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第17話 『ハゲロ』と『モゲロ』と『白癬菌』の魔法

本日2つ目の更新です

みんなで自己紹介を交えた食事をした後は、夕食までは自由時間になった。

 わたしとアンディ兄様は、宿を引きはらって、荷物も持って、合格発表にやってきたけど。

 ジェームスとモルダーは一度自宅に戻って、荷物を取ってくるとのこと。

 ミュリエルは後から自分の家の使用人が荷物を運んできてくれるから、早く自分の部屋を決めたいと言った。

 ああ、そうね。部屋を決めないと。

 アンディ兄様はどうするのかと聞いたら、レイ・ジーン先輩に二階に案内してもらった後、一度街に出て、生活備品とか学用品とかを買いに行くと言った。

「ニーナの分も買ってくるから、部屋でのんびりしてなよ」

 わたしはアンディ兄様にお礼を言って、それから、ミュリエルと一緒に三階に向かった。

 三年生のマーガレット先輩という人がわたしたちを案内してくれた。

「女の子専用の部屋は十室あるんだけど、今、使っているのは三年生では私だけ、二年生はスーザンとカリナの二人だけだから。空いている部屋、好きに使っていいよ」

「どの部屋でもいいんですか?」

「うん。日あたりとか間取りとか、いろいろあるから、気に入ったところを選んで。バスタブ付きの部屋もあるよ。ただし、自分の部屋は自分で掃除する決まりだから。今日は掃除で終わっちゃうかもね~」

「え!」

「ええー!」

 じ、自分で掃除!

「この屋敷の使用人に頼めば掃除もやってもらえるけど。伝統的に自分でやるって感じになっているのよ。あ、高位貴族のお嬢様とかだと、使用人も連れてきていたりするけど、えーと、ニーナとミュリエルは……」

「あ、あたし、子爵家の娘……」

「わ、わたし、一応伯爵家……。だけど、家出して、この魔法学校に来たから。身分とか関係な……」

 ない、って。言いかけたら、マーガレット先輩の目がきらん!と光った。

「おもしろいこと言い出したね! その話詳しく‼ 代わりに掃除手伝うから! スーザン、カリナ! 新入生だよー、家出娘だよー」

 バタンとドアが開いて、女子生徒が二人、飛び出してきた。

「わあ! 新入生だ!」

「家出って何! 気になるー!」

 えっと、スーザン先輩とカリナ先輩……。

 目がキラッキラに輝いている……。

 ずいぶんと好奇心が強い人達みたい。

 そのまま、わたしとミュリエルはずるずると引きずられるようにして、マーガレット先輩の部屋に連れて行かれた……。


 ***


 本だらけの、マーガレット先輩の部屋にはソファとか長椅子とかはなくて。

 代わりに床にふっかふかの分厚い絨毯が敷いてあって。みんなで靴を脱いで、そこに思い思いに座っていった。

「さあ! ニーナ! 家出とはどういうことかな⁉ 一から十までぜーんぶ聞かせてもらうわよー!」

 好奇心むき出しのスーザン先輩とカリナ先輩。

 お茶とお菓子を用意しながらも「さあ、話せ」とばかりに圧をかけてくるマーガレット先輩。

 ミュリエルはと言えば……「長い物には巻かれろ。先輩には逆らうな」と、神妙な顔つきだ。

 えっと……。

 まあ、隠すようなことではないので……。

 親同士が親しくて、領地が隣で、幼少の時からそれなりに交流のあるリチャード・ジャクソンっていう伯爵令息がいて。

 外見は金髪まき毛で、それなりに美男子なんだけど。口を開けば、わたしに対する暴言ばかり発するということを、簡単に説明していった。

 当然、そんな暴言男、わたしは嫌なんだけど、どういうわけかわたしの両親は、わたしとリチャード様が好きあっていると勘違いしていて、婚約を結ばされそうになってしまった。それが嫌で、家出しようと思ったら、アンディ兄様が、ブライトウェル魔法王国の、この魔法学校の試験で上位五名に入れば、学費も生活費も全部学校が支給してくれるから、家出先には最適って言ってくれて。

