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第42話 まるでプロポーズみたい

 待たせていた馬車に乗って、テキトウに遠くまで走ってもらう。どのみち暗くなって、人目につかなくなってから、金色のキラキラの橋を渡って魔法学校に戻るから、行く先はどこでもいい。

「お疲れ様、ニーナ、テレンス」

 リアム様が言ってくれた。

「それにしても、ニーナ。リチャードに対してあんな魔法を使うとは思わなかったよ」

 テレンス様が苦笑して言った。

「嫌いだって納得してくれるのなら、それだけでよかったけど。何を言っても分かってくれなさそうだし。付きまとわれるのは嫌だし。絶対に婚約なんか結べない方法で、わたしの身の安全も保障されて、更に、嫌いな男性から付きまとわれる不快感をリチャード様にもわかってもらおうと思ったら、女性化一択しかなかったの」

 単なる嫌がらせ……じゃないのよ、一応。

 うん、お胸の豊かな女性になれば、夜会なんかで出会う男性、それに男性使用人たちだって、リチャード様の胸に視線は集中するでしょう。その不快感を、身をもって知れ! わたし、リチャード様にじろじろ見られることも、ホント嫌だったんだからね!

「リチャード様は元々男性だから、どうしても、男性と結婚するのが嫌かもしれないけれど。そうしたら、わたしの気持ちもわかるでしょ。リチャード様との結婚なんて絶対に嫌って。わからなくても、もう関わり合いにならないんだから、どうでもいいけどね」

 さようなら、リチャード様。今後は女性としての人生を歩んでくださいね。ざまあみろ! なんてね!

 さてと、リチャード様とわたしのお父様とお母様のことに、一応の決着がついたので。

 今後はわたし、魔法学校で、魔法使いになるための勉強を、今まで以上にまい進するつもり。

 最初の一年は、『基礎魔法』を主に学んで、『魔法属性一覧 火、水、風、土、光、闇、無』という分類も理解して、アゲハ蝶を作ったり、進化系・モゲろ、つまりは『物質の形状変化』を比較的自在に操れるようになった。

 物質の形状を変化させるだけじゃなく、そこにある大きな魔法のエネルギーを変質させることだってできるようになった。なかなかのものだと自負してしまう。なんてね! マーガレット先輩みたいに、賞金稼ぎの域には達していないから、まだまだひよっこ魔法使い、だけどね。

 えーと、二年目は何を学ぼうかなあ……。

「リアム様。そういえば、治癒魔法の習得の進度って、どうなっています……?」

 リアム様は「うー……」と唸ってしまった。

 金色の橋を作って隣国まで行ったり、ドラゴンを魔法で作ってみたり、わたしがリチャード様にかけた魔法を固定化したり……。リアム様はすごい魔法をたくさん使えるんだけど……。

「ボクは……、治癒系の魔法の覚えが……悪くて……」

 適性っていうのもあるのかもしれない。

 魔法には火、水、風、土、光、闇、無なんていう属性があるけど、全属性が使える人なんてほとんどいない。どれかが使えれば、どれかが使えない。

 リアム様はいろんな種類の魔法が使えるけど、全部の魔法が使えるわけじゃない。

 それは当たり前だよね。

 なんでも完全にできるなんて人、いるわけはないと思うし、もしもいたら、それは人じゃなくて、神様なんじゃないかなあ……って。

 得手不得手、あって当然。

 ……だけど、リアム様はきっと切実に治癒系の魔法が使えるようになりたいんだと思うの。

 不老不死。

 普通なら死ぬほどの大怪我を負っても、死なずに痛いだけ。

 何年も治癒するまで待つか。治癒魔法使いに治してもらうか。

 数年単位で痛むとか……、瀕死の状態なのに、死ぬことだけはないとか……、考えるだけでもつらい。

「……テレンスと知り合えたから、まあ、何かあったらテレンスの治療院に駆け込めばいいとかは思っているんだけど。一応ボクも出資者の一人だし。でも……」

 テレンス様が、リアム様の怪我や病気を治療できるうちは問題はないけれど。

 だけど、不老不死。

 何十年も先、テレンス様やわたしたちが寿命で死んだあと、リアム様が怪我をしたとしたら。

 別のお医者さんか治癒系の魔法使いに頼めばいいだろうけど……。できないときもある。

 例えば過去のリアム様の体験。城が崩れて、その下敷きになって、でも死ねないから、痛いだけで、何十年も放置……って、恐ろしすぎる。

 わたしが、ずっとリアム様のお側にいることができるのなら。

 リアム様の代わりにわたしが治癒系の魔法を身につければ、もしもこの先リアム様が怪我をしたり病気にかかった時にはわたしがすぐに治すのに。

 でも……わたしもリアム様のように不老不死になって、それで永遠に一緒にいるなんて、きっと無理。

 いつか、わたしだって、リアム様を置いて、先に死ぬ。

 ああ、そうだ。前にそんな話をしたっけ……。

「不老不死なんて、もう勘弁してほしいってさ。ずっとホントは、こんなつらいだけの長い人生を……さっさと終わらせたかったんだけどね」

「実を言うとね、長い寿命なんてアンディにあげて、ボクはさっさとこの命を終わらせたかった。それか、アンディと分け合いたかった。だけど……」

「うん。毎日が楽しいよ。アンディが亡くなったことは悲しかった。病に耐えて、それでも優しくて穏やかなアンディが死んで。不老不死なんて、自分ではこれっぽっちも望んでいないボクが延々と生き続けているなんてさ。もしも神様ってものがいるなら呪いたくなるくらいだったけど、今はね、とても楽しい」

