第14話 魔法学校試験当日
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宿を引き払って、トランクも持って。ブライトウェル魔法王国の王都魔法学校の門の前にやってきた。
空は雲一つない晴天。風は……少しあるかな。
わたしは少し緊張しながら、アンディ兄様は全く緊張など見えない面持ちで、学校の正門を潜った。
正門から校舎までの真っすぐな並木道。馬車が三台か四台は横一列に並べるほどに広い。距離も相当ある。わたしとアンディ兄様は歩いて校舎まで向かっているけど、馬車を使う人もいるだろう。
「試験の受付時間まではまだ余裕があるから、ゆっくり歩いて大丈夫だよ」
アンディ兄様が言った。
わたしたち以外にも歩いて向かう人も結構いる。前を歩いている人なんかは、魔法書を読みながら、時折立ち止まって、何らやぶつぶつ言っているし。呪文の詠唱かな……?
「気楽にいこうよ」
アンディ兄様がわたしに言った。
「気楽……、はちょっと無理かも」
だって、合格しなかったら……どうしよう。
「大丈夫。ニーナは受かる」
「そ、そうかな……」
「気楽が無理なら……、そう、だな。一生懸命、全力を尽くしなよ」
うん。まずは全力を出すしかない。それでもしもダメだとしても、それは今ここで悩むようなことじゃない。落ちた後、どこが悪かったのか考えればいい。
今は合格することだけを考えるべきだ。
「はい、兄様。そうします」
ようやくたどり着いた校舎……っていうか、ごく普通の貴族のお屋敷みたいに見えるけど……で、受付をして。
そしてまず最初は筆記試験。
……うん、本当に簡単だった。
貴族の子息や令嬢なら、十歳以下で家庭教師から学ぶような内容ばかり。
アドネア王国やブライトウェル魔法王国を含む、近隣諸国の共通言語に関する文法的な問題。簡単な計算。それからマナーについて。
それだけ。
魔法とは関係ない問題ばかり。
基礎学力があれば、誰でも合格しそうな内容。実に簡単だった。
で、次は実技試験。
これは個別で受けた。
校舎内の噴水広場。そこのベンチに試験監督の人達が十人くらい座っていて、その人たちの前で魔法を披露する。
わたしはアンディ兄様と練習した通り、アゲハ蝶を魔法で作った。
まずはごく普通に、金色のキラキラを捏ねる感じで、アゲハ蝶を一頭作り、それをベンチの一番左側に座っていた試験監督に向けて飛ばす。
もう一頭作って次の人へ、更に一頭作って次の人へ……、という感じで、十頭のアゲハ蝶を飛ばす。
ここまででも試験監督の皆さんは「おっ! なかなかやるな!」みたいな表情になったけど……。まだまだよ!
「それでは、皆様、アゲハ蝶をそのままご覧になっていてください」
十頭のアゲハ蝶が、ひらひらと舞うようにして飛びながら、一か所に集まっていく。
集まって、そして、くるくると回るように合わさっていって……、わたしの身長と同じサイズの、大きな一頭のアゲハ蝶に変形……というか、巨大化!
「うおっ!」
試験官の口から思わず声が上がった。よしっ!
「わたしの実技はこれで終了となります、ありがとうございました」
わたしが試験官に向けて、一礼をすると同時に、巨大アゲハ蝶をふっと消す。
「あー、すばらしい実技だった」
試験官のひとりが褒めてくれた。
嬉しい。
で、そのまま面接。
いつから魔法を学んでいるかとか、アゲハ蝶をどうやって作ったのかとか。
聞かれるままに、なるべく正直に答える。
うん、一か月前から魔法を勉強し始めたとか、時期的なことは正直に答えた。
ただ、アンディ兄様に魔法器官を目覚めさせてもらって、それで金色のキラキラが見えるようになった……というのは言わずにおいた。
それから、隣国から家出をしてきたので、衣食住を賄うために魔法学校に入学したい……とは、流石に言えなかった。
まだ短い期間しか魔法を使っていないから、魔法学校で理論とかそういうのを学んで、今度はアゲハ蝶を作るだけではなく、それに乗って空を飛びたいとか。
そういう話もした。
総じて好感触。
うん、わたしきっと受かる。
そう思った。
さて……、アンディ兄様は実技試験で何をしたかというと……。
魔法学校の校舎より大きなドラゴンを作って、そのドラゴンに咆哮を上げさせた……のよね。
気絶する試験官さえ出るほどの、本物そっくりのドラゴンだったらしい。
うわあ……。アンディ兄様……。
すごいというか、それはやりすぎでは……。あ、あはははははは……。