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限界社畜、中年マギア〜契約完了から始まる奇妙な共同生活について〜  作者: 不死猫
序章

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4/4

第四話 飼い猫契約?

「にゃー」

 アパートの階段を登る間。

 黒猫は腕の中で大人しく丸まっていた。


 扉を開けて、部屋に入る。


 何も変わらない部屋の中には、やはりライカの姿はなかった。

 だけど……もしかしたら。

 非現実的で、荒唐無稽な想像が脳裏をよぎった。

 

 俺は、黒猫に視線を落とし、


「ライカさん……人間になれますか?」

 そう聞いた。

 ありえない。だってライカは人間で、この子は猫だ。

 だけど……この黒猫の毛並みの心地よさが、朝の彼女の黒髪の感触にとても似ていた。

 ただ……それだけだ。


「にゃ……」

 黒猫の身体が小さく震える。

 顔を上げて、俺を見つめるその金の瞳には、どこか不安と恐怖を孕んでいるように思えた。


「大丈夫だ、悪いようにはしない」

 そう言うと、伝わったのか。

 黒猫は意を結して、床に飛び移る。


 そして————。

 

「ニャァああああああ!!」

 黒猫が甲高い鳴き声をあげた。

 次の瞬間。

 

 黒猫全身が発光し。

 部屋全体を覆うほどの光に包まれ、俺は思わず目を閉じる。

 

 それから数秒もしないくらいで。

 音が消えて、光は収まった。


 だけど、そこに黒猫の姿はなかった。


「やっぱり、ライカさんでしたか」 

 さっきまで黒猫がいた、その場所には。

 見覚えのある少女が立っていた。


「なんで、分かったんですか?」 

「んー……なんとなく、としか言えないですね」


 まぁ正直、自分でも驚いている。

 ファンタジーでもあるまいし、猫が人間になる。いや、人間が猫になっていたなんて事、普通は考えもしないだろう。

 

「はぁ……でもまさか、猫になってまでついてくるなんて」

「それは……私が普通の犬猫なら、ここに置いてもらえると、思って……ごめんなさい! でも、お願いします! 少しの間でいいんです。ここに置いて下さい!」

 

 なるほど。

 いや、わからん。そんな超能力? があるなら、もっと別の場所があるだろうし、なんでここにこだわる必要があるんだ?

 もしかしたら、何か事情があるのかもしれないが……。

 

「お願いします! お願いします!」


 泣きながら懇願するライカを前にして、俺はどうするべきなのかわからない。


「まぁ、僕にも責任ありますし、数日分くらいならホテル代も出しますし。だから」

「それじゃダメなんです!」

「なんで……」

「私が……魂縁契約(エンゲージ)を結んでしまったから————ぁ」


 なんだ? まるで「言ってしまった」とでも言いたげな表情だ。

 ライカの口から漏れた、謎の単語に、俺の困惑はさらに深まった。

  

「その……エンゲージってのは、一体」

「……魂縁契約(エンゲージ)と言うのは、使い魔と契約者の魂を繋げる、魔法……です」

「魔法、か」


 まぁ、超能力みたいなのもあったし、今更か。


「そのエンゲージってのは……解けないの?」

「……わかりません。通常、解除するような魔法ではないので」


 エンゲージ……エンゲージ。

 思いつくのは、結婚か。

 確か、宗教的には離婚は原則禁止なんて決まりもあるらしい。

 それと同じような思想なのだろうか?


 つまり、俺と彼女は今結婚している状態と言える……?

 いや待て待て、これは魔法とかいう不思議世界のルールであって、書類上はまだ大丈夫だ。

 彼女が成人済みなら……。

 

「あの、悪いけど、君は今いくつ?」

「え、えっと……15歳です」


 アウト!!

