第13話 試験前日
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丸太小屋を引き払って、わたしとアンディ兄様は魔法学校の近くの宿に移動した。
この宿の宿泊客は、半数くらいが魔法学校の受験者っぽい。
宿の食堂で、食事をしながら魔法書を読んでいる人もたくさんいる。
「アンディ兄様。わたしも試験まで何冊か魔法書とか、読んでおいたほうがいいんでしょうか?」
ちょっと焦ってしまったので、聞いてみる。
「まあ、イマサラ? というか、別に読まなくても大丈夫だよ」
「そ……そうでしょうか……」
アンディ兄様を信じていないわけじゃあないけど……、合格不合格のある試験だから……、ちょっと不安。
「うん。そもそもね、金色のキラキラを認識できる魔法使いは少ないんだよね」
「え?」
「見えないから、代わりに魔法の呪文を詠唱するだのなんだしているんだ。だけど、ニーナはもう、金色のキラキラが見えて、それを使って蝶々も作れるようになった。だから、呪文も詠唱もなんにもいらないんだよ」
そ、そうなの⁉
魔法の世界のことはわからない。
わたしが知っているのはアンディ兄様に教わったことだけ。
大丈夫と言われれば、アンディ兄様のその言葉を信じるしかないんだけど……。
ちょっと、不安というかなんというか……。
「ま、大丈夫。明日の試験で……というか、実技で、ニーナはボクと練習した通りに蝶々を飛ばしなよ」
「はい……」
蝶々を飛ばすのも……、かなり、練習した。
数も多く飛ばせるようになったし、形状変化の魔法も使えるようになった。
「本当は火の魔法も使えれば完璧だったけど、ちょっとね、怪我が怖いから」
丸太小屋の暖炉の火を使った魔法を練習……というのも少しだけさせてもらったんだけど。
水や土……粘土的に捏ねられるものと違って、火の扱いはまだ難しかった。
下手に使うと火事とか火傷の危険性……と思うと、ちょっと怖いのよ。
「火を使った魔法の練習は、別に魔法学校に入学した後でも大丈夫だよ。今、ニーナができることを、全力で試験で表現すればいいよ」
「はい、兄様」
うん、できない魔法を焦って今日明日でおぼえるよりも、今できていることの精度を上げたほうがいい。
今更魔法書を読んだところで、きっと混乱するだけ。
むやみやたらに、あちこち手を出すのではなく、わたしができることを、きちんとやる。それで合格するとアンディ兄様が言っているんだから、不安にならずに信じるべき。
水……。キラキラや土と混ぜて、粘土のように形を変える。
自由自在とまでは言わないけど、蝶々を飛ばすくらいは滑らかにできる。
水や土の形状変化……も、ついでにと言ってアンディ兄様が教えてくれて、それも使えるようになった。
うん、大丈夫。
できることを、きちんと、試験官の先生たちに見せる。
わたし、試験に、受かる。
がんばる。
……でも、もしも不合格だったら。
このブライトウェル魔法王国でなにかの仕事を得て、また一年後に試験に挑戦……。いやいやいやいや、そんなこと、考えちゃダメだ。
わたしは、受かる。合格する。
絶対に、特待生になって、この国で暮らす。
フィッツロイ伯爵家には帰らない。
だって、嫌だ。
リチャード様と婚約を結ぶなんて、嫌。
婚約なんてしたら、一生、地味女だのなんだの、暴言を吐かれて、それで髪の毛を引っ張られたりする。
馬鹿にされ続ける人生なんて、絶対に拒否。
例えば……、借金の返済のために嫁ぐとかいうのなら、しかたがないから耐えるしかないけど……そんな理由はない。
お父様とお母様がリチャード様のお父様やお母様と仲がいいから、わたしをリチャード様と娶らせたいだけ。
政略とかあるかもしれないけど、それよりも親同士が仲がいいっていうのが最大の理由でしょ。
他に理由……あるのかもしれないけど、聞いてないし、わたしは知らない。
リチャード様と絶対に結婚しないといけない理由なんてない……はず。
なのに、わたしが嫌だと言ってもお父様もお母様も聞いてくれない。
しかも、わたしがリチャード様のことが好きだなんて、思いこんでいる。
嫌いって、はっきり言ったのに。
照れ隠しとか、そんなのない。
嫌いは嫌いだっていうのに。
わたしの将来の旦那様に、リチャード様を押し付けられるくらいなら、もう、二度と家に帰れなくてもいい。お父様とお母様に会えなくなってもいい。
そのくらい、わたし、リチャード様が嫌。
だから、絶対に、合格する。
魔法学校に入学して、魔法を学んで。
三年間、学費や生活費を免除してもらって、それで、一人前の魔法使いになって。この国で暮らす。
アンディ兄様もそばにいてくれるから、安心だし。
うん、わたし、がんばる。
わたしとアンディ兄様は食事を終えた後、宿の部屋で少しだけ魔法の練習をして、それで、この日は早めに寝た。
緊張で寝られないかなと思ったけど。
意外にも、わたしはぐっすりと眠ってしまったのだ。
……うーん、もしかしたら、アンディ兄様がこっそりと安眠の魔法でもかけてくれてたのかもしれない。