「アンディのふりをして、ニーナの兄代わりになって。Sクラスのみんなと毎日ワイワイと魔法のことを話して……。なんて楽しいんだろうって、毎日感動してるんだ。このままでいたいって、ずっと思うんだ」

「……あとどのくらい、このしあわせが続くのかなって、そう考えるとね、ちょっと怖いな」

 リアム様の、言葉。

 あのとき、わたし、少しでも、リアム様のしあわせが長く続くように、できることは、何かないのだろうか……って考えた。

 何かできるかな。

 こんなわたしでも。

 リアム様のおかげで、わたし、憂いがなくなった。

 もう、リチャード様に煩わされることもないし、あんな人とは無縁な人生を送れる。

 お父様とお母様も、きっとわざわざわたしを探しにブライトウェル魔法王国まではやってこないだろうし。

 仮にやって来て、無理やり連れて行かれても、わたし、逃げることができるし。

 魔法があるから、逃げた先でもきっと生活はできる。

 お金がないから修道院にとか、娼館に、とかじゃなくて。

 魔法を使って、どこででも生き延びられると思う。

 全部、リアム様のおかげだ。

 だったら……わたし、これからの人生を、リアム様のために使いたい。

 リアム様がしあわせになるような、そんな魔法を覚えたい。

 Sクラスのみんなと毎日ワイワイと魔法のことを話していけるような環境を、残りの二年間だけじゃなくて、ずっとずーっとリアム様が笑って過ごせるように。

 それから……。

「実を言うとね、長い寿命なんてアンディにあげて、ボクはさっさとこの命を終わらせたかった。それか、アンディと分け合いたかった」

 その、言葉が、ずっと引っかかっていた。喉に刺さった魚の骨のように。

 不老不死のリアム様。

 寿命があって、いつか死ぬ、普通の人間のわたし。

 分け合う……。

 二つのものを、一つにして、更にそれを等分することは……出来るのかな……?

 不老不死と、普通の人間の寿命を混ぜたら。

 長い年月生きた後、わたしとリアム様が一緒に死ぬことができる未来を……作ることができる……のかな?

 わからない。

 それとも、リアム様の不老不死を……変質、させる?

 それも、わからない。

 だって、やってみたこと、ないから。

 やらないうちに、できないなんて、思っていたら、何も成せない。

 まず、やる。

 失敗したってかまわない。

 成功するまでやればいい。

 胸の奥が、ざわりと動いた。

 どんな魔法を構築すれば、わたしとリアム様の寿命を混ぜて一つにして、そしてまた二つに分割とかできるのだろう。

 不老不死を変質させる魔法を考えたほうがいいのかな。

 そもそも、リアム様が「いいよ」って言ってくれるかな。

 でも……、一緒に生きて、一緒に死ぬ。その未来に向かって行きたい。

 実現のための方法を、模索しよう。

 今は、無理でも。

 諦めなければ。

 きっといつか。

 できる。

 信じる。

「まずはリアム様にいいよって言ってもらわないと……」

 ぼそっと言ったら、リアム様もテレンス様もきょとんとした顔になった。

 あ……。

 リアム様は治癒魔法の覚えが悪いから、怪我とかしたら、テレンス様の治癒院に駆け込めばいいみたいな話をしていたんだった!

 なのに、わたし、ずっと考え込んで、しかも、いきなり賛同とか、話の脈絡のわからないことを言って……。

「えっと、あの。ごめんなさい。話の途中で、うっかり考えごと、してしまっていて。それで、えっと……」

 何をどう、言ったらいいのか。

 そもそもリアム様だけじゃなく、テレンス様もいる馬車の中で、一緒に生きて、一緒に死にましょうなんて、そんなことをいきなり言うのはどうかと思う。だって、その言葉だけ聞いたら……まるでプロポーズみたいじゃない。

 か、顔が、顔が赤くなってしまう……っ!

「えっと。ニーナはボクに何か手伝ってもらいたいこととかがあるのかな?」

 手伝う……とは、微妙に違うけど。

 でも、わたしは言った。

「あ、あの……、今すぐじゃなくて、ブライトウェル魔法王国に戻ってから、ゆっくりと。リアム様に……、お話したいことが、あるんです」

 わたし一人ではできないこと。

 リアム様一人でもできなかったこと。

 だけど、二人なら……?

 出来る未来がいつか来ると、わたしは信じたいの。



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