第8話 しっぽ⁉
何度も試してみても。
わたしの掌の中に水はたまらなかった。
「うー……。わたし、才能がない……?」
初めから、ドンドンバアーンって、才能が爆発するとは思ってはいないけど。
全く何もできないというのは……ううう。
金色のキラキラはすぐ見えたんだけどな……。
アンディ兄様は何か考えていた。
わたしの才能のなさに、呆れている……のじゃないといいんだけど。
しばらくの後、考えながら、アンディ兄様は言った。
「できない、わからない……のは、例えるのなら、どんな感じでできないのかな?」
「えっと……、キラキラは見えるんですけど、そのキラキラを動かすのって……。なんて言うか、犬とか猫とかには尻尾があるけど、わたしやアンディ兄様には尻尾がないでしょ。そのない尻尾を動かせって言われているみたいで。どうしたらいいのか、皆目見当がつかない……」
わたしがそう言ったら、アンディ兄様は「なるほど」と頷いた。
「じゃあ、実際に尻尾を作って、動かしてみよう」
「へ……?」
驚く間もなく。わたしのお尻のあたりがキラキラしたがと思えば。
「ね、猫しっぽおおおおおおおお!」
毛が長くてフサフサとして、もふもふとして、太くて長い尻尾が!
わ、わたしのお尻に!
ひゃああああああ……!
「うん、かわいい」
ちょっと待て、兄様。かわいいじゃなくて、これをどうしろとーっ!
「あはははは。バサバサ動いてる! ほら、動かせてるよニーナ!」
え、いやそのっ! 動かそうと思って動かしているんじゃなくて、勝手に動いちゃっている感じなんだけどこの尻尾は!
「じゃあ、意識して動かしてみてよ」
「い、意識……」
ゆらりと振って、パタパタと動かして。金色のキラキラを、鱗粉を振りまくみたいに。
うわあ、わたし、ないはずの尻尾を動かしているよ! しかも自分の意思で!
「尻尾を動かすのと同じ感覚で。川に流れている水も、ニーナと繋がっていると思って」
尻尾みたいに、川の水も、わたしと繋がっている……。
「そうそう。繋がっているのを引き寄せる感じ。尻尾を右に動かしたり左に動かすのと同じで、水を自分のほうへと引き寄せるって言うか、動かす」
尻尾のパタパタと、水を引き寄せるののを同じように?
遠くの水をすくおうとするんじゃなくて、引き寄せる……。
わたしは右手を川のほうへと向けた。
水を、こちらに、引き寄せる……。
右手で、左手を掴んで、それを引っ張るみたいに……。
ええと……、魚釣り、みたいなモノかしら?
絵本で見ただけで、やってみたことはないけれど。
釣り竿を、ひゅんって振って、釣り糸と釣り針を、水の中に沈めて、魚が釣り針に引っかかったら、それをグイって引っ張って吊り上げる……のよね、たしか。
やってみたら、何やらつかめたような感触が、した。
冷たい流れ。
本当ならつかめないはずの水が、キラキラと混じって、まるで魚みたいな形に固まる……。
「そうそう。それを、グイっと!」
引き寄せるというよりも釣り上げる感じで。
魚の形をした水を引きよせられた。
水が、キラキラと輝きながら、わたしのほうへとやって来る。
それが、わかった。
と、思ったら……。
魚の形をした水が、わたしの顔に一直線に飛んできて……。
「わっ!」
バシャンと、音と立てて。わたしの顔も、体も、水浸しになってしまった。
水滴がボタボタと地面に落ちる。
思わずわたしは茫然としてしまった。
「ん、すごい。さすがニーナ。いきなりすごい大量の水を引き寄せたね」
偉い偉いって、アンディ兄様は頭を撫でてくれるけど。
あの、それよりも……タオル、ください……。
***
同じことを何度か繰り返した。
そして、そのたびに、わたしは全身ずぶ濡れになった。
アンディ兄様の温風と乾燥の魔法で、一瞬で乾かしてもらえたからいいんだけど。
普通だったら風邪とか引いちゃうレベルで濡れたわ……。
でも、なんとなく、水を引き上げる感覚は、つかめてきた。
何回もずぶ濡れになった甲斐があったわ……なんて。
「そのうち、水の感覚がつかめれば、実際に川なんかなくても、容器の中に水を溜められるようになったりするからね。いつでも飲み水が確保できるよ」
そんなことまでできるのか、魔法って、すごい……。
で、実際に。
丸太小屋の中に帰ってから、アンディ兄様は床に洗面器よりも大きい容器を置いて、その容器の中を水で満杯にして見せてくれた。
わあ……。
「あ、ついでにこれ、お湯にしちゃうから。ニーナ、お風呂……っていうか、足をお湯につける程度だけど、温まりなよ」
え、えっと……、足をお湯につける……って。
「それよりも、ちゃんとお風呂に浸かったほうがいいかな?」
そういえば、昨日はお風呂に入っていないのよね……。
うん、体を温めたい。体も洗いたいな……なんて。
でも丸太小屋の中にはお風呂はないし。
「じゃ、ちょっと待って」
アンディ兄様は洗面器よりもちょっと大きいだけだった容器を、わたしが中に入って足が延ばせるくらいに大きくした。
そして、そこにはホカホカのお湯が!
すごい!
アンディ兄様の魔法、すごい!
だけど。
衝立で仕切っただけの部屋の中で、アンディ兄様もいるのに、わたし、お風呂に入る……? ちょ、ちょっとそれは……、ええと、きょうだいだからとはいえ、は、はずかしい……かな……。
「あ、大丈夫! ニーナがお風呂に入っている間は、ボク、ちゃんと丸太小屋の外にいるから!」
「いいんですか、アンディ兄様」
わあ! アンディ兄様っては、気配りのできるイイオトコ!
「うん、ドアの外に座っているよ。お風呂入って、着替えたら、ドアをノックしてくれればいいよ。そうしたら濡れた髪とか魔法で乾かしてあげるから」
気遣い、ホントありがたい!
感謝をどれくらいしても足りないわ!
我が兄は、神ですか! なーんて、へへへ。
そうして、わたしはありがたく、あったかいお湯に浸かって、のんびりとリラックスさせてもらったのだった……。