第16話 Sクラス校舎兼寮のお屋敷で
「あー、この魔法学校の場所はな、むかーし昔、ブライトウェル魔法王国になる前、ウェルー王国という国があって、その国の王城があった場所だ」
中庭を抜けながら、ハイマン先生がいろいろと説明をしてくれた。
「ウェルー王国っていうのは、魔法が盛んだったらしいんだが。どういうわけか、一夜にして王城が崩れ落ち、王様も王妃様も兵士たちも、王城にいたものは全員死んでしまったらしい」
わたしたちは、ハイマン先生の説明を聞きながら中庭を抜けて、その先の別の建物に入って行った。
「そのとき、たった一人生き延びたのが、かの伝説の魔法使い、リアム・リードーマだ。彼が、その崩れた城を魔法で作り直したらしいぞ。ただし、王城を再現したのではなく、一般的な領主の館程度の屋敷を、いくつもいくつも作ったそうだ。まあ、なんでそんなふうにしたのかは、所詮伝説だからわからないけどな。今、この魔法学校では、その屋敷を校舎として使っている」
ハイマン先生の説明を、わたしは「へえ、そうなんだー」と感心しながら聞いていた。
確かに、うちの伯爵家と同じくらいの大きさの、庭付きのお屋敷が、一列になって十棟くらい並んで建っている。
「……だけど、ハイマン先生。それって、伝説で、本当のことかどうかはわかりませんよね?」
アンディ兄様が控えめな声で言った。
「ああ、もちろん。元々王城があったが、なんらかの理由で壊れたから、城を再建するのではなく、そこに街を作って、有力貴族が住み着いただけかもしれんがな」
伝説の魔法使いが作った街……なのかもしれないし、そうじゃないかもしれないのね……。
そんな話をしながら、結構長いこと歩いて、ようやく青い屋根のお屋敷に着いた。
「ここが、お前たちの……というか、Sクラスの教室と生活の場になる。ちなみにお前たち一年生だけじゃなくて、二年生と三年生も、ここで授業をして、寮生活をしている。Aクラス以下の生徒たちは別の場所な」
案内されるままに、お屋敷の中に入る。
玄関を入るとすぐに広い玄関ホールがあった。玄関ホールには暖炉があって、一人用のソファや椅子がいくつも点在している。長椅子もテーブルも十以上。たくさんある。カフェみたいな感じ。店員さんはいないけど。
そこには、何人かの生徒と思しき人たちがいた。本を読んでいる人もいるし、何人かで談笑している人達もいる。
「ハイマン先生、新入生ですか?」
本を読んでいた、ひょろりと背の高い男の人が、立ち上がって聞いてきた。
「ああ、そうだ。あとで部屋の案内を頼む」
「わかりました。新入生の皆さん、初めまして。私はレイ・ジーン。学年は三年。一応、ここの寮長的なこともしている。何かあったら相談に乗るから気楽に聞いてくれ」
レイ・ジーン先輩はにっこり笑った。
「階段を下りて地下は食堂や洗濯室。階段上がって二階が男子部屋の階。三階が女子部屋の階ってことになっている。だから、三階は男子禁制。入ったら、即停学」
黒髪眼鏡のジェームス・クロフトンと童顔のモルダー・スチュワートが、二人同時に「うわっ」という声を上げた。
水色髪のミュリエル・テレスが右手を上げて、ハイマン先生に尋ねた。
「じゃあ、女の子が二階の男子部屋に入るのもダメってことですか?」
「まあ、そうだな。生徒同士の交流は、すべて一階っつうか、ここのホールでするように。一階にはホール以外にも図書室も学年別の教室もあるし、中庭も広い。わざわざ個室に入って不純異性交流をしなくてもいいだろ」
「そうねー、あたしたち、魔法を学びに来たんだし、不純異性交流なんてしている暇、ないもんねー」
ミュリエル・テレスがあっけらかんと笑って言った。
そんな感じで、Sクラス用の校舎兼寮である屋敷の説明を受ける。
ちょっと疑問に思ったことがあって、わたしもミュリエル・テレスを真似して右手を上げてみた。
「あの……この学校って、S クラスはSクラスの皆さんとだけ、交流する感じですか? AクラスとかBクラスの生徒さんたちとは……」
「あ、ああ。それな。Sクラスだけは特別扱いなんだよ」
特別……?
わたしは首を横に傾げてしまった。
「Aクラス以下は、ごく普通の学校生活と変わらない。朝、自宅とか寮とかから登校して、それぞれの教室で学ぶ。放課後になれば、それぞれ自宅か寮に帰る」
うんうん、それが一般的な学校生活だよね。
「だけどSクラスはうちの学校でも特別だ。一年、二年、三年生、各五人ずつ、この屋敷で共同生活をして、魔法の英才教育を受ける感じだな」
「英才教育……」
「当然Aクラス以下の生徒たちとは足並みはそろわない。Sクラスは才能特化型だ。やりたい魔法の研究だけを三年間みっちりやらせる。ああ、たまには一般常識教育もするけどな」
Sクラスだけは学校というより、全寮制の私塾的な感じ……なのかもしれない。
うん、ちょっと変わっているけど。魔法だけ勉強するにはすごくいい環境なのかも。
「必要があればAクラスとかの生徒と交流もできるが。三年間、このSクラス専用の屋敷から一歩も外に出ないで過ごすこともできるぞ」
昔は実際にそんなやつもいたと、ハイマン先生がつけ加えた。
わあ……。なんて言ったらいいんだろう……。でも、家出先としてはある意味理想かも。引きこもりのまま、外出しないでも、生活できちゃう。
「まだまだ案内する場所はたくさんあるんだが……、そろそろ食事の時間か。レイ・ジーン、新入生たちを食堂に連れて行ってくれ」
「はい、わかりました。みんな、こっちだよ」
レイ・ジーン先輩に続いて、わたしたちはぞろぞろと階段を食堂まで下りて行った。




