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第6話 アンディ兄様は不思議

 朝の市場で朝ごはんを食べたあと。

 果物とかも買って、当面暮らすための宿を探した。

 魔法学校の試験を受けるための長期滞在型の宿がブライトウェル魔法王国にはいくつもあった。

 今年の試験に不合格な場合、そのまままた一年間宿に泊まり続けて、次の年の試験に合格することを目指す……という受験生もたくさんいるらしい。

 ううう、試験、難しいのね……。

 でも、一か月で受かるようにならないと!

 で、わたしとアンディ兄様が借りたのは、王都郊外の、丘陵地にある……、えっと、宿というか、山とかによくあるような丸太を組んで作られた小屋である。ロッジというらしい。

 そんな丸太小屋が十五棟、ずらーっと一列に並んでいて、小屋の北側には川も流れている。

 南側は広場というか、いくつかポールが立っていて、そのポールとポールの間にロープを張って、洗濯物を干したりできるらしい。

 うーん、なんとなく野営地みたいな感じ? 川の向こうは森になっているし。

 わたしたちはその丸太小屋の一棟を借りた。

 王都中心の宿は高いし、それに魔法の練習をするなら、郊外のほうがいいって。まあ、試験の前日は魔法学校の側の宿に移る予定だけど。

 ここが一か月、わたしとアンディ兄様が暮らす場所。

「とりあえず、魔法の練習の前に、生活基盤を整えよう」

「はい!」

 丸太小屋には暖房用兼煮炊きもできるようなタイプの暖炉、ベッドやテーブルや椅子といった最低限の家具は備え付けられていた。だけど、お皿とかフォークとか、タオルとか、毛布とか、そういうものはない。

 アンディ兄様と一緒に、市場に行っていろいろと生活備品を買い込んできた。

 買い込む前に、丸太小屋の掃除をしたほうがいいんじゃないかなーって、わたしは思ったんだけど……。掃除はアンディ兄様の魔法で一瞬で終わった……。

 す、すごい、便利! 埃っぽかった小屋の中の空気が、いきなり清浄に!

「アンディ兄様、すごいです!」

 本当にアンディ兄様は伝説の魔法使いかなのかもしれない。

 でも……、わたしが覚えている限りは、アンディ兄様はごく普通の、いや、本の虫だけど、伯爵令息でしかなかった……はず。

 うん、少なくとも、これまでアンディ兄様が魔法を使っているところなんて、わたしは見たこともなかった。

 お父様とかお母様は知っていたのかな……?

 話に出たこともなかったし。うーん。

 魔法以外にも、隣国の魔法学校のことを知っていたり……。

 何で、いろいろと知っていたり、いろいろ出来たりするんだろう?

 買い物とかもそう。

 わたしは、というか、普通の伯爵令嬢や令息は、使用人に、こういうものが欲しいから、商人を呼んで頂戴と命令して、やってきた商人に欲しいものを言って、手に入れるものよね。少なくとも我が家はそうだった。

 自分で市場を回って、お店を見て、お金を支払って買うなんてこと、したことがないはずなのに。

 元々馴染みのある場所のように、さくさく市場を回って、必要なものを買っていく。

 う、ううん……? 

 やっぱりどう考えても不思議だなあ、アンディ兄様って。

 伝説の魔法使いの生まれ変わりだから、何でもできるのかなあ……?

 気になって、兄様に聞いてみたけど……。

 にこっと笑って「まあ、それはそのうちに」と誤魔化されてしまった。

 でも気になる。

 一緒に過ごせば過ごすほど、気になることは増えていく。

 どうして、洗濯の方法を知っているの?

 どうして、お茶を淹れたり食事を作ったりできるの?

 暖炉に火をつけて、その天板っていうのかな? そこにヤカンを置いて、お湯を沸かすとか、伯爵令息が、どうしてサクサクできちゃうのかな?

 使用人の経験でもあるの?

 本を読んで、手順を知っている……というだけでは説明のつかない手際の良さ。

 不思議だ。

 考えても分からない。

 いえ……、アンディ兄様がいろいろできるのは、正直ありがたいんですけど。

 だって、アンディ兄様のおかげで、将来への見通しが立っただけではなく、生活基盤があっさりと整っちゃったんだもの。

 わたし一人だったら、今頃……国を出ることもできずにうろうろしていただけよね、きっと。

 ううう、わたしが無能というのではなく、世間知らずの伯爵令嬢なんて、きっとそんな程度でしょう?

 アンディ兄様が有能すぎる。

 おかしささえ感じるほどに。

 でも、それほどにアンディ兄様がいろいろできるから、わたしはその恩恵にあずかっているのだ。

 とりあえず、アンディ兄様の不思議は保留にしておこう。

 きっといつか、話してくれる時が……くる、かな? 来るよね?

 なんて言っているうちに、もう夜。

 アンディ兄様のおかげで、ベッドにはふかふかの布団と毛布がある。

 ついでに部屋を仕切る衝立もある。

 ほら、小屋の中って、壁で区切られているわけじゃないから。

 きょうだいとはいえ、年頃の男性と女性が一緒の部屋というのは……と、わたしが言ったら、アンディ兄様が用意してくれたの。もちろん魔法で。

 で、わたしのベッドのほうを、衝立で囲って、簡易的な小部屋をつくってくれた。

 うん、ありがたい。

 ホント、 家出一日目にして、安心して眠れる環境になったのは、すべてアンディ兄様のおかげなのよ。

 ありえない……とかも思っちゃうけど、ありがたい。 

 家出……っていう悲壮感なんてなく、安心して、わたしは熟睡してしまった……。


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