第11話 魔法修行は続く
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泥をこねて。
金色のキラキラを見て。
毎日魔法の練習を続けていくうちに、なんとなく、金色のキラキラの捏ね方……というのか、魔法で何かの形を作ることのコツ……みたいなものがわかってきた。
金色のキラキラが、土だと思って、それを、混ぜて、捏ねる。
粘土をこねるのと似ているかな。
うん、陶芸っぽい感じ。
慣れてくるとちょっと楽しい。
ボールみたいに丸い形、サイコロみたいに四角い形。
単純な形なら、わたしも一人で作れるようになってきた。
だけど……、葉っぱとか、花とか。
えーと、それっぽい形は作れるんだけど……、幼い子どもが描く単純な線の単純な形にしかならない。
アンディ兄様みたいな、実物そっくりの形にならないのよね……。
こ、これは、芸術的センスの差、とかなのかしら……。
「うーん、そうだなあ……」
アンディ兄様が腕を組んで悩んでいる。
「丸太小屋の中で魔法を使うんじゃなくて、外に出よう! 実際の葉っぱや花を見ながら、それをそっくり同じものを作ってみたらいいんじゃないかな」
あ、なるほど!
見ながらだったら、葉っぱも花も、実物そっくりに作れるかもしれない。
わたしは頷いて、そして、アンディ兄様と一緒に外に出ることにした。
今日は雲は少し出ているけれど、ぽかぽかの良い天気で。
太陽の光を浴びた草花が、風に吹かれていた。
絶好の散歩日和ね! なーんて。
わたしとアンディ兄様は、丸太小屋が並んでいるところから、川沿いにちょっと上流のほうまで歩いて行った。
小道の横には木々が並んでいて、ところどころぽっかりと広場みたいに開いている場所もある。広場……というか、薪を取るために、木を切り倒して、結果的に開いた空間になった……というべきか。
そんな空き地の切株に腰を下ろして、わたしは魔法の練習に励んだ。
アンディ兄様の提案通り、実物を見ながらだと、比較的簡単に、本物そっくりの葉っぱや花が再現できた。
「うん、兄様、わたし、実物を見てからのほうが、作れるようです!」
「じゃあ、いろんなものをたくさん見て、これが作りたいって思うものを、実物を見ながら、魔法で作ってみよう!」
「はい!」
春の空き地には、かわいい花がたくさん咲いていた。
わたしは金色キラキラモードを発動しながら、目に見える草花を観察していき、そして、それをどんどんと魔法で真似して作っていった
シロツメクサの白い花、緑色の葉っぱ。
黄色いタンポポ。
地に這うようにして広がっているオオイヌノフグリの薄い青。
作っているうちに、花の蜜でも吸いに来たのか、蝶々がひらひら飛んできた。
「わあ……、蝶々だわ」
フィッツロイ伯爵家の花壇にも、春とか初夏に時期にいろんな種類の蝶々が飛んできたのをおぼえている。
うん、わたし、庭師に頼んで、庭の花を切ってもらって、アンディ兄様のお部屋へと持って行っていたんだよね……。せめてお花でもって……。ベッドから立ち上がることができない兄様のために……って、あ、あれ?
……アンディ兄様、いつの間にお元気になって、いつの間にこんなにすごい魔法使いになったのかしら?
んんんんん?
あれ?
記憶が、なんか、ちょっと……ぼんやりしている……?
わたしはちょっと首を傾げてしまった。
「ニーナ? どうした? 魔法使い過ぎて、疲れたなら休憩しようか?」
わたしの顔を覗き込んでくるアンディ兄様の心配そうな顔。
わたしは慌てて返事をする。
「う、ううん! 大丈夫!」
「そうか? 試験まであんまり時間はないけど、無理はしないでよね」
「はい、アンディ兄様。ありがとうございます」
……アンディ兄様はお元気になったんだ。昔、ちょっと体調が悪かっただけで、きっと、もう、多分。
だって、今、わたしの目の前にいるアンディ兄様は、すごく大きな魔法が使えるくらいにお元気だもの。
ああ、それよりも、魔法に集中しないと!
「アンディ兄様、わたし、葉っぱとか花とかだけじゃなくて、蝶々みたいにひらひら~って飛ぶようなものが作りたいです!」
「ああ、そうだね。もうその段階に行っても大丈夫かな」
よし、ということで。
まずは蝶々の観察をすることになった。
「蝶々って言っても種類はいろいろだから……。この辺に飛んでいるのは、えーと」
辺りを見回してみれば、いろんな種類の蝶々が飛んでいた。
翅の表面に美しい紫色があるムラサキシジミ。
翅の黒い筋が目立つスジグロシロチョウ。
「あ、兄様。あの大きめの蝶々が一番キレイです!」
せわしなくパタパタと羽ばたきして飛び回っている蝶々。
黄色くて、それで、翅の縁とか付け根部分は縞模様が黒色なの。
「ああ、アゲハ蝶だね」
「アゲハ蝶って言うんですね……」
ジーっと観察をしてみる。
大きな翅が二枚。小さな羽根が二枚。合計四枚の羽根を動かして飛ぶアゲハ蝶。
その翅は胸……っていうのかしらね、脚も胸……のところについている。で、動かし方は……飛んでいるときの蝶の翅は、前翅と後翅バラバラに動くのではなく、一緒に動いている。
なるほど、なるほど。
同じ飛ぶという動作でも、鳥の飛び方と蝶々の飛び方は違うみたい。
この飛び方、わたし、魔法で再現できるのかしら?
とりあえず、金色のキラキラで、アゲハ蝶の形を作って、作ったアゲハ蝶の翅を動かしてみることにした。
よく観察して、真似して、作る。
うん、画家の人が絵を描くのと似ている感じ?
とにかく見て、作るを繰り返した。何度も、何度も、何日も。
蝶々の形を作るところまでは、割と順調だったのだけど……。その翅を動かそうとすると、胸部のところから、翅が、ばっきりと折れて落ちる。
う、うううう……何が足りないんだろう。
何十回くり返しても、バキバキに折れてしまう……。
あー、これ、どうしたら、本物の蝶々みたいに、自由に翅を動かせるようになるのかしらー?
蝶々の動かし方に熱中していたわたしは、アンディ兄様に対するちょっとした疑問を、いつの間にか忘れていった……。
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