第24話 本当の名前と二つのこと
「初めまして……って、兄様……」
「き、君は……アンディ……なのか?」
わたしの声と、テレンス様の声が重なった。
え、え、え?
アンディ兄様は、ちょっと苦笑っぽい顔をしている。
「……ニーナ、まずはドアを閉めて。それから、ソファに座って。テレンス、君もだ。まずは座ってくれ。長い話をしないといけないから」
アンディ兄様はそう言って、わたしとテレンス様に座るよう促した。
わたしとテレンス様は、戸惑ったけど、言われたとおりにソファに座って、アンディ兄様の言葉を待った。
「どこから話せばいいのかわからないし、事情を全部説明すれば、かなり長くなるけど……。ボクも、そろそろ覚悟を決めて、二人には言わないとね……」
そこで、アンディ兄様は一度言葉を止めて。
ぎゅっと目を瞑った。
まるで、これから罪の告白でもするように。
そして、アンディ兄様の全身が、金色のキラキラに包まれた。
まぶしい……!
あまりのまぶしさに、わたしは目を細めてたけど。テレンス様には金色のキラキラは見えていないようだった。驚いた顔のまま、動かない。
まぶしいキラキラが、次第に収まって……。
現れたのは、アンディ兄様と似てなんかいない二十歳前半くらいの男の人。
髪も瞳も、燃え盛る炎のようなオレンジ色交じりの赤い色。
くっきりとした二重、鼻筋の通った彫りの深い整った顔立ち。
だ、誰⁉
「え⁉ あ、アンディ兄様……⁉」
アンディ兄様だった人の外見が、変化した……の?
金色のキラキラで、変えたの?
アンディ兄様は、小さく「騙していてごめんね、ニーナ」呟いた。
声も。アンディ兄様の柔らかなアルトの声じゃない。もっと深くて張りのある美声に変わっていた。
それに、騙す……?
「あまりに長い話になるから……二つだけ、先に言う。まずひとつ目。ボクの本当の名はリアム・リードーマ」
本当の名……。
それは、前に聞いたことがあって……。
ああ、そうだ。
家出をする前の会話。
「ニーナは、リアム・リードーマって名前は知っている?」
「リアム・リードーマ……。あの、五百年前に実在したという伝説レベルの魔法使い?」
「うん、そう。それ、ボクのコト、なんだよね」
「は?」
金色のキラキラ。
魔法学校で、魔法を学びだして、ハイマン先生とかにいろいろ教えてもらって、マーガレット先輩たちの魔法も色々見せてもらって。
でも、金色のキラキラを使った魔法なんて、アンディ兄様……じゃなかった、リアム様以外に誰も使っていなかった。
ちょっとは疑問に思ったけど、先輩たちやミュリエルたちSクラスのみんなと過ごす時間が楽しくて、新しい魔法を学ぶことに熱中して……そんなことは、忘れていた。
入学試験前に、丸太小屋で暮らして、アンディ兄様に魔法を習っていた時だって、わたし、アンディ兄様は不思議だって思ったのに。
どうして魔法を使えるのか。
どうしてほとんど寝たきりのような生活をしていたアンディ兄様が、隣国の魔法学校のことを知っていたりするのか。
本を読んで、手順を知っている……というだけでは説明のつかない手際の良さを、わたし、不思議だって思ったのに。
何よりも、病弱だったアンディ兄様が、元気で学校生活を送っている。
そのこと自体がおかしいのに。
どうして……?
でも……例えば顔とか体つきとか髪の色とか。外見が酷似しているだけなら、違和感は覚えると思う。
なのに、アンディ兄様とリアム様は……外見が似ているだけじゃなくて、雰囲気もそっくりだった。
妹のわたしが、気がつかないくらい、違和感なんてない。
リアム・リードーマってボクのことなんだよね……とか言われても、伝説の魔法使いの生まれ変わりの妄想とかなのかな……程度にしか思わなかった。
色々気になって、アンディ兄様に聞いてみたことも確かにあったけど、にこっと笑って「まあ、それはそのうちに」と言われれば、まあいいか……って。
「あの……、アンディ兄様。じゃなくて、えっと、リアム様……って、呼んだほうがいいの……?」
話の腰を折ってしまうかもと思ってけど、アンディ兄様をどう呼んでいいのかわからなくて。
つい言ってしまった。
「うん……そうだね。この三人で話すときだけは、ボクのコトはリアムと呼んでほしい。だけど、もしも、このまま、この魔法学校で過ごすことができるのなら、ボクはSクラスのみんなにはアンディと呼んでほしいんだ。アンディとして、ボクはここで過ごしたい……そう思っているから」
「わかり……ました」
「その話もあとでまとめてするけど。えっと、結論的に言えば、ボクが今、ここにいるのは……アンディ・フィッツロイの遺志によるものなんだ。それが、二つ目になる」
長い長い話を、アンディ兄様……、リアム様は、語り出した。




