表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/46

第18話 【リチャード視点】赤い髪の男は誰だ?

「アンディは……とっくに亡くなっているじゃないか。葬式には我々も出席させてもらった。我が家のテレンスは、アンディのために、治癒魔法を学びに隣国に行ったが、間に合わなかったと、遺体に縋りついて泣いていた……。忘れたのか?」

 父上の言葉に、フィッツロイ伯爵夫妻は叫んで、そして、その場に泣き崩れた。

 その後は、本当に大変だった。

 オレには、フィッツロイ伯爵夫妻に何が起こっているのか、まったくわからなかった。

「そうよ……、あの子は……、アンディは……、熱ばかりを出して……、ベッドから起き上がることもできなくて……」

「そんなアンディが、ニーナと共に外出なんで出来るはずがないのに……」

「なぜ⁉ どうして⁉ アンディは死んだのに……、お葬式も出したのに……」

「なんで、それを忘れていたんだ……」

 しばらく泣き叫んだあと、フィッツロイ伯爵夫妻は、二人とも、自身を見失ってしまったようにぼーっと立ち尽くした。

 どういうことだろう?

 ……なんか、気持ちが悪いっていうか、気味が悪い。変な感じがする。

 息子を亡くしたショックとか、亡くなったこと自体を忘れたいと願って、アンディが生きていると思い込んでいたのか?

 オレの父上と母上も、どうしたらいいのかと困惑顔だ。

 しばらく、全員が黙ったままでいた。

 オレにしてみれば、死んだアンディはどうでもよくて、いなくなったニーナの話をしたいんだけど。

 重苦しい雰囲気に、言い出せない。

 しばらくした後、ようやく、フィッツロイ伯爵夫妻が……縋るように、オレの父上と母上を見た。

「そう……よ、先日、ジャクソン伯爵家にお伺いしたとき……、あのとき、アンディも一緒に行ったわ……。ねえ、おぼえているわよね。いつも通り四人で馬車に乗ったわ……」

「そうだ。私とお前とニーナとアンディの四人でジャクソン伯爵家に行った……」

「アンディのお葬式を終えて、一年ぶりくらいに、四人で出かけて……」

「あれは……、誰だ? 一緒に行ったのは、アンディではなかったということか?」

 ぶつぶつと言い出したフィッツロイ伯爵夫妻。

 やっぱり頭がおかしくなったとしか思えない。

 だって、この間、我が家に来た時は、フィッツロイ伯爵夫妻とニーナの三人だった。あ、ああ……、そういえば、髪も瞳も、燃え盛る炎のようなオレンジ色交じりの赤い色をした二十代前半くらいの男が一人、ニーナに付いてきていた。

 黙って側にいるだけだったから、使用人だとばかり思っていたけれど……。

 オレが、いつものように、ニーナをかわいがって、三つ編みとかに手を触れたりして。

 ニーナは「……放してください」なんて、恥ずかしがって言って、部屋の隅にいた、その使用人に何かを言って、それで、母上たちのほうに行ったんだよな。

 うん、あれはアンディじゃない。

 似てもいない男だった。

 もしかして、あの使用人の男を、フィッツロイ伯爵夫妻はアンディと思い込んでいた……?

 まさかなあ。

 どこからどう見ても、似ても似つかないのに。

 ありえない。

 だけど、ニーナは一人で屋敷の外に行くような女じゃない。

 そんな積極性はないし、出ていく理由だってない。

 と、すると……。

 オレは、ひらめいた。

 そうだよ、あの男だよ。

 あの男が、ニーナを連れて、どこかに行ったんじゃないのか?

 オレは、それを聞いてみることにした。

「あの……、フィッツロイ伯爵夫妻? この間、夫妻とニーナが我が家に来た時、使用人の男も連れて来ていたでしょう?」

 聞いたら、フィッツロイ伯爵夫妻はものすごく驚いた顔で、オレを見た。

「使用人……?」

「ええ。護衛か使用人かはわからないですけど。ほら、髪も瞳も、燃え盛る炎のようなオレンジ色交じりの赤い色で、くっきりとした二重、鼻筋の通った彫りの深い整った顔立ちの、二十代前半くらいの男ですよ。ニーナと一緒に、母上たちのお茶会に行ったでしょう?」

 そう聞いたら、フィッツロイ伯爵夫妻の顔は、まさに驚愕といった感じになった。

 何だ?

「し、知らん! 知らんぞ、そんな男は……!」

「そうよ、我が家に赤髪の使用人なんて、いないわ! それに、そんな人を連れて、一緒にジャクソン家に行った記憶なんてないわ!」

「そうだ! 我々は、ニーナとアンディを連れて……」

 そこまで言って、フィッツロイ伯爵夫妻の言葉は止まった。

 死んだはずの、アンディを、連れて、我が家に来ることなどできるはずもない。

 だけど、赤い髪の男が一緒に来ていたのは事実だ。

 その赤い髪の男の記憶は、フィッツロイ伯爵夫妻にはない。

 ……一体どういうことだ?

 わからないまま。気味の悪さだけが残った……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