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第19話 初回授業、それぞれの希望

本日二つ目の更新

 

 魔法学校の合格発表から、十日後。

 入学式があって、それから、その入学式の次の日から、わたしたち一年生の授業が始まった。

 始まったけど……、この十日間、生活を整えるための準備をしたり、先輩たちから掃除なんかのやり方を習ったり、一緒にご飯を食べたり、お茶をしたり、お話したり

 ……と、すっかりSクラスのみんなと仲良くなった。

 ホント、合格してよかったなあ……。

 あ、そうそう。

 入学式だけは、流石にSクラスだけの特別入学式ではなくて、他の新入生たちと一緒だった。

 合格発表があった建物の、玄関ホールに椅子が並べられて、クラス別に座る。

 えーと……。さすが実力主義の魔法学校というべきなのか。

 クラスごとの不均衡がすごい。

 ハイマン先生率いる、わたしたちSクラスの新入生は、五人。

 オクタヴィア先生のAクラスの新入生は十人。

 それから、Bクラスは二十人。

 Cクラスは三十人。

 Dクラスは四十人。

 Eクラスに至っては、一クラス五十人。これだけ多いと、個人ごとにきめ細かい指導なんてできないから、一括で教えて、あとは自習ってカンジなんだって。

 それって……自分で自主学習するのと大差ないと思うんだけど……。

 使用する教室だって、Eクラスの部屋には五十台の小さめの机と五十脚の椅子がずらーっと並んでいるだけらしいけど。

 わたしたちSクラスの教室に置かれている椅子と机は、豪華な装飾が施されたアンティーク調のもの。

 椅子なんて、クッションがふかふかのふわふわで、座り心地もサイコー。うっかり眠り込んでしまいそうなほどの、心地よさ。

 ホント、クラスにおける格差がすごい。

 それでも、一応、魔法学校を卒業したという証があれば、入学できなかった人よりはマシなのだそう……。

 つまり、待遇の良さに比例して、成果を出すことを期待されている……んだよね。

 わたし、大丈夫かなあ…。。

 などと考えているうちに、ハイマン先生が教壇に立ち、わたしたちをぐるりと見回した。

「じゃあ、最初の授業だ。今日は自己紹介……と言っても、既にお前たちは十日ほど一緒に暮らして、既に友人同士と言ってもいい関係になっているよな。まあ、形式的に改めて、って感じだが。今までどんな魔法を学んできたのか、これからこの魔法学校で何を学びたいのかそんなことを話してもらおう」

 ハイマン先生が、そう言って、まずアンディ兄様を指名した。

「……改めまして、アンディ・フィッツロイです。入学試験では、ドラゴンを作ったけれど、この学校では治癒系統の魔法などを学びたいと思っています」

 ハイマン先生が一つ頷いて、言った。

「今、Sクラスの二年生や三年生で治癒系統魔法を専攻しているヤツはいないが……、三年のAクラスにテレンス・ジャクソンっていうヤツがいて、そいつは主に治癒系の魔法を勉強しているぞ。繋ぎ、つけてやろうか?」

 テレンス・ジャクソン……って、リチャード様のお兄様の?

 うわ、びっくり。

 隣国のブライトウェル魔法王国にまで家出して、まさか、ここで知り合いの名を聞くことになるとは思わなかった。

 でも……、テレンス様に会ったら。

 わたしが、リチャード様との婚約が嫌で家出をして、この魔法学校にいることが……リチャード様やジャクソン家の皆様にだけじゃなく、わたしのお父様やお母様にも知られてしまうんじゃあないかな……。

 そうしたら、連れ戻される……?

 嫌だ。

 絶対に嫌。

 せっかく入学したのに。

 ミュリエルや先輩たちとも仲良くなれたのに。

「ああ……、テレンス。知り合いです」

「知り合い?」

「はい。実家の領地が隣同士で。そのうち個人的にテレンスには会いに行くつもりですけど。彼の魔法理論は、完成に至ってないでしょう?」

「ああ、そうだが」

 ハイマン先生は、一瞬よく知っているなと言わんばかりの顔になったけど、知り合いならそれも当然かと、ボソッと言った。

「ボクは、テレンスと違うアプローチで、治癒魔法を身につけたい。それに、ボクは治癒に関する魔法は素人同然です。まずはこの学園の図書室にある治癒魔法の書物を全部読んでから、それでも必要とあれば、テレンスに個人的に相談しますよ」

 ハイマン先生はそうか……と、言った。

 良かった……。

 わたしは、ほっと胸をなでおろした。

 テレンス様は、悪い人じゃない。昔は本当にアンディ兄様と仲良かった。

 だけど、実家に家出先が知られるのは……困る。

 わたしは目線でアンディ兄様に「ありがと」と伝えた。

 アンディ兄様も、わたしに笑みを返してくれた。

 その様子をいぶかしんだらしいジェームスが、くいっと眼鏡を押し上げた。

「プライベートに干渉するようで申し訳ないのだが、そのテレンスとやらと何かあるのか?」

「あ、えっと……」

 どうしようかな。みんなには言っておいた方がいいのかなって、ちょと悩んだら。

 ミュリエルが先にわたしに聞いてきた。

「……ねえ、ニーナ。テレンス・ジャクソンって人、リチャード・ジャクソンの暴言野郎となんか関係あるの? 同じ家名だけど。場合によってはテレンスとやらも、先輩たちに頼んで呪う?」

 わあ!

