第25話 【リアム視点】過去の話
本日二つ目の更新です。
アンディのことを話す前に、ボクの……、リアム・リードーマの話をさせてもらうね。
えーと、そうだなあ……。
まずね、ボクが生まれたのは、このブライトウェル魔法王国の前身というか、場所は同じだけど前の国。
ウェルー王国という国名だった頃だから、ざっと五百年くらい前になるね。
ボクが生きていた時代のウェルー王国の王様は、不老不死を求めていたんだ。
不老不死の体を手に入れて、王として永遠に君臨したいんだってさ。
ほら、権力者ってそういうトコロがあるだろ?
馬鹿々々しい話なんだけど、王命により、魔法使いも魔術師も錬金術師も薬師も……、こぞって不老不死の研究をしだしたんだ。
不老不死の研究をすると言えば、王様はいくらでも、支援金をよこしてくれたし。
だけど、何年も大勢が研究しても、不老不死なんてできるはずがない。
そのうち王様がしびれを切らしたんだ。
「不老不死の薬でも魔法でも、できるというから金をくれてやった。できないのなら。その首を刎ねてやろう」ってね。
研究者たちは焦ったよ。
でも、これまで潤沢な研究資金をもらっていたから、できないなんて言えなかったんだ。
だから、言い訳をした。
動物実験を行っているだけでは無理でございます。人間の実験体を寄越してください。
国中の孤児が、実験体として魔法使いや錬金術師たちのおもちゃになったよ。
ああ、おもちゃっていうのはひどい言いかたか。
でもね、孤児の中で不老不死になった者は皆無で。
みーんな実験の末に亡くなったよ。
で、次は下級貴族の娘や息子……継嗣はともかく三男とか四男とか、ご令嬢もそうだよね、嫁の貰い手がつかない娘なんかを実験体と称して差し出せば、税金の優遇を行うとか、王様がお触れを出したんだ。
孤児で実験失敗したんだから、貴族の子息や令嬢で成功するとは思えないじゃない。
当然、失敗。
可哀そうにね。
だけど、魔法使いたちは言ったんだ。
高貴な身分のお方の実験体がいれば……って。
下賤な者が不老不死になれるはずはない。だから失敗したんだ。理論は完成しているのに……って。
馬鹿々々しい。
単なる言い訳。
だけど、王様は信じたんだよ。
実験体が高貴な者であれば、不老不死の実験も成功し、王様も不老不死になれるんだ……って。
それでも王太子殿下たち、当時の王妃様のお子様方に実験なんかするわけにはいかないでしょ。
選ばれたのは、王様の庶子。つまり、王様の愛人が産んだ息子や娘。
そのうちの一人がボクだったんだよね。
もうねえ、しんどかったよ。
愛人の息子ってことで、日陰者として、王城の端っこで大人しく暮らしていたのに。
いきなり連れ出されたかと思えば、あの薬を飲め、この魔法をかけさせろ、錬成陣を描くから、そこから動くなとかなんとか。
毎日毎日、わけのわからないことをさせられていたよ。
まあ、その辺の思い出したくもない出来事は端折るけど、どういうわけか、偶然なのか、ボクだけが成功しちゃったんだよ。
心臓をね、ナイフで突き刺されても、ボクは死ななかった。
あ、でも痛いんだよ。すっごく。
治療を施されて……、心臓の傷が癒えるまで、どのくらいの時間があったのか。ひと月とかふた月とか?
不老はともかく不死となったとか、魔法使いたちが喜んで。
ボクを王様の前に連れて行って、それで、そこでまた、ボクの心臓にナイフを突き立てた。
「この通り、この実験体の不死の魔法は成功しました」ってね……。
喜んだのは王様だ。
自分にもその不死の魔法をかけろって。
ボクに施した実験を、王に施せば、王だって不老不死になれるってね。
それで……ね。結論から言えば、王様への魔法は失敗した。
……王様が死んだだけだったらよかったんだけど。
王様を不老不死にする実験に参加していた魔法使いたちも全員死亡。見学に来ていた王妃様とか王太子殿下とか、王族の皆様に宰相とか国の重鎮全員もね。もちろん王城にいた側仕えの者や侍女や庭師も……。うん、とにかく城にいた全員が死んだ。
なんでそんなことになったのかなんて、実験体でしかなかったボクには全く分からない。
ただ……失敗した魔法の反動なのかなとは思ったけど。
あ、ついでというか、失敗したせいなのか、王城自体も崩壊したんだよね。
残されたのは瓦礫と死体の山。
それでウェルー王国は滅び、長い年月の後に、この場所はブライトウェル魔法王国になったんだけど。
ボクはと言えば、瓦礫になった王城の中に、たった一人で取り残された。
普通なら、即死。
だって、腰から下が、元々は城の壁とか床だったであろう大理石とか瓦礫に埋もれて潰れてしまったんだよね。
上半身は無事だったんだけど……。
普通なら、死ぬよね。血が止まらなかったし。
気が狂いそうな激痛が続いて、気絶して、でも死ねなくて、起きて……。
そう死ねなかったんだ。
恐ろしいよね、不老不死の魔法。
だけど、死なないだけ、なんだよね。
