表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/46

第45話 ハッピーエンド(最終回)

本日二つ目の更新です

 

 金色の橋を渡って、しばらくすると、海辺に着いた。

 誰もいない、暗い夜の海。

 だけど、月と星で、お互いの姿ははっきりと見える。

「暗かったら、魔法で明かりを灯すけど」

「ううん、大丈夫。だってほら、夜空の月と星で、十分明るいから」

 そうだね……ってリアム様が微笑んで。

 そうでしょう……って、わたしも微笑み返す。

 静かな波の音。

 寄せて返す、そのリズム。

 いつまでも、二人で黙ったまま、その波の音を聞いていたいな……なんてことも思うけど。わたしは、息を吸って、言う。

「えっと、リアム様。相談というかなんというか……なんですけど」

「うん、みんなにも秘密の話? なんだよね?」

「その前に、えっと……。わたし、リアム様のおかげで、もう憂いはなくなりました。魔法も、この一年間楽しく学べて、わたしの今のしあわせは、全部リアム様のおかげだと思っています」

 本題の前に、改めて、感謝を伝える。

「それは……ニーナが一生懸命がんばったからだよ。ボクはきっかけを与えただけ。実際リチャード達との対決も、ボクはほとんど黙っていたようなものだし」

「でも、リアム様が居なかったら。わたし今頃……修道院暮らしとか、家出したけど悪い人につかまって売り飛ばされるとか、連れ戻されて、無理やりリチャード様と婚約を結ばされるか……、そういう未来しか、なかったと思う。毎日が楽しいなんて、絶対になかった」

 だから、まずはありがとう。

「それからね。Sクラスの一年目で、わたし、アゲハ蝶を作るような、物質を形状変化させる魔法とか、基礎的な知識とか、そういうのはある程度のところまで、できるようになったと思うの。だから、これからの二年目で、どんな魔法を学ぶのかって、考えていて……」

「二年目の魔法で、何を学ぶか、なの?」

 リアム様はちょっと首を傾げた。

 相談内容が、それなら、誰もいない場所で話すのではなくて、むしろハイマン先生にも参加してもらった方がいいんじゃないか……なんて、きっと思っているね。

 でも、それは……ちょっとね。だって、みんなの前で言うのは、恥ずかしいのもあるけど……。それよりも。わたしが本当に言いたいことは……。

「わたし、考えていることがあるんです。リアム様には、それの承諾をお願いしたいんです」

「承諾? ボクの?」

「はい」

「改めて言われなくても、ニーナがしたいことなら、ボク、応援するし、手は貸すよ?」

「はい。でも、きちんとリアム様に言いたいんです」

 だって、わたしが二年目……ううん、これから先ずっとしていきたいことは……。

 それを、今から言う。

 息を吸って吐いて。

 お腹に、力を溜めて。

 リアム様の目を見て。

「わたしの寿命が尽きるまで、ずっとリアム様と一緒にいたいんです」

「えっ⁉」

 予想外の言葉だったのか、リアム様が驚いて声を上げた。目も、大きく見開いて。

 びっくりさせちゃったよね。でも、わたし、言う。

「それから、わたしが寿命で死ぬとき。五十年後とか、百年後とかかもしれないけど、その時は、リアム様。わたしと一緒に死んでください」

 言って、詰めていた息を吐きだした。

「えっ、えっ⁉ ちょ、ちょっと待ってニーナ。ニーナが死ぬまでずっと一緒って言うのはもちろん喜んで、だよ? だけど、ボクは不老不死……」

 死なない、体。

 もうすでに、五百年以上生きていて。

 わたしと一緒に死ぬなんて、普通なら、無理。

 わたしが死んだ後も、きっとリアム様は、生き続ける。

 だけど、それ、わたし、嫌。

 楽しい人生がずっと続くなら、生き続けたいけれど、つらい人生なら死にたい。

 それが、前にリアム様が言っていた本音。

 永遠に楽しいなんてことは無理。

 きっとどこかの未来で、また、リアム様にとってつらい時間がやって来る。

 悲観的に物事を捉えているわけじゃなくて、人生なんて、いつ、どんな不幸がやって来るかわからないでしょう?

 わたしが死んだあとのリアム様の人生で、死にたいのに死ねないなんてことが降りかかったら……。

 その時には、わたし、なんにもできない。

 リアム様の側にいることも、助けることも、何もできない。

 仮に幽体になって、ずっとリアム様の側に漂い続けても……物理的に何にもしてあげられることはない。

 だから、わたし、リアム様の寿命を普通の人間に近づけるための知識を、技術を、習得する。

 一緒に生きて、それで、一緒に死ぬために。

「方法論は、完成しているわけじゃない。だけど、考え方の方向性は……いくつかあると思うの」

 リアム様の体を不老不死じゃなくする。

 なくすのが無理なら、変質なら?

