第12話 もうすぐ魔法学校の試験!
「あー、ニーナ。翅がバッキリと折れるのは、魔法で作った蝶々を、固体として認識していて、生き物みたいに動くっていうことを、失念しているのかもしれない……」
「え?」
「たとえば……そうだな。大理石で作った彫刻の蝶々。その翅を無理に動かそうとすれば、壊れるよね」
「はい」
「でも、ニーナが作っている魔法の蝶々は、彫刻みたいに固まったものじゃないんだよ」
「固まっていない……」
「そう、動かせるんだ。えーと、だから……、そうだ! 金色のキラキラと、水! それを混ぜて、蝶々の形を作ってみてよ。水は液体だから、固まっていないで、流れる。流れる水をイメージして。それから、粘土! ぐにゃって曲がるでしょ。ばきって割れない」
流れる水……。固まってはいない。氷とは違う、水。大理石とも違う。
粘土……。土と水を混ぜ合わせたもの。ぐにゃぐにゃと、捏ねて混ぜる。
流れて動くもの。
柔らかいもの。
それを基本として、動く蝶々を連想する。
よし……っ!
キラキラモード発動で、金色を捏ねるイメージで、わたしはアゲハ蝶を魔法で作る。
まずは水。
水と金色のキラキラを混ぜて、捏ねる。
捏ねて、アゲハ蝶を形作る。
四枚翅を広げるアゲハ蝶。
その翅を、まずゆっくりと動かず。
本物の蝶々とは違う動きかもしれないけれど、ゆっくりと、柔らかく羽ばたかせてみる。
「そう! その調子! 魔法で作った蝶々を動かせたね!」
「はい!」
やった!
出来た!
ひらひらと飛ぶ……というよりも、ぐんにゃりと飛ぶ……っていう、ちょっと変な感じ感じだけど。
魔法で作ったものを、動かすことができた!
「これ、もっと練習して、滑らかに動くようにしていこう。そうしたら、きっと魔法学校にも合格するよ!」
アンディ兄様も、笑顔で言ってくれた。
嬉しい。
あ……だけど、魔法学校の試験。
もうすぐ……だよね?
「兄様、試験まであと……」
「大丈夫。まだ五日ある」
「五日……」
五日で、間に合うかな?
というか、試験内容ってどんなのだろう?
今までは、ただひたすら魔法を使えるようにってだけ、考えていたけど……。
試験に受かって、しかも特待生にならないと……今後の生活費とかに困るよねえ……。
不安になってアンディ兄様に聞いてみた。
「あ、試験はね、大丈夫。アドネア王国やブライトウェル魔法王国近隣の共通言語が読めたり書けたりできればいいだけだから」
「え? それだけでいいの?」
「それだけって言ってもねえ……。貴族ならともかく、平民の大半は字なんか読めないでしょ。だけど試験を受けに来る人とかもいて。でも、字が書けないと、いざ入学した後、教科書も読めないし、課題の提出もできないって、昔、学校の先生たちが頭を抱えたらしいよ」
「え、ええ⁉」
「だから、筆記試験は、文字が書けて読めるってその程度の確認と、ある程度の常識を知っているか、一般的な内容だけなんだよ。それよりも、実技と面接だね、重視されるのは」
実技……魔法で蝶々を作る……で、大丈夫だよね。
でも面接は?
「面接で聞かれるのは、いつから魔法を習ったとか、誰に師事しているとか。あとは、入学後、何を勉強したいとか、かな」
入学後……。
衣食住や学費を賄ってもらって、自活する……っていうのじゃダメかな。
「アンディ兄様は、魔法学校で何を学ぶおつもりですか?」
もうすでに、ものすごい魔法使いのアンディ兄様。
わたし、アンディ兄様のほかに魔法使いなんて知らないけど。
えーと、絵本に登場する魔法使いって、ほら、カボチャを馬車に変えるとか、箒に乗って空を飛ぶとかでしょ。
それに比べたら、光の橋を渡って、隣の国に来ましたなんて、レベルが違うと思うんだけど。
既に、学校で学ぶようなことがなさそうなアンディ兄様なのに……。
「ああ、ボクはね、ちょっと特殊な魔法を知りたくって……」
「特殊?」
「うん。受けた魔法を解除するとか……」
「へ?」
「二つのものを一つにして、それをまた、均等に二つに分けるとか。そういう魔法が知りたいんだよね……」
うーん、魔法を解除する。二つのものを一つにして、それをまた二つに分ける?
アンディ兄様の知りたい魔法って、具体的にどういうものかはさっぱりわからないけれど。
うん、すごい魔法使いであるアンディ兄様にも、まだまだ知らない魔法っていうのがあるのね……。
わたしはちょっと、なんとなく、どこか安心した気分になった。