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第30話 恋人⁉

「リアム様が考えてくださった案は、ありがたいのですが採択はできません」

「そう……か」

 テレンス様が言えば、リアム様はどこかほっとしたような顔になった。

「それに……、次善の策を取らなくても、リチャードとニーナの婚姻はなくすことができるかもしれない……」

「えっ!」

 て、テレンス様、それは一体どういうこと……?

「あ、完全に確実っていうわけじゃないけど、ほぼ大丈夫だと思うよ。私が逃げてしまえば、リチャードがジャクソン伯爵家の跡取りにならざるを得ない。そうすれば、ニーナとは結婚できないだろ?」

 多分、とテレンス様はつけ加えたけど。

「テレンス様が、逃げる……?」

 逃げるって、どういうことだろう? 

「三年だけ、魔法を学ぶ。三年後は伯爵家を継ぐべく領地に戻る。両親との約束を破るのが心苦しくて、今まで悩んではいたけれど。私は、本当は魔法の道に進みたいんだ。Aクラスの級友たちからも、卒業後は一緒に魔法と薬草を使った治癒院のようなものを開こうと誘われてもいるし」

 わあ……、すごい。級友と一緒に働くなんて、素敵すぎる!

「申し訳ないが、両親との約束は、破る。それが私の望む道だし、しあわせだと感じている。自分一人の勝手だと思えば、しあわせの道にまい進することを躊躇していたが。ニーナをリチャードから解き放てるとあれば、喜んでそちらの道に進ませてもらいたい」

 魔法を、続けること。この国で。

 それが、テレンス様のしあわせ。

 で、その道に進むのなら、リチャード様がジャクソン伯爵家を継ぐことになる。

 わたしとの婚姻はなしになる……?

「……うまくいくかな?」

 リアム様が眉根を寄せた。

「リチャードはジャクソン家、ニーナはフィッツロイ家。そうやって、キレイに分断できればいいけど」

「リアム様は、反対ですか?」

「テレンスがこの国で暮らすのは支援する。テレンスにしあわせになってほしいというのがアンディの願いだからね。そこまでは、いい」

「何か問題でも?」

 テレンス様も、聞いた。

「うん……。リチャードがジャクソン家を継ぐけど、それでもニーナと結婚させて、ニーナに二人以上男を産んでもらって、それで、一人はジャクソン家の跡継ぎ、もう一人はフィッツロイ家の跡継ぎ。そんなふうになってしまったら、最悪じゃない?」

 わ、わたしが、大嫌いなリチャード様の子を産むの……? 

 しかも最低二人……?

「嫌っ! 絶対に、嫌っ!」

 思いきり叫んだ。

 寒気なのか、嫌悪感なのかで、鳥肌が立つ。気持ち悪い。絶対に嫌。

 そんなわたしを慰めるように、リアム様がわたしの頭をポンポンと撫でてくれた。

「大丈夫、わかっている。だからね、テレンスが、この国でしあわせになって、で、リチャードにジャクソン家を継がせる。ここまではいいんだ。そのためにボクも力を貸す。で、ニーナだ」

「わ、わたし、どうすればいいの……」

 リチャード様が嫌というだけで、何の案も浮かばない。

 どうしよう。

 どうしよう。

 嫌なのに、どうしよう。

 頭の中がそれだけで埋め尽くされる。

「うん、だから。ニーナは恋人を作ったらいいんじゃないかな」

「は?」

「え?」

 えっと……?

 リアム様は、今、何を言ったの……?

 恋人……?

 わたしの……?