 

「悪いけど、たとえ同意の上であっても、未成年の女の子と長期間同居なんて、法律的にも、社会的にも許されないんだよ。だから、流石に」

「待って、待ってください! 大丈夫です。 私、猫になれます! ただの猫ですから!」

「いや、そう言う問題じゃ……」


 それに……たとえ、それら全てを許容したとしても、俺に女の子一人養えるだけの余裕はない。

 ブラック企業勤務で、ただのおっさんの俺なんかより、もっといい人がいるはずだ。

 だから、お金を渡して、帰ってもらおう。

 そう、提案しようと、口を開きかけた時……。



「私……まだ、死にたくない」

「……死ぬ? それって、どういう……」


 ライカは、悄然としたように、ポツポツと語り始めた。

 

「私……化け猫と人間のハーフで。

 猫の姿と、人間の姿に……変われるの。

 で、数日前……事故に遭って。

 本当に、死ぬところだった」


「でも、今は生きてるじゃないか」


「……うん。でもね」

 ライカは一度、言葉を詰まらせた。


「ハーフって、とても不安定なの。

 化け猫は霊体。

 人間は、ちゃんとした肉体を持ってる

 私は、そのどっちでもあって……

 どっちでもない存在で

 人間なら、怪我をしても……身体が傷つくだけ。

 魂は、無事でいられる」

 

 彼女は目に涙が滲ませ。

「でも私は……」と小さく震える声で、続ける。


「身体の傷が、そのまま魂に行っちゃうの。

 たとえ身体が治っても……

 魂に傷が残ったら……もう、治らない」


「エンゲージには、魂を癒す効果があると言うことか?」

 

 だが、彼女は首を横にふる。


「うんん。魂縁契約(エンゲージ)自体に、魂を癒す力はない。

 でも、傷をこれ以上広がらないようにしてくれる。

 それに……私に、ちゃんとした肉体をくれる」

 

 そこで、ようやく俺は、

 彼女がどうして、エンゲージなどという契約を結んだのかが分かった。

 

 今朝、彼女は「家族になる」なんて言っていた。

 でもそれは正しくないのだろう。

 実際は、自分が生きるための最善だったのだろう。

 

 そして……おそらく、まだ彼女は何かを隠している。


「そこまでは分かった。それで、どんなデメリットがあるんだ?」

「————ッ」


 あるはずだ。

 彼女がここまで、この部屋に止まらざるを得ないほどのデメリットが。

 

「……契約者と離れすぎる、または、契約を無理に解こうとすると魂が引き裂かれて、最悪二人とも————死にます」


 そう、死————4?


「え、死ぬの!? 俺も?」

「はい」

「やばくね?」

「……はい」


 これは怒った方がいいのだろうか。

 知らない間に、命をベットさせられていたようなものだ。

 

「ごめんなさい……勘違いで契約を結んだのは私です。

 解く方法は、わからないけど、ないことはないと思います。

 だから、契約解除までの間だけでいいので……その間だけ、ここに置いて欲しいんです」


 これはもはや懇願ではない。

 彼女の心中がどうであれ、これは脅迫。

 俺には、頷く以外の選択肢はない。


 だけど、それでも、心から迷いが消えない。

 選択しきれない自分がいた。

 

「やっぱり……あなたも、私を捨てるんですか?」

「……ッ」

 

 彼女の言葉が、俺の心を抉る。

 ここで見捨てたら、本当に俺は“あいつ”と同じになってしまう。


 それに……何も決められない自分は、もう嫌だ。


「ごめん。俺は君を守れない。

 俺は君の家族にはなれない」


 それは嘘じゃない。

 俺が彼女にしてあげられることなんて、何もない。


 それでも————。


「だけど……見捨てることもしない」


「それって……!」

 

「契約解除までの間だけだ。

 でも、その間は……君が生きるのを、邪魔しない」


 俺が右手を差し出すと、彼女は顔を上げて微笑んだ。

 その笑顔に、胸の奥が少し痛んだ。

 守れないと分かっていても……見捨てられなかった理由が、そこにはあった。

 

 そうして……俺と彼女、二人の奇妙な共同生活が始まった。

最後までお付き合い頂き感謝します!


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