第5話 ブライトウェル魔法王国
ブライトウェル魔法王国は、これまでわたしが暮らしていたアドネア王国の隣の国。
アドネア王国は、それほど魔法は発達していないけれど、ブライトウェル魔法王国は最先端の魔法が学べるらしい。
金色の橋を渡るようにして飛んで。そのブライトウェル魔法王国に着いた頃には夜が明けていた。
うーん、朝日が目にまぶしい!
「さ、着いた。もう少ししたら、どこかの屋台で朝食を食べて、それから宿を探そう」
一晩中起きていたし、初めてで、しかもいきなり大きな魔法を使ったから、眠いでしょうと、アンディ兄様はつけ加えてきたけど。
神経が高ぶっているのか、わたしは全然眠気なんか感じなかった。
「とりあえず、無事に着いたけど……。アンディ兄様、聞いていい?」
「ん? 何?」
「どうしてこの国に来たの?」
「あ、それだね。ブライトウェル魔法王国には魔法学校がいくつもあるんだけど」
「うん」
「そのうちの一つ、王都にある中央魔法学院の入学試験が一か月後にあって」
「試験が、一か月後……?」
「で、入学試験の成績上位五名は、授業料、生活費、寮費、すべて無料になるんだ」
む、無料⁉
「それって……住むところとか、食事とか、すべて賄ってもらえるってこと……?」
「うん。それに加えて新しい魔法を開発すれば、報奨金も出してくれるって。家出先としては最高だろ?」
ただし、三年間、成績優秀じゃないといけないけどね……と、アンディ兄様は笑った。
アンディ兄様は、金色の橋を作り出して、アドネア王国からブライトウェル魔法王国へと跳躍の魔法を使えたほどの力を持つ。
なら、魔法学校に今さら入学する必要はない……よね。
生活費とか住むところのために入学するのか……。
それとも、わたしと一緒にいてくれるため……とか?
だけど、それよりも。
「わ、わたし……成績上位五名になんて、入れるのかな……?」
今、初めて、わたしは魔法を使った。
だけど、それはアンディ兄様が導いてくれたから、使えたようなもの。
試験に、合格するのは、わたし一人の力で成し遂げないといけない。
で、できるの?
「入れるように、試験までの一か月間、このボクがみっちり魔法を教えてあげるから大丈夫」
「兄様……」
わたしは少し考えた。
鞄の中の宝石やアクセサリー。それを売れば、多分、一年程度は平民として暮らすことができる……はず。
でも、その先は?
お金が尽きたら終わりになる。
魔法学校に入学出来れば少なくとも食と住の問題は片付く。卒業出来たのなら、きっとこの国で、魔法を使うなんらかの職に就くこともできる……はず。
アンディ兄様の言う通り、家出先としては理想過ぎる。
問題は、ただ一つ。
試験に合格して、しかも上位五名のうちに入らないといけないだけ。
その、だけ、が、きっとすごく難しいのよね……。
でも、一か月で、わたしは、その難しいことをやらないといけない。
だって、お金がある間は家出もできるけど、お金が無くなったら家に帰って、お父様とお母様の言う通りにリチャード様と結婚……なんて、絶対に嫌。
「大丈夫だよ、ニーナ。絶対合格するよ。この伝説の魔法使い、リアム・リードーマが魔法を教えるんだから」
アンディ兄様が伝説の魔法使いなんて、ちょっと信じられないんだけど。
うん、妄想とか、前世というものがあるとして、その前世がリアム・リードーマだったとか……うーん、判断がつかない。
だけど、アンディ兄様は、わたしが魔法を認識できるようにと、キラキラを見られるようにしてくれた。それに、隣国まで跳躍するような魔法が使えた。
超有名、伝説級の魔法使いじゃなくても、アンディ兄様はきっとものすごい魔法使いなんだ。
そのアンディ兄様が大丈夫って言ってくれているんだから、大丈夫。
わたしは、アンディ兄様を信じて、突き進むしかない。
それに、家出先の生活保障というだけではなく、わたし、魔法自体に興味がある。
金色の、キラキラ。
すごくキレイだった。
魔法の金の橋を渡って隣国まで来たなんて、実体験したのに信じられないくらいすごい。
魔法って、すごい。
だから、わたしは、丁寧に頭を下げた。
「アンディ兄様、よろしくお願いします。わたし、魔法をおぼえて、魔法学校に入学します。それで、成績上位を保って、ちゃんと卒業して、すごい魔法使いになる」
そう言ったら、アンディ兄様は「任せなさい」と、薄い胸を叩いて見せた。