 どこをどう考えたら、そういう発想になるの⁉

 あまりに突飛な回答に、わたしも、テレンス様も、目を丸くしてしまった。

「えっと……、何故、いきなり恋人……」

「せっかく一年近くも家出していたことを利用しよう。ニーナはリチャードが嫌い。婚約を両親に強要されていたけど、実はニーナには好きな人がいた。この一年近く、ニーナはその恋人と共に過ごした。まあ、つまりは、貴族のご令嬢としてはキズモノ扱いだけど、アドネア王国の貴族社会に戻らないで、こっちのブライトウェル魔法王国で魔法使いとして生きるのなら、向こうで何を言われても別に構わない……よね?」

 まあ、リチャード様から逃げられるのなら、その程度の醜聞は別にどうでもいいけど。というか、誰も私のことなんて気にしないでしょ、お父様とかお母様以外は。

「ニーナがアンディの墓参りにフィッツロイ伯爵家に帰るときに、その恋人を連れて帰って、ご両親に言えばいい。リチャード様ではなく、恋人との婚姻を認めてくれるのなら、フィッツロイ伯爵家に戻ってもいい。だけど、無理にリチャード様と結ばせようとするなら、また家を出る……ってね」

 だから、ニーナはフィッツロイ伯爵家に戻る前に、恋人を作るように……なんて、言われたけど。

 な、なるほど……。リチャード様なんて、入る隙間もないくらい、らぶらぶイチャイチャの、恋人がいれば……。

 とは思うけど……。

 そもそも恋人なんて、どう作ればいいの?

 それに……。

「わたし、恋人なんていないし。Sクラスのみんなはいい人ばかりだけど、誰かを選んで恋に落ちるっていうのはなさそう……」

 レイ・ジーン先輩。

 ジェームス

 モルダー

 あ、ハイマン先生とか、二年生とか三年生の男性もいるけど。

 うーん、この一年間、同じSクラスの校舎兼寮で生活してきて、恋心を抱くような相手は……いない。

 友達としてだったら、すごくいい相手ばかりだけど。

 街に出て、好みの男性を捕まえろとか言うのかな、リアム様は。

 うーん……。考え込んでしまう。

「……別に、本当の恋人でなくてもいいんじゃないか?」

 テレンス様の声に、わたしは思わず首を傾げた。

「え?」

「恋人役。それでいいと思う」

「あー、なるほど!」

 さすがテレンス様。本物の恋人ではなくても、役でいいのか!

 しかも、テレンス様は、リアム様を見て、続けて言った。

「リアム様、ニーナの恋人役として、ニーナの側にいてもらえることは可能ですか? 他の誰かに頼むより、リアム様だったら、何かあったとき、ニーナを連れて、フィッツロイ伯爵家から逃げることも可能ですよね? 不測の事態に、いくらでも対処、できると思いますし」

「そ、それは……できるけど、ボ、ボク?」

 わたしも両手を胸の前で組んで、神様に祈るように、リアム様を見た。

「お願いします、リアム様! どうかわたしの恋人役! 引き受けてください!」

「え……、えっと、あ……、ニーナは、ボクが恋人役でいいのかい……?」

「はいっ! ぜひ、お願いします!」

「で、でも、万が一、ボクが恋人として、認められて、結婚とか言われたらどうするの!」

「大丈夫です! 二、三年もすれば、リチャード様は、わたし以外の誰かと婚約を結ばざるを得なくなるでしょう? 嫡男がいつまでも、婚約者がいないままではいけませんし。その間、わたしとリアム様は魔法学校に戻っていればいいだけです!」

「そんなにうまくいくかなあ……」

 リアム様がちょっと迷っているみたいだった。

 恋人役として、わたしが嫌……とかいうわけじゃあないよね?

 妹扱いだけど、今までアンディ兄様の代わりにわたしを大事にしてくれていたし。

「うーん、うまくいけばいいんだけど……」

 よし、もう一押し!

「それこそ大丈夫ですよ! だって、リチャード様よりもリアム様のほうが、絶対にかっこいいし!」

 外見だけじゃなくて、性格からしても、百人女の子が居たら、百人とも絶対にリアム様を選ぶと思う! 断言するわ! 主観だけど‼

 ものすごおおおく、強調したら。

「かっこ……⁉」

 リアム様は口を開けたまま、固まった。

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