 魔法じゃなくて、呪うって言ったよミュリエル!

 わたしは慌てて言った。

「テレンス様は、リチャード様のお兄様だけど。リチャード様と違っていい人だよ! 昔、体が弱かったアンディ兄様が元気になるようにって、わざわざこの国まで来て、治癒魔法を勉強までしてくれているんだから! リチャード様のいじめから、わたしを庇ってくれたことも、何度もあって……」

 リチャード様はどうでもいいけど。

 テレンス様に『ハゲろ』『モゲろ』の魔法は……かけないでほしい。

「ニーナ? ミュリエル? 二人だけでわかりあってないで、説明してくれないか?」

 ジェームスがくいっと眼鏡を押し上げ、モルダーもジェームスに同意するように頷いた。

「あー、えっと。わたしの家と、テレンス様とリチャード様のジャクソン家は隣同士の領地で、親同士も親しくて……」

 アンディ兄様をちらっと見た。説明しにくいようならボクが言おうか……、そんなふうにアンディ兄様はわたしを見てくれていた。

 ちょっと安心する。

 大丈夫、わたし、自分で説明できます。

「わたし、意地悪なリチャード様が大嫌いなんだけど、親たちはわたしとリチャード様を婚約させようとしていて。でも、わたしは、婚約なんて嫌で。それで、家出して、この学校に来たの」

 ミュリエルは、うんうんと頷いてくれて、ジェームスとモルダーは驚き顔。

 まさか、こんなにおとなしそうなニーナが家出をするなんて……って、ボソッと言われた。

「テレンス様はいい人なんだけど……。でも、わたしとアンディ兄様がここにいると、テレンス様に知られたら……、お父様やお母様にも伝わっちゃうかもしれないから……」

「そういうわけで、フィッツロイ家には帰りたくない。だから、テレンスと会うのは……状況を確認して、きちんとテレンスに口止めをしてから……にしたいんだ」

 Sクラスのこの屋敷から出なければ。

 例え同じ学校に通っていても、出会うことは限りなく少ない……はず。

 会ったとしても、テレンス様はちゃんと話せばわかってくれる人だと思う。

 だけど、やっぱり、会ってお話しするのは……もう少し、時間をおいてからにしたい。

 万が一、両親に見つかって、無理やり連れて帰らせられることにでもなったら。

 そうしたら……またアンディ兄様と一緒に別の場所に逃げることになる。

 ここより条件のいい場所なんてないだろうし。

 それに、せっかく仲良くなったミュリエルや先輩たちと離れるのも嫌だ。

 ハイマン先生は「なるほど。実家にバレて、優秀なアンディとニーナがいなくなるのはこちらとしても痛手だな。なるべくテレンス・ジャクソンとは接触しないよう、オレの方も気をつけておこう」と言ってくれた。

 ほっとした。

 ありがたい。

「ああ、ついでに、ニーナ。次はお前がここで学びたいことを発表してくれ」

 学びたいこと……。

「えっと。わたしはまだ魔法を学びだして一か月ちょっとしか経ってません。だから、今できる魔法……アゲハ蝶を作り出して飛ばす魔法をもうちょっと頑張って……、そう……蝶々の背に乗って、空を飛ぶとか、そういうことがしたいかな」

 あ、あとはアンディ兄様の手伝いもできたらいいなあ……。

 マーガレット先輩たちの、あの呪い魔法。

 あれも覚えたいかも。

「なるほど。わかった。じゃあ次は、ミュリエル」

「はーい。あたしは美白とか美容とか、とにかく女性の美貌に関する魔法を勉強したいです」

「入学試験の時も思ったが、ミュリエルの美容魔法は、成功したらかなり儲けられそうだよな」

「高位貴族のご夫人やご令嬢に、美しくなる魔法をかけて、がっぽがっぽと稼ぎたいですよ! あたしの家は一応子爵家ですけど、貧乏下級貴族ですから。あ、あと、あたし、自分の顔の、このそばかす、消したいんです! これさえなければ、あたし、もうちょっとマシな美人になれるんで!」

 わあ。

 でも、そばかすがあってもミュリエルはキレイだと思うけど……とわたしは言った。

「ありがとニーナ。でも、これまで見合いしてきた男どもからは、あたしのこのそばかすが気もち悪いとか、ブスだとか、暴言吐きまくられたからね! キレイになって見返してやる~~~~~」

 ああ……ミュリエルも暴言を吐かれてきたから、わたしの気持ちがわかってくれたのか……。

 わたしはミュリエルの手にわたしの手を重ねて、そっと手を握った。

 モルダーがぼそっと言った。

「まあ、無能な奴らは外見を攻撃することしかできないからね」

 モルダーの言葉にはすっごい実感がこもっていた。

 ……モルダーも童顔であることを、周囲からからかわれてきたのかもしれない。多分だけど。苦労したのかも。親近感が湧くわ……。

 そのモルダーとジェームスは、二人して「あの伝説の魔法使いリアム・リードーマのように、歴史に名を残す大魔法使いになる!」と宣言していた。

 うーん、アンディ兄様も、前に「リアム・リードーマってボクのコト、なんだよね」みたいなこと、言っていたし。

 男の子って、みんな、伝説の魔法使いに憧れる特性でもあるのかな……。



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