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第28話 やってダメなら逃げればいい

「やらずに後悔するよりは、やってダメなら逃げればいい」

 リアム様が言った。

「一度、ご両親に会いに行こうよ。それで、ダメなら、また、金色の橋を渡って逃げればいいよ。Sクラスに戻って、みんなと一緒に楽しく魔法の勉強すればいい」

 わあ……、リアム様が言うと、なんかすごく簡単にできちゃう気がする。

「そう……ですね。ダメだったら逃げちゃえばいいんだ……」

「ニーナもテレンスも、ボクとは違って短い人生なんだ。誰に何を言われようと、好きに生きなよ。二人は自分の人生を自由に選択できるし、できないというのなら、ボクが自由に選べるように手を貸すから」

「リアム……様……」

 そうだ。わたしは、リアム様のおかげで、今、とてもしあわせで。そのしあわせを継続することができる。

 お父様とお母様に、もう二度と会わないと思うなら、このまま、フィッツロイ伯爵家に戻らず、Sクラスで楽しく魔法を学んでいればいい。

 それは、可能。

 卒業後だって、そのままブライトウェル魔法王国で暮らしていくことだって、きっとできる。

 平穏に、自由に、生きる道がある。

 だけど、わたしは、アンディ兄様のお墓参りだけは、したい。

 アンディ兄様は……リアム様の魔法で、アンディ兄様が死んだことをわたしもお父様もお母様も、忘れていた。

 だったら、誰も、お墓参りにも行っていないんでしょう?

 アンディ兄様は、わたしたちのしあわせを望んでくれたのに、わたしたちがアンディ兄様を忘れていたなんて、申し訳なさすぎる。

 ごめんなさいとありがとう。それから……毎日は無理だけど、たまにはアンディ兄様のお墓にお参りに来るよって言いたいの。

 こっそりお墓参り……も、できると思う。

 リアム様の魔法があれば。

 だけど、わたしは、胸を張って、堂々と、アンディ兄様に会いに行きたい。

 ありがとう、アンディ兄様のおかげで、わたしは、一点の曇りもなく、しあわせです。

 そう言いたい。

 だったら……、お父様とお母様に、ちゃんと向き合って、気持ちを理解してほしい。

 わがまま……かな?

 無理なことを、叶えたいなんて思っているのかな……?

 リアム様の、壮絶な過去に比べれば、甘すぎる考えなんだけど……。

「……やってダメなら逃げればいい……か」

 テレンス様が、ぼそりと言った。わたしは、自分の考えを中断して、テレンス様の話を聞く。

「三年。三年間だけ、魔法を学ぶ。その後は、領地に戻って、継嗣として、領地経営にまい進する……。それが、私と両親の約束で。アンディが亡くなった時、もう魔法を学ぶ意味はないと両親に言われて……、だけど、元々の約束だから、三年間だけは……と、私はこの魔法学校に戻ってきた」

 誰かに語る……というよりも、ご自身の考えをまとめているような口調だった。

「元々というのなら、私が治癒魔法を学んだのは、アンディを元気にしたかったからだ。亡くなった以上、もう、治癒魔法を勉強する意味なんてない。それは、両親の言う通り、わかっている……だけど」

「だけど、テレンスは魔法の勉強をしたかったんでしょう?」

 リアム様の言葉に、テレンス様は、迷いながらも頷いた。

「アンディのため……というのもある。それよりも、私は……きっと。魔法が、単純に好きだという気持ちと……、アンディを治せなかった分、その後悔があるから、治癒魔法使いとして生きてみたい。そういう気持ちがある。身勝手な願いと分かっているのだけれど……」

 テレンス様は、Sクラスじゃない。Aクラス。だから、魔法学校での学費や生活費なんかは、ジャクソン伯爵家から出ているはず。

 ジャクソン伯爵からすれば、三年間だけ、継嗣の勉強もしないで、魔法なんて、領地経営に何の関係もないことを学ばせたのだから、いい加減に帰ってこい……だよね。

 テレンス様も、わたしやリアム様が指摘しなくても、ご自分でわかっているんだろう。

 義務。

 約束。

 跡継ぎとして、育てられてきた。

 なのに、三年間だけとはいえ、テレンス様は、義務を放棄とまでは言わないけど、自由にさせてもらった。

 これ以上、わがままは言えない……と、きっと、テレンス様は思っている。

 領地経営が嫌なわけじゃないと思う。だけど、それ以上に。

 アンディ兄様を助けられなかった後悔を、後悔のままにしておきたくないのかもしれない。

 他の誰かを助けることで、そんな後悔を昇華していきたいのかもしれない。

 わたしは、テレンス様に、自由に道を選んでほしいと思ってしまうけど。

 だけど、それは言葉にはできない。

 無責任な発言はできない。

 なんて言えばいいのか、迷う。

 リアム様をちらと見る。何か言ってくれるかなって思って。

 でも、リアム様はすごく……すごーく言いにくそうな顔をしていた。

「あの……さ。多分、ニーナもテレンスもこの道は選ばないと思うんだけど……」

「はい?」

「それに、ボクがこんなことを言い出すのは僭越というか、勝手にそんなこと言うなよ的な感じになるんだけど……」

「何でしょう、リアム様」

 テレンス様も、リアム様を見た。

「うん……。今から言うことは、別におすすめとかじゃないからね。そうしろと言っているわけでもないんだよ。でも、一応、ボク……はともかく、リチャードってヤツ以外、みんながそれなりに納得できるような案、ではあると思うんだけど……」

 ええ⁉ 

 そんなアイデアがあるの?

 リチャード様以外ってことは、わたしのお父様もお母様も、テレンス様のご両親も賛同できる案ってことだよね?

「リアム様、それって、どんな内容なんですか?」

 リチャード様なんてどうでもいいから、そのほかのみんなが納得できるなら。

 それを、聞かないと!

 わたしとテレンス様は、言いにくそうにしているリアム様の次の言葉を待った。




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