「それで、アンディ兄様に魔法を教えてもらって、試験を受けたの」

 わたしが説明している途中から、ミュリエル、スーザン先輩とカリナ先輩、マーガレット先輩の顔色が、どんどんどんどん……悪くなっていった。

「……人を貶すような男、最低最悪!」

「婚約者でもなく、たかが隣の領地に住んでいるだけの関係の男が! リチャード・ジャクソンっ! キサマ何様のつもりだ! ムカつくー!」

「『お前は売れ残り確定だ』だと⁉ 『嫁の貰い手なんてない』だと⁉ そんなくだらない男に嫁ぐよりも、おひとり様人生のほうが百倍マシよ!」

「あー、ニーナ、家出して正解! そんな暴言吐きのゴミ男なんて捨てて、みんなで楽しく魔法の勉強しましょーねー」

 みんな、わたしを擁護してくれた。

「あ、ありがとうございます……」

 ちょっと嬉しい。

 今日、出会ったばかりだけど、女友達ってこんな感じなのかな……。

 わたし、幼少の時から、アンディ兄様と、リチャード様とかテレンス様とか男の子としか交流したことなかったからなあ……。

 ジャクソン伯爵家以外、お母様のお茶会に、付いて行ったこともなかったし。

 うん、体の弱かったアンディ兄様を置いて、お茶会になんて、行く気もなかったから。貴族の令嬢の集まりとかも、参加したことなくて、女の子の知り合いはいないのよね。

 フィッツロイ伯爵家の、数少ない女性の使用人だって、お母様より年上ばかりだし……。

 なんか、いいな、女の子の知り合いって。

 わたしの気持ちをわかってくれて、わたし以上に怒ってくれて。

 嬉しい。

 スーザン先輩とカリナ先輩が、クッキーをバリバリ食べながら、言った。

「……って言うかさあ、貴族の男って、そういう高圧的で自己中心的な暴言男、多いよね」

「平民でもいるけどさ。平民の女はほら、暴言に対してやり返せる剛の者も多いからねー」

「貴族のご令嬢は、じっと黙って耐える人、多いもんね」

「仕返し、しちゃえばいいのにね~」

 スーザン先輩とカリナ先輩はそう言うけど。

 うーん。わたしは積極的に仕返しをするというよりも……。

 暴言を浴びせられなければそれで……と思ったけど。

 わたし、リチャード様が嫌で嫌で、それで家出までしちゃったんだから。

 ホントはちょっと……仕返しとか、してみたい……、かな?

 あはははは。

 ぼそっと、そんなことを言ったら。

 先輩たちの目がきらん!って、輝いた。

「やっちゃおうか」

 マーガレット先輩が言えば。

「やっちゃえ、やっちゃえ!」

 ふっふっふと、スーザン先輩とカリナ先輩が笑った。いや、低く嗤った。

「よし、最近開発した『ハゲロ』と『モゲロ』の魔法をリチャード・ジャクソンとやらにかけちゃいますか!」

 えーと、マーガレット先輩? 

 その『ハゲロ』と『モゲロ』って何ですか?

 初めて聞いた言葉なんですけど、ブライトウェル魔法王国独特の言語表現かな?

 意味を聞こうとしたわたし。

 だけど、スーザン先輩とカリナ先輩が先に言った。

「いやそれよりも『キレジ』と『イボジ』はどう?」

「だったら『ミズムシ』と『インキンタムシ』も付けちゃおうか」

 これもわたしの知らない言葉……なんだけど。

 やっぱり方言的な何かとか? 

 それとも魔法の呪文かな?

 首を傾げるわたしのとなりで、ミュリエルが空色の髪を揺らしながら笑っていた。

「あはははは、禿げて、モゲて、切れ痔にいぼ痔! しかも水虫にインキンタムシまで⁉ 先輩たち、えげつないー! サイコー! あたし、先輩たち、好きになっちゃったかもー!」

 ええと? 

 ミュリエルは言葉の意味が分かるのね……?

 わたしはミュリエルの袖を引っ張って、聞いてみた。

「えー、ニーナはわからない? 伯爵家のお嬢様は知らない言葉なのかなあ……。でも『ハゲろ』くらいはわかるでしょ。『ハゲになっちまえ!』ってことよ」

 ハゲ……、ハゲ……、ハゲ……。

「え、それってもしかして、頭部の脱毛症……?」

「そうそう。『モゲロ』はねー。えーと、樹木から果実を収穫することを『もぐ』と表現する地方もあるでしょ。あ、『もぎ取る』のほうがわかりやすいかな?」

 もぎ取る……。

 つまり、リチャード様から何かをもぎ取る……?

 何を?

 考えてたら、ミュリエルは続けて他の言葉の説明も全部してくれた。

 切れ痔といぼ痔……。うん、罹患したら、ちょっとしんどいかも。

『ミズムシ』と『インキンタムシ』は……、両方とも白癬菌による皮膚疾患で、発生する部位や症状によって、名称が異なっているだけだけど、まあ、つまりはとっても痒いんだって。

 あー、痛いのも痒いのも、大変よね……。

 そんな魔法を先輩たちは使えるのか……。

 すごいな……。

 でも……。

 そもそも、隣国にいるリチャード様に、どうやって魔法が届かせるの?

 アンディ兄様みたいに、金色の橋を渡って、リチャード様のところに行って、魔法をかけるのかな……?

「ニーナ。左手出して」

 マーガレット先輩に言われて、思わず「あ、はい!」とわたしは左手を差し出してしまった。

 そうしたら、マーガレット先輩、スーザン先輩とカリナ先輩が、順に、わたしの左手をぎゅっぎゅっぎゅっと握ってきた。

「はい、これで、ニーナの左手に、リチャード・ジャクソンに対する『ハゲろ』『モゲろ』『切れ痔』『いぼ痔』『水虫』『インキンタムシ』の魔法をかけました」

 え、え、え⁉ 

 わ、わたしの、左手に⁉

「次に、リチャード・ジャクソンに会ったときに、そいつの顔をひっぱたいてね。そうしたら、魔法が発動して、そいつに魔法がかかるから。あ、別の人をひっぱたいてもかからないから安心して。もちろんニーナにもかからないから!」

 マーガレット先輩がにっこにっこと微笑み。

 スーザン先輩とカリナ先輩が、顔を見合わせて「うはははは」と笑った。

 えーと、他人にはかからない。

 リチャード様の顔をひっぱたけば、リチャード様だけに罹る魔法……。

「あ、ありがとうございます……!」

 もう、二度と、リチャード様には会いたくないけど。

 だけど、再会して、また暴言を吐かれたら。

 ……うん、わたしは、ある意味最強の武器を手に入れたのかもしれない……。




誤字報告感謝ですm(__)m ありがとうございます!

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