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第38話 行こう!

 フィッツロイ伯爵家の周辺を、魔法で探っていたリアム様が言った。

「ジャクソン伯爵家の家紋がついた馬車が、フィッツロイ伯爵家に到着したよ」

 外から探っているだけだから、馬車の中に誰が乗っているかまではわからないけど、とリアム様はつけ加えた。

 うん、もしもリチャード様がいなくても、縁切だけはできるだろう。寧ろいないほうがいいかもしれない。

「それじゃ、準備が出来たら行こうか」

 テレンス様が言った。

 きりっとした横顔を見れば、ご実家のご両親と縁を切る覚悟はもうできているみたい。

 わたしはと言えば……。

 泊まっていた宿の壁にかかっている鏡をちらっと見る。

 可愛らしくも華やかなクリームイエロー色のチュールドレス。その上に羽織っているのは薄手の黒のロングコート。柔らかなイエローの華やかさを、黒でピリッと引き締めた、ミュリエルおすすめのコーディネート……というか、戦闘服?

 髪も、前にミュリエルにしてもらったように、エレガントなハーフアップにしている。

 化粧もしたし、地味なんかじゃない。大丈夫、わたしはかわいい。地味なんかじゃない。

 約一年前、家出をしたときの、地味なわたしじゃない。

 リチャード様が嫌で、俯いていただけのわたしじゃない。

 今のわたしは、しあわせで、自分自身にも自信が持てるようになった。

 そう、わたし、今、しあわせなの。

 Sクラスのみんなと、毎日ワイワイと楽しく魔法を学んで。

 出来ることが増えて。

 わたしの気持ちに寄り添ってくれる仲間がいる。

 リアム様もミュリエルたちも先輩たちも。

 みんなみんな大好き。

 リチャード様みたいに「ニーナ! いつ見てもお前は地味だな! 同年代の麗しいご令嬢にはそろそろ婚約話の一つや二つは出ているというのにそれもない。お前は売れ残り確定だ! 嫁の貰い手なんてないぞ!」なんて、わたしを貶めて、馬鹿にする発言をする人なんて、いない。

 言葉の暴力も、髪を引っ張ってくるとかの物理的な暴力も、誰も、わたしにしない。

 お父様やお母様。わたしがリチャード様のことが嫌いで、婚約させられるくらいなら、平民になるか修道院に行くかすると言っても、仲睦まじいなんて言ってくる。

 親同士が親しいんだから、子ども同士だって仲が良いはずだなんて思いこんで、わたしの気持ちを全然理解してくれない。

 ひたすら耐えるだけだった。

 リアム様に魔法を教えてもらう前までは。

 もう、あのころには戻らない。戻りたくなんてない。

 それに、リアム様のおかげでわたし、フィッツロイ伯爵家の令嬢なんて立場を捨てたって、お父様の保護下にいなくたって、もう、自立して生きていける。

 フィッツロイ伯爵家のために、我慢して、耐える人生なんて、送らなくていい。

 リチャード様を拒否することを選んでいい。

 これから、決別することで、お父様とお母様ともサヨナラになっても。

 わたし、後悔はきっとしない。

 もちろんお父様とお母様がわたしの気持ちを分かってくれて、リチャード様との婚姻を進めないと言ってくれれば、絶縁まではしないけど。

 だけど、お父様とお母様は、わたしが家出をしたって、ジャクソン伯爵夫妻とのお付き合いは続けるでしょう? 領地が隣接しているというだけではなく……友人として、仲良しだから。

 だったら、婚約がなしになったところで、リチャード様との付き合いは、きっとなくならない。

 リアム様が予想した通りに、最悪の未来だって、迎えさせられるかもしれない。

 それは、絶対に嫌。

 だから。

 わたしは、自分の思うとおりの道を行く。

 領地は親戚の誰かに引き継いでもらえばいい。わたしが婚姻後、息子を産んで、その息子にフィッツロイ伯爵家を継がせるなんてこともさせない。

 わたしの未来はわたしのものだ。

 将来、わたしに子が生まれたとしたら、その子の未来だって、その子の自由であるべきだ。

 貴族だからって言って、何もかもを我慢しなければならないなんてことはない。

 領地を継ぐべき親戚の誰かもいないなら、お父様が引退後、領も爵位も国に返してしまえばいい。

 お父様とお母様は、その返上した爵位をお金に換えて、どこかの田舎で悠々自適な老後でも過ごせばいいでしょ。

 なんて、ね。お父様とお母様の未来は、ご自分たちで、決めればいい。

 わたしは、ブライトウェル魔法王国で、魔法の道に進むから。

 時折、フィッツロイ伯爵領に戻って来て、アンディ兄様のお墓参りだけはするけれど。それ以外の理由で、ここに戻って来ることは、もう、ない。

 その決意を、わたしは、これから、お父様とお母様に告げる。

 分かってもらうために、リアム様に恋人のフリもしてもらって。

 うん、よし。やれる。大丈夫。

「はい! 行きましょう!」

 わたしはリアム様とテレンス様と一緒に、フィッツロイ伯爵家へと向かった。









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