションⅢを掛けて置いた」
「そうか、良く解らんが助かった。それに俺はゴールドじゃない、ランキングは二十五位のシルバーだ」
「自分のプレートをよく見てみろ」
「こ、これは八位か……あの牛どれだけ強かったんだ?」
「恐らく三十層以下のボスだろうな。今の時点で二十五位から一気にシングルになれる程の敵なら、それくらいでないと無理だ」
「で、俺は何故ここに居る」
「ああ、俺のギフトで契約って言うんだ。契約期間は俺の言葉に逆らえない。助けてやったんだから少し付き合え、四年間だ。レジオンで働いて貰う。強制力が働くのはその一点のみだ。レジオンから逃げ出せない以外は何の効果も無い」
「俺は博多に家族がいる。俺の料理を待つ客もいる。無理だ」
「お前は俺が通りかからなかったら死んでた。家族も客も関係なくな。だが俺が助けたから四年後には家に帰れる。料理がしたけりゃ俺が客をしてやるさ。何より食材集めならフランスのダンジョンが世界一の品揃えだぞ」
「何だと? それは嘘じゃ無いのか?」
「ああ、食材は最高だ」
「解った四年間だな、家族には俺は死んだ事に出来るか?」
「そうだな、レジオンに入れば別人としてのお前の戸籍が用意される。それにダンジョンで行方不明だ。誰もがお前は魔物に殺されたとして疑わないだろう」
「そうか、家族に俺の財産だけは渡せるか?」
「俺が使いに出よう。お前の遺品だと言って武器とマジックバッグでも届ければ、納得するだろう。現金を日本円で三億円ほど入れておけばいいか? ゴールドランカーの契約金としては少し安いが、死にかけてたの助けたんだからいいだろ?」
「ゴールドか、どの程度の価値があるのか解らんな?」
「ギフトって念じてみな」
『ギフト』
【クリエイトポーション】
様々な効果を持つポーションを作成できる。
指定したボトルの中に、特殊クリスタルを製造。
ボトルを満たすだけのポーションが作成される。
何だか意味の解らん能力だ。
「四年だな?」
「ああ」
『……心愛、母さんを頼むな』




