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第23話 再会

 先輩たちやミュリエルと街へ買い物に行って、それからしばらくした後、ハイマン先生に言われた。

「ニーナに面会の希望が来ているんだが……」

「はい? わたしに面会?」

 わたしは首を傾げた。

 わたしに会いに来るような人なんて……いたっけ?

 入学以来、Sクラスのみんなとしか過ごしていないし、学校外の知り合いなんていない。

 お父様とお母様……は、違うと思うし。

 だって。わたし、家出娘だからね。親が家出した娘を連れ帰りにやってきたなら、ハイマン先生はもっと深刻というかなんと言うかな顔つきや口調になっているだろう。

「ああ、Aクラスの三年生、テレンス・ジャクソンなんだが」

「あっ!」

 うわ、すっかり忘れていた。

 そういえばテレンス様、同じ学校に通っていたのよね! 校舎も寮も、SクラスはSクラスだけで固まっているから……、会う機会があるとは思わなかったし。

 うーん、でも、テレンス様から連絡が来たってことは……。お父様やお母様に、私がここにいることを知られてしまった……?

 ううん、まさか。

「えっと、兄に相談してみていいですか?」

「ああ。もちろんだ」

 とりあえず、アンディ兄様を探す。

 一階の玄関ホールの暖炉の前のソファに座っているのを発見。

 ジェームスやモルダーもいて、何やら魔法の議論でもしているみたい。

 モルダーが「だったら、これは?」とか言いながら、氷で作った小さな花を作ってみせていた。

 議論が白熱しているっぽい。

 あー……お邪魔しちゃ悪いかなーと思いつつ、「アンディ兄様」と声を掛けてみる。

「ニーナ」

「あの、ごめんなさい。ちょっとアンディ兄様に相談が……」

「相談?」

「うん。あのね、テレンス様からわたしに……面会の希望って……」

 アンディ兄様も、ジェームスやモルダーも、真顔になって、わたしを見た。

 入学式の後、わたしたち一年生の最初の授業でテレンス様のことをみんなに話したようなものだから、ジェームスとモルダーもそのことをおぼえていてくれたんだろう。

「アンディ、前に『状況を確認して、きちんとテレンスに口止めをしてからにしたい』とか言っていたよな。もうソイツと話とかしても、大丈夫な状況なのか?」

 心配そうにジェームスが言い、モルダーもコクコクと首を縦に振っている。

 アンディ兄様はと言えば……、思案顔だ。

「うーん……、テレンスには早めに話を……と思っていたんだけど。ちょっと迷っていたままだったんだよね。テレンスのほうから面会希望か……」

「どう……する?」

「いつかは会いに行かないと……とは思ってはいたんだけど……」

 アンディ兄様は眉根を寄せて、ちょっと考えた後で言った。

「そう……だな、テレンスは三年生だから、年が明ければ卒業してしまうし……」

 いい加減腹をくくって会うか……と、アンディ兄様は言った。

「ニーナ。ボクも一緒に会うよ。ただし、ボクも同席することはテレンスには内緒にしていてくれる?」

「いいですけど……」

 なんで? 

 そう聞く前に、口早にアンディ兄様が言った。

「テレンスにこっち……Sクラスの屋敷に来てもらって、面談室で話そう。ハイマン先生に、面談室の使用許可を取ってくる。日時も決めないとね」

 アンディ兄様はソファから立ち上がると、すぐに歩き始めた。

「あ、アンディ兄様、わたしも一緒に行きます」

「うん……」

 手を繋いで歩いてみたら、アンディ兄様の手がひんやりと冷たかった。

 緊張とか、しているときみたい……。

 テレンス様に会うこと自体は、特に緊張を要するようなことはない……はず。

 だって、久しぶりに会うだけで、元々アンディ兄様はテレンス様と仲良しだもの。

 なら……やっぱり、テレンス様経由で、わたしたちのお父様やお母様にわたしの所在が知られてしまうことを懸念してくれているのかな……。

 わたし、このSクラスのみんなが好き。

 ここであと二年ちょっとだけでも、一緒に楽しく過ごしたい。

 家に帰るのなんて、嫌。

 リチャード様に再会するのなんて、もっと嫌。

 ……テレンス様なら、ちゃんと話せばわたしの気持ちを分かってくれるとは思う。

 だけど、同じ魔法学校に在籍しているのに、それを黙っていたしね……。

 気まずい……のかもしれない。

 ちょっと不安というか、考え込みながら、数日が経過。

 わたしとアンディ兄様が、テレンス様に会う日が来た。

 Sクラスの屋敷の一階、面談室をお借りした。

 ソファに座りながら、ドキドキしてテレンス様を待つ。

 程なくして、ドアがノックされる音がした。

「はい!」

 答えて、わたしは立ち上がり、ドアを開けた。

 そこにはテレンス様が立っていた。

「ニーナ、久しぶり、元気だったかい?」

 記憶にあるのと同じ、優しい笑顔。

 でも、テレンス様もちょっと緊張気味かな?

「お久しぶりです、テレンス様。いろいろあって、同じ学校にいることを言わないでいて、ごめんなさい……」

 謝ったら、テレンス様は「いいよ、事情があったんだろ?」と言ってくれた。

「はい、そうなんです……って、あ、立ち話していないで、中に入ってください。アンディ兄様もテレンス様のことを待っていますし」

 そう言って、わたしはテレンス様を室内に招き入れようとしたんだけど……。

 テレンス様は、その場から一歩も動かなかった。

 それどころか、まるで幽霊でも見たように驚愕の表情。

「あ……、アン……ディ?」

「やあ、初めまして、テレンス・ジャクソン。君のことは、アンディからよく聞いている」

 アンディ兄様がテレンス様をまっすぐに見て、そう言った。

 え? 

 どういうこと?

 久しぶりじゃなくて、初めまして?

 アンディからよく聞いているって……、どういうこと?

 まるでアンディ兄様がもう一人いるみたいな言いかたで……。

 驚愕の表情のまま、固まっているテレンス様。

 アンディ兄様の言葉の意味が分からず戸惑うわたし。

 アンディ兄様は、テレンス様とわたしを見て、困ったみたいに苦笑をした。




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