第22話 【テレンス視点】まさか……
後ろのほう、書き直しましたm(__)m
魔法学校に留学して二年と半年以上。
Sクラスになることはできなかったが、それでもなんとかAクラスにしがみつくことができている。
卒業までのわずかな時間。私は時を惜しむようにして、これまで以上に魔法の勉強を進めた。
卒業して、実家に帰れば。
……嫡男である私はジャクソン伯爵家を継がなければならないのだ。
正直な話、伯爵位を継いで、領地の経営をするよりも、治癒系の魔法使いとして病人や怪我人を治す道へと進みたい……という気持ちが強い。
魔法使いへの道を求めたのは、元々は、幼馴染のアンディの病をなんとか治したかったから。
いや、治せないまでも、そのつらさを少しでも軽減したい……。そんな気持ちで、アドネア王国の貴族学院を卒業後、三年間だけという約束でブライトウェル魔法王国の魔法学校に留学させてもらったのだ。
……結果的には、私が治癒魔法を覚える前にアンディは亡くなってしまった。
喪失感は恐ろしいほどだった。
幼馴染兼親友が若くして亡くなった哀しみ。
救えなかった無力感。
だが私は、葬儀の後、魔法学校を辞めることはしなかった。
そう……、アンディは間に合わなかった。
だけど、治癒魔法を覚えれば、将来、アンディのように病に苦しむ人たちを助けられるかもしれない……。
だけど。
ふう……とため息を吐く。
吐き出すと息はまだ白くはならない。
だけど、冬が来て卒業すれば。
……領地経営も、領民のためになるすばらしい仕事だとは思う。
三年間、両親にわがままを許してもらって、魔法を学んだ。
これ以上は、無理だろう。
だけど。
私にはリチャードという弟がいる。
だから、同級生たちからは、爵位など弟に譲って、テレンスはブライトウェル魔法王国で治癒魔法使いとして生きればいいだろ……などとは言われる。
薬局なり治癒院なりを共同経営しようとまで申し出てくれる同級生もいる。
正直に言えば、ありがたい申し出だ。心が惹かれている。
だけど、両親との約束は、三年間自由に魔法を学ぶ代わりに、三年後は爵位継承のための勉学に励む……なのだ。
三年間だけ自由にさせてもらったことをありがたく思って、今度は義務を果たさねば……。
わかっているのだけれど……。
どうしてもため息をついてしまう。
ああ……。
自由に生きられたらいいのに。
仕方がないと、気持ちを切りかえて生きるしかない……のだろうな。
世の中には理不尽なことなんていくらでもある。
例えばアンディみたいに、優しくて、自分が病に侵されてつらいときも、相手を思いやれるような、そんないいやつが若くして死ぬとか。
それに比べれば、私のことなんて、わがままでしかない。
とは思うのだが……。
ああ……。だめだ。
ちょっとカフェにでも立ち寄って、それで、気分を切り替えてから、魔法学校の寮に帰ろう。
悩みで暗い顔をして帰ったら、同窓生たちにまた心配をかけてしまう……。
目についたカフェに入って、コーヒーを注文して。
ぼんやりしていたら、別のテーブルの女性グルーブの甲高い声が聞こえてきた。
きゃあきゃあ言ってケーキを食べて……、なんか、かわいいな。
見るともなしに見ていたら……あれっと思った。
ミルクティ色の長い髪を、後ろに一つで三つ編みにしている令嬢……というよりも、女の子という感じのかわいい子。
「ニーナ……?」
まさか。
凝視というほどに、じっと見る。
「やっぱりニーナだ。なんでこの国にいるんだ? それとも他人の空似か……?」
ニーナはアンディの妹で。
私たちが生まれる前から親同士が親しいので、ニーナは私にとって妹のようなもの。
だから、見間違えるはずはない……のだが。
声を掛けて確認しようか迷っていたら、はしゃぐ声が聞こえてきた。
「……ねえ、ねえ。ニーナのプリンタルト、おいしそうね」
「食べてみる?」
「いいの⁉ ありがとう!」
「はい、お礼にニーナもあーん」
「おいしいいいいいいい!」
空色っぽい髪をした女の子が「ニーナ」と呼んだ。
やっぱり、見間違いじゃない。他人の空似でもない。
あれは、ニーナだ。
確認が出来たら、ますます疑問に思った。
どうして、ニーナがこんなところに。
わからない。
ニーナと最後に会ったのは、アンディの葬式の時で。
私もニーナも泣いて、泣いて、泣き続けた。
記憶の中の、泣き顔のニーナ。
今、女友達と一緒にいて、笑ってはしゃいでいるニーナ。
……ああ、笑えるようになったのか。
良かった……と思う気持ちが半分。
私はまだアンディの死を引きずっているというのに……という後ろ向きな気持ちが半分。
そう……。私は……この国で魔法を学んで……アンディの体を治したかった。
叶えることができなかった望み。
アンディが元気になって、フィッツロイ伯爵家を継いで、誰か優しい女性と婚姻を結び、私も誰かと婚姻し、そしてお互いの子が出来て、家族ぐるみの付き合いを続ける……。私の父とアンディのお父上のように、互いの領地を行き来して、チェスや狩猟をして共に過ごす……。
そんな夢を、病に侵されているアンディとよく語ったものだった。
だけど、それは、やっぱり夢で。
私が治癒魔法を覚える前に、アンディは死んでしまった。
もう私がこれ以上魔法を学ぶ意味はない。
ないのだけれど……。
アンディのために学びだした魔法。
そう、それだけのはずだったのに、魔法学校での生活はとても楽しいし、級友との仲も良好だ。何より、私は魔法を学ぶこと自体が好きになった。
それから……。
「テレンスが、立派な治癒魔法使いになって帰ってくるのを待っているよ」
アンディの言葉が、何度も胸によみがえった。
たったの三年間。
叶えることはできなかったけれど。
アンディのためだけではなく、私が、自分が、立派な魔法使いになりたい……。
そう、願っているのだ。
もう、私のように、力及ばず誰かを亡くして、嘆くようなことがなくなりますように……。
なんて、そんな不可能な願いだけど。
それに、アンディが亡くなって、一番つらいのは私ではないのだ。
アンディのご両親。それにニーナ。
彼らのほうがもっとずっとつらいだろう。
気落ち、なんてものではなく、葬儀の時も嘆きに嘆いていた。
だから、ニーナがこの国にいることに疑問が生じる。
息子を亡くし、悲嘆に暮れている親が、残された娘を隣国とはいえ外国に行かせるはずはないと思うのだが……。
何か事情があるのだろうか?
