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第7話:こんやく?konnyaku?こんにゃく?婚約ですか

王都の公爵邸に到着した私は支度を済ませ、ルイスお父様と面会した。


「お父様、お久しぶりです」

「久しぶりだね、マーサ。領地での生活はどうだったかい?」

「とても充実しておりました。周りにもよくしていただき、ご飯もおいしかったです。お祖母様の鍛錬は少々大変でしたけど」


お父様が遠い目をした。

「母からは、公爵家たるもの実力をつけろ権力だけの無能になるな、と言われて子供のころ鍛錬させられたよ」

「私も言われました。我が家の恒例行事なのですね」


たわいもない会話を数分した後に、急にお父様が態度を改めた。

「突然で悪いんだけど、良いニュースと悪いニュースどちらから聞きたい?」

「ほんとに突然ですね。それでは、良いニュースからお聞きします」

「あっごめん。悪いニュースしかないんだ。ふざけないとやってられないというかなんというか」

ちょっとお父様!

私はため息をついた。

「はぁ。そうですか。それで、悪いニュースというのは?」

「実はマーサの婚約者が決まった」

「あら、そうなのですね。お相手はどなたでしょうか?」


この時の私は、9歳を超えて10歳になっていることから油断していた。

冒険者を続けさせてくれる相手だといいなぁと呑気に考えていた。


「婚約が決まったのに驚かないんだね」

「はい、公爵家の娘である以上、避けては通れないことだと受け止めています」

「そうか、、、婚約者なのだけど、第二王子のムーノ殿下だ」


私の顔にピシッと衝撃が走った。


「お父様、なんとおっしゃいまして?」

「第二王子のムーノ殿下だ」

「なんで!?ムーノ殿下?と?こんやく?」


こんやく?konnya ku?こんにゃく?

我がグンマが誇る特産品であるこんにゃく、つるっとしたした食感が美味しんだよなぁ、、、

現実逃避をしている場合ではなかった。


「お父様、断れないのですか?」


私は真顔で詰め寄った。悪役令嬢フラグをたてるのは避けたい。


お父様が指をパチンと鳴らして防音結界を張った。お父様は土属性が得意だが、無属性の中でも珍しい結界魔法にも才能がある。


「わたしだって、わたしだって断りたい!これでもなんとか回避しようとしたんだよ。スパイン帝国との停戦直後に陛下から打診されてから、この1年間のらりくらりとかわして、うやむやにしようとしていたんだ。けど、先日陛下から部屋に呼ばれて、どうしてもと言われてしまった」


お父様はほんとに嫌がっているようだ。確かに、さっきも悪いニュースと言っていたし。

お父様の様子から見るとあまり期待ができないけれど、一縷の望みをかけて聞いてみよう。ゲームとは違って、ムーノ王子が女スパイに籠絡されないほどにしっかりしていればまだ可能性がある。


「私はまだムーノ殿下とは直接お会いしたことがないのですが、どのような方なのですか?」


「王子である自分に酔っていて、」

なんと

「権力と実力を履き違えているというか、」

えー

「王城の行政官と話しても上部だけの受け答えというか、」

あーー


意を決して私は聞いてみた。

「一言で言うと?」

「無能なポンコツだね」


しばし、父と娘の間には沈黙が訪れた。



「ムーノ殿下のお人柄については理解しました。理解したくはありませんが、理解しました。私が選ばれた理由をお聞きしてもいいですか」

権力が好きそうなムーノ殿下が私に婚約を申し込んだ理由が、もしも、身分の高い公爵家の娘だから、とかなら、別の人を探してもらうようにお願いしよう。


「ユースティティア王国の属国であるアメリアは知っているね?」

「はい、知っています」

ユースティティア王国が衰えることになる、元凶の国ですものね。


「昔はユースティティア王国の王族が直接統治していたこともあったんだけど、今は代官が統治しているんだ。けれど、スパイン帝国が南中央大陸を統一して、ユースティティアにも攻め込んできただろう?だから、土地や資源もあって東大陸の玄関にもなっているアメリアは国力を蓄える意味で重要度が高く、改めて王族が直接統治することに決まったんだよね」

「その王族として、ムーノ殿下に白羽の矢が立ったのですか?王太子のユーノ殿下はともかく、まだ8歳とはいえ第一王女のエフィー殿下もいらっしゃると思うのですが、、、」

「ムーノ殿下が第二子だからね、生まれた順かな。この国は保守派の貴族が多くて、まだそこまで柔軟じゃないんだよ。ただ、ムーノ殿下の実力的に逆にアメリアが混乱して損害がでかねないことを陛下は懸念していてね。アメリア統一の時に遠征隊を率いていたアクトゥール公爵家の後ろ盾が欲しい、と陛下に頼まれてしまったんだよ。おそらく、いざとなればアクトゥール公爵家がアメリアの実権を握った方が、国のためになると考えてもいると思う」


ムーノ殿下の希望ではなく、国王陛下の采配でしたか。そうですか。


「陛下ご本人にそこまで言われてしまっては、断るのは難しそうですね。私もこの国の貴族です、国のためとあればその婚約お受けしましょう」


ただ、予防線ははっておきたい。

「婚約を受けるにあたり、内密に条件をつけることは可能でしょうか」

「内容にもよるけど、どういう条件かな」

「もしもムーノ殿下が今後成長しないようでしたら、アメリアの統治は現地の代官様にお任せしたいです。そこに、王族に近しく有能な人材を補佐という名目で監視として送れないでしょうか」

「それは、ありかもしれないね。子供のうちならともかく、大人になっても権力におんぶにだっこで実力のない無能は国を担う資格はないよね。国にとっては癌だ。言い方には気をつけるけど、陛下にも提案してみよう」

「その時はこちらから婚約破棄できませんか・・・?」

「・・・聞いてみよう」


ふう、っと肩の力を抜いて椅子に深く座りなおしたお父様の顔がふと暗くなった。


「とはいえ、ムーノ殿下に関してはわたしにも思うところがあるんだ。マーサはムーノ殿下の母君である第二王妃様の件は知っているかい?」

「スパイン帝国の防衛戦で犠牲になられたとお聞きしています。王妃として気高く、国の為に尽くされていた方でしたのに、非常に残念です」

「ムーノ殿下がちょっと残念な感じになったのは、しっかりとしていた母君を亡くされた影響もあると思うんだ。陛下も、戦後処理や、対スパイン帝国に対する防衛同盟を隣国と結ぶので忙しくて、あまりムーノ殿下の教育にまで時間をさけていられないようだし」


哀しそうな顔でお父様が続けた。


「わたしが、第二王妃様を守れていれば良かったのだけど、、、騎士の家系出身だから任せない、と言って防衛に向かったのを強引にでもとめるべきだったのかな、、、」

「お父様、、、お父様が守っていたのはサウプトン領の西部で、第二王妃様が守っていたのは東部だとお聞きしています。あまりご自分を責めないでください」

それは本人が一番わかっているだろうけど、言わずにはいられなかった。


「ありがとう。それでかな、せめて公爵として殿下や国政のサポートをしたい気持ちもあるんだ」


そういってお父様は防音結界を解除し、部屋から出ていった。


お父様の胸中は複雑なのだろう。ムーノ殿下の能力的に婚約は結びたくないが、国の為や第二王妃様の件がある。

娘としてできる限り頑張ろうと思った。

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