怪我の回復はしないんだ。
あ、普通の人間の自己治癒能力程度のものは備わっているよ。
擦り傷とか切り傷とかは普通に治るし。
だけど、瓦礫に潰された下半身なんて、人間の自己治癒能力で治るもんじゃないだろ。
ボクはそのまま、気の狂いそうな痛みの中、何年も過ごしていった。あー、何十年かも。わからないけど。
で、ある時、村人っぽい人たちがやって来て、瓦礫に埋もれた僕を助けてくれたんだ。
そして、治癒魔法とか、再生魔法とかが使える魔法使いをね、村人たちが連れてきてくれた。腕のいい治癒魔法使いだったんだろうね。何週間もかかったけど、ボクの体は治ったんだ。
なんてありがたいんだろうって、感謝はしたけど。
……無料で助けてくれたわけじゃないんだよね。彼らもそこまで親切じゃない。
僕はそのまま助けてくれた魔法使いの奴隷になって、働かせてもらったよ。三十年くらいかな? そうしているうちに、その魔法使いは僕が不老不死であることに気がついた。
僕の体を研究したいとか言い出して。
だけど、なんで僕が不老不死になったのかなんてわからない。偶然、そうなったってだけだったし。でも、瓦礫から助けてもらった恩があるから。僕はまた実験体になってしまった。
体を切り刻まれて、治癒魔法をかけられて治してもらって。また、切り刻まれる。
もう嫌だって思ったよ。
死なないって言っても痛いからね。肺や心臓にナイフを刺されれば、痛いなんてものじゃない。
でも、いっそこのまま死なせてくれって痛みにも堪えるしかなくて。
で、耐えていたら、その魔法使いも寿命で死んだ。
僕は死ななかった。
死ななかったし、魔法使いの側に三十年以上もいたから、いろいろ魔法をおぼえたんだ。
うん、ニーナに教えてあげたような魔法だね。
金色のキラキラ。
橋を作って渡ること。
巨大なドラゴンを作ること。
城とか巨大建造物とか。ボクは、そういうものを作る魔法の才能もあったらしい。
まあ僕はそんな魔法よりも、治癒魔法をおぼえたかったんだけど。
もう痛いのや苦しいのは嫌だから。
だけど、そっちの才能はあんまりなくて。
いろんな国の、いろんな法則の魔法をおぼえていったんだけど……かすり傷を治す程度しかできなくて。
結局、治癒魔法の使えるボク以外の魔法使いに依頼して治すか、ボクの体がもっている自然治癒力が治してくれるまで、年単位で待つか……だね。
前者は、ボクが不老不死だとバレて、また実験体に戻る危険性があって嫌だし。
後者は、治癒するまで何年も痛みに耐えないといけないから嫌なんだよね。
どうにかして、自分で治癒魔法を使えるようにならないかなーって。いろいろな時代のいろいろな方法をおぼえてきたんだけど。
なかなかうまくいかなくて。
そのうち、どういうわけか、ボクの名は偉大なる魔法使いとかって、歴史に残っちゃったんだ。
何なんだろうねえ、ボクの人生。
偉大どころか、単なる実験動物扱いだったのにさ。
もう、しばらく人の目につかないような森の奥とかで、一人で静かに暮らすか……なんて思ったときに、ボクは大失敗したんだ。
久しぶりの、大怪我を負った。
人から逃れて、森の奥に行けば、そりゃあ、危険な野生動物の一匹や二匹、いるよねえ。
食い殺されても、死ねるならいいけど。体がばらばらになったまま、それでも生きているのかな……なんて、思い付いたら、ぞっとして。
それで、魔法を使って、慌てて逃げて。
ほら、この国にニーナを連れてきた時みたいに、金色の橋を渡って……で、途中で痛みか血を流しすぎた貧血とかで意識が朦朧として、その橋が崩れて、ボクは落ちていって……。
その落ちた先が、フィッツロイ伯爵家のアンディの部屋だったんだ。
いきなり現れた血まみれのボクを、アンディは手当てしてくれたんだ。
怪我をきれいに洗って、薬を塗って、包帯を巻いて。
痛み止めを飲ませてもらって、ベッドで寝かせてもらった。
手当の見返りに、また、前みたいに実験体になるのかなってボクは警戒したけれど。
アンディは、何の見返りもなく、助けてくれたんだ。
体が回復するまで、しばらくボクもアンディのベッドの隅で寝かせてもらって。
食事もね、アンディは出されたものを全部は食べられないからって、ボクに半分くれて。
最初はボクも警戒してたけど。
熱を出して苦しんでいるアンディを見たら。
警戒するボクのほうが、失礼だって思って。
治癒魔法もね、アンディにかけてみた。
だけど、ボクが使える弱い……本当に弱すぎる治癒魔法じゃ、熱を下げることなんてできなくて。
だったら……って、氷の魔法を自分の手にかけて、その手でアンディの額をずっと触っていたんだ。
アンディは「冷たくて気持ちがいいね、ありがとう」って、笑って……。
ありがとうなんて言葉、その時ボクは、生まれて初めて言ってもらった。
不老不死で、恐ろしいほどに長く生きてきたのにさ。
初めて、言ってもらって……、嬉しくて、ボクは少しだけ、泣いたんだ。