実家に手紙でも書いて、フィッツロイ伯爵家の様子をそれとなく聞いてみるか……?
それとも……。
迷いに迷った挙句、私は声は掛けずに、そのままニーナの様子を探ってみた。
するとニーナの友達なのだろうか?
ニーナたちが座っている席に、別の女の子がやってきた。
「ごめんねー、みんな。お待たせして」
「こちらこそすみません、マーガレット先輩」
「そうですよ。あたしたちはのんびりケーキ食べてただけですから」
「お手数をおかけしました」
「あ、マーガレット先輩用にお土産を買いましたから、学校に戻ったら食べてください!」
きゃあきゃあ言いながら、ニーナたちはカフェを出て、そして馬車に乗り込んだ。
……馬車の扉には、魔法学校の紋章が描かれていた。
まさか、ニーナも私と同じ魔法学校に通っているのか?
同じ学校なら、校舎や食堂で会うことも……と、そこまで考えて、更に、まさかともう一つ思った。
「ニーナは、まさか、Sクラス……?」
Sクラスに在籍であれば、Aクラス以下の生徒と会うこともない。
校舎も寮も、Sクラスだけは別だ。
しかもマーガレット嬢……。
「三年生のSクラス、唯一の女生徒……。発明した魔法による報奨金で、学生のうちに既に莫大な財を築いたとかいう噂の……」
とすると……。
ニーナもやはり……。
だが、アンディが存命の時、ニーナは魔法なんて使えなかったし、それほど強い興味も示さなかった……はず。
それがいきなりSクラス?
……分からない。
やはり実家に手紙を……と、再度思いかけて、何やら事情があるのかもしれない……。いや、やはり……と、ぐるぐると悩んだ。
「実家に手紙を書くよりは……、Sクラスにニーナが本当に在籍しているのかどうかを確かめて……、それで、担任の教師経由で面談でも申し込んだ方がいいか……?」
そうだ、まずニーナに会って、確かめて。
それからのほうがいい……かもしれない。
うん、単純に、私同様、アンディのことがあって、病人たちを助けたいと治癒魔法の道に進んだのかもしれないし……。
それとも……。
「あ……」
まさかとはおもうが……。
アンディが亡くなったことで、ニーナは婚姻でも強要されたのか?
うちの両親とフィッツロイ伯爵夫妻は仲が良く。
昔から私の弟のリチャードとニーナを娶せたいと言っていた。
「……だけど、ニーナはリチャードが嫌いなんだよな」
私にもわかることが、どうしてうちの両親とフィッツロイ伯爵夫妻にはわからないのか。
リチャードもリチャードで、あれは、好きな子をいじめたい……というよりも、ニーナが嫌がって逃げるから、構ってほしくて追いかけて、髪の毛を引っ張ったりするような幼稚さがあるからな……。
もしかして、リチャードから逃げてきたというのなら……。
うん。実家に、連絡を取るのは止めよう。
ニーナに直接連絡を取ろう。
そうして、教師経由でニーナに面会を申し込み……。
私は信じられないものを見た。
「あ……、アン……ディ?」
ニーナと同じミルクティ色の髪、若草色の瞳を持つ青年がいた。
一見してきょうだいだとわかるほどに、ニーナとよく似ている。
記憶の中の、やせ細ったアンディとは違い、細身ではあるが健康そうな顔の色をしているが……。
ニーナには、死んだはずのアンディしかきょうだいはいない。
では一体、この面会室で私を待っていたこの青年は誰だ?
従兄か誰かの親戚……?
いや、まさか。
死んだはずのアンディが生きていた……?
そんな馬鹿な。
混乱する私に、アンディと思しき青年は言った。
「やあ、初めまして、テレンス・ジャクソン」




