第29話 次善の策ですが
本日二つ目の更新です
本当に、言いにくそうに、リアム様は視線を逸らして、更に、モゴモゴと呟くように言った。
「あのね……ニーナとテレンスのご両親は元々仲が良くて、それで、お互いの子ども同士を結婚させたがっているんだよね」
わたしとテレンス様は同時に頷いた。
「だったらさ……、リチャードとやらを、ジャクソン伯爵家の跡取りにして、ニーナのフィッツロイ伯爵家にはテレンスが婿入りすれば、丸く収まる……って思い付いちゃったんだけど」
「え⁉」
「は⁉」
リアム様は、いったい何を言い出したの?
フィッツロイ伯爵家にはテレンスが婿入り……って、つまり、それは、わたしとテレンス様が結婚する……ということで……。
そ、そんな案が……。
「それは考えたことなかったな……」
テレンス様も、ぼそりと言って。
「うん……。絶対にお勧めの案なんかじゃあないけど。これなら説得すれば、ご両親だって納得してくれるだろ? お互いの子ども同士が結婚するんだから。ニーナとテレンスだって、仲は悪くないだろ。一緒にいれば、アンディを偲んでいられるし、魔法だって、職業としてではなく、余暇に趣味としてになるかもだけど、勉強し続けることができるし……。わりと、みんな、納得できるかな……って」
リアム様が、だんだん俯いていくけど。
案としては、すごくいいと思うのよね……。
リチャード様と結婚するくらいなら、テレンス様と結婚したほうが、百倍も千倍もマシな人生を送れる。穏やかに、過ごせる。
これまでなんで思い付かなかったのかっていうくらいすごくいいアイデアだとは思う。
だけど……。
「貴族の結婚なんだから、情熱的な恋愛の末の結婚なんかじゃないのもしかたがないんだろ? だったら……次善の策的な感じに、なるけど……」
次善の策。
確かに、わたし、テレンス様とだったら、穏やかな人生を送れるとは思う。
だけど……。
「リアム様。それだとわたしもテレンス様も、本当の意味ではしあわせになれないと思います……」
そう、リアム様が、さっきわたしたちに言ってくれた。
「ニーナとテレンスが許してくれるなら、ボクはアンディの代わりに、君たちが二人がしあわせになるための手伝いをしたい」
「やらずに後悔するよりは、やってダメなら逃げればいい」
しあわせって、妥協とは違うでしょ?
次善の策を、初めから目指すのではなく、わたしたちは、わたしたちの最善を掴むために、まずがんばるべきでしょう?
「わたし、テレンス様のことは、どっちかというと好きですけど。でもそれは、アンディ兄様に対する気持ちと同じようなもの……だと思うの。アンディ兄様の大事な友達。だから、わたしもテレンス様が割と好きみたいな感じで。今までリチャード様が嫌だってことだけで、頭がいっぱいで。だから、テレンス様と結婚なら妥協できるとか、これまで全然思いつきもしなかった……けど」
妥協という言葉はテレンス様には失礼だけど。
テレンス様は、気にもせずに頷いていた。
「私にとってもニーナは妹でしかないな。アンディが大切に思っていた。だから、私もアンディと同じくニーナが大事だ。それに、私とニーナの婚姻には問題がある」
問題……。
「えっと、テレンス様は長男で、ジャクソン伯爵家の跡取りだからっていうことですか?」
「いや、それだけだったら、リチャードに跡を継がせればいいんだし、なんとか両親の説得はできると思う。問題はそのリチャードなんだ」
えーと、リチャード様。
お世辞でも、出来が良いとは思えない。
わたしが嫌がっているのが理解できない程度の人だ。
伯爵として、領主として、真っ当に領地を守っていくことなんてできない……とか?
「領主としての能力は……、まあ、側近だの執事だの、有能なものをあてがえば……なんとかなる……かもしれないが」
「じゃあ、何が問題なんですか?」
いや、わたし、テレンス様と結婚する気はあんまりないんだけど。
でも、一応、リアム様が考えてくれた、次善の策だし。
問題があるというのなら、それを知っておきたいし。
「ニーナ。仮に、私とニーナが結婚したら。リチャードはニーナの義弟ということになり、親戚付き合いが続く」
「うっ!」
思わず声を上げてしまった。
義弟……。
親戚付き合い……。
い、一生……?
「私たちの両親は仲がいいんだ。仮に私とニーナが結婚したとする。すると、両家の付き合いの中にはリチャードがいる。そして、わたしとニーナが結婚したことを、ねちねちと一生言われるだろう。リチャードからすれば、相思相愛だったリチャードとニーナの仲を私が裂いて、私がニーナを奪ったと思うだろうから」
「相思相愛なんかじゃないです! わたし、リチャード様なんて大嫌いっ!」
「うん。私はわかっているよ。だけど、そう思い込んでいるリチャードからすれば、私は簒奪者だし、ニーナは裏切り者ということになる」
なにそれ、なにそれ、なにそれ!
冗談じゃないっ!
絶対に嫌っ!
「……まあ、仮に、本当にニーナと私が恋仲であったとするならば、リチャード程度跳ねのけることも可能だろうけど……。私たちにそれほどまでの情熱はないだろう?」
コクコクと頷く。
親愛の情はあるけど、恋じゃない。
「ニーナはリチャードが嫌いだといくら言っても、私たちの両親もリチャードも聞き入れないんだ。ニーナと私が恋仲だなどと言ったところで一笑されるかもしれないしね」
「う、ううううう……」
せっかく、リアム様が考えてくれた案だけど。
却下せざるを得ないのよ……。