 分けるのであれば?

 リアム様が一人で、五百年も考えて、実現できなかったことでも、二人でなら?

 一人じゃ無理なことも、二人だったらできるかもしれない。

「たとえばなんですけど、わたしとリアム様の魂と寿命を繋ぐことが出来たら。普通の人間の魂と肉体、それから不老不死の魂と肉体。その二つが混ざって、そして均等に分ければ。お互いに、長寿なだけで、寿命はあるって状態にならないかなって」

「計算とかじゃないんだから! 一足す一は二になって、その二を二で割ったら一になるみたいな、そんなこと……」

「できないとは思わないんです。数式で成立しているのなら、魔法でだって!」

「あ……ありえないって」

「誰もやったことがないだけでしょう? ありえないとまでは言いきれない」

 成功させるために、どんな魔法が必要なのかはわからないけど。

 金色のキラキラ。

 あれで、わたしとリアム様の寿命を混ぜて、二分割したら……って。

「失敗したらどうするんだよ! ニーナにどんな影響が出るかもわからないのに!」

「やってみて、失敗だったら次の手を考えます。影響も……してみないことにはわからないでしょう」

 魔法でダメなら、錬金術でも、魔術でも、なんでも覚える。魔法と魔術、錬金術の融合とか、重ねがけとか、可能性があるのなら、やってみせる。

「でも……っ!」

「でも、わたし。どんな影響が出ようとも、リアム様と一緒にいたいんです。リアム様を残して、一人で先に死にたくないんです」

 きっぱりと言った。

 この気持ちが、恋とかなのかは、正直分からない。

 だけど、リアム様。

 わたし、一緒に生きたいんです。ずっとずっと一緒に生きて、そして、せーので一緒にアンディ兄様の元に召されたいんです。

「わたしも不老不死になって、永遠に一緒に生きるっていうのもちょっと考えたんですけど。それだと永遠に、アンディ兄様の元へは行けないから。だから、ちゃんと寿命のある人生がいいなって」

「ニーナ……」

「だから、リアム様。もしもわたしのことが嫌いじゃなかったら、一生側にいさせてください。それで、わたしが死ぬとき、リアム様も一緒にアンディ兄様のところに行きましょう!」

 リアム様がいいよって言ってくれたら。

 わたし、実現させるために、努力する。

 二年じゃ、無理なら、三年でも五年でも、十年でも時間を費やす。

 十年が無理なら、わたしの寿命が尽きるのは……多分、五十年とか六十年後くらいでしょう。

 それだけの時間があれば。

 一緒に生きて、一緒に死ぬっていうことくらいできるはず。

 ううん、はず、じゃなくて、叶えてみせる。

 一生懸命に話すわたし。

 リアム様はなにも言わずに、ただ、わたしの話を聞いていた。

 そして……溜息みたいに、大きく息を吐きだして……。

「ニーナは、いいの? ボクのために、一生を無駄にしていいの……?」

 泣きそうな顔で、聞いてきた。

「無駄なんかじゃないです。わたしが、これからやりたいこと。学びたいことで、叶えたいことです」

 リアム様の唇が、開きかけて、そして、また閉じた。

「一緒に、いさせてください。そして、一緒に死んでください。それを叶えるための方法を、一緒に探してください。わたし、方法が見つかるまで、絶対にあきらめませんから!」

 泣きそうな顔のリアム様が、震える手をわたしに伸ばして……そして、壊れ物でも扱うみたいにそっと……。わたしを抱き寄せてきた。

「ありがとう……」

 波の音に、消えそうなくらいのささやかな、声。

「ありがとう……、ニーナ……」

 わたしも、リアム様の背中に手で触れる。柔らかく、抱きしめる。

 夜空には、月と星の光。

 地上には波の音。

 わたしの肩に、次から次へと落ちる涙。ショールが濡れて、着ている服まで滲みてくる。

 そして……、わたしの、心の、中にまで。

「一生をかけるくらい、大好きです、リアム様」

 自然に、わたしの口から、好きという言葉がこぼれて出てきた。

「ニーナ……」

 この気持ちが恋かどうかはわからない。

 だけど、きっとね、一生をかけられるくらいの大きな気もちだから……愛、と言ってもいいんじゃないかな。

 だから、繰り返す。

 海の、寄せて返す波のように。

「大好きです、リアム様」

 リアム様は、頷いて。

 そして小さく「ボクもだよ……」と呟いてくれた。




 終わり



 お読みいただきまして、ありがとうございました。

 これにて完結です。


 後程、登場人物設定とか後書きとか書きますね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