第4話:教会で固有スキルと魔法を調べました
翌朝、朝食を食べるためにダイニングに着いたら、お祖母様がいらっしゃった。
「おはようございます、お祖母様。どうされたのですか?」
「おはよう、マーサ。本格的に鍛錬を開始する前に、教会にいって洗礼を済ませてしまいましょう」
「洗礼というと、固有スキルと魔力の確認ですか?私はまだ8歳ですよ」
「そうね、10歳になれば国と教会が主催する合同洗礼式があるのですけれど、貴族の場合はそれよりも早く洗礼を受けることもあります。自分の能力は早めに把握していた方が鍛錬も効率的になるでしょう」
お祖母様、完全に私を鍛える気満々だ。
「そうですね、、、わかりました。いつ教会に行きますか?」
「先延ばしすることでもないし、準備が出来次第行きましょう」
「今からですか!?」
「何か予定があった?」
「いえ、ありません」
「じゃ、決まりね。準備できたら教えてちょうだい」
お祖母様、すぐに私を鍛える気満々だ。
「は、はい。わかりました。お祖父様もいらっしゃっるのですか?」
「あの人は別邸で新しい果実の研究をしているわ」
お祖母様は少し呆れた様子だったが、私は口元が緩んでしまった。お祖父様らしい。
開拓の聖女様に影響された初代がそうだったからか、アクトゥール公爵家は新しい食べ物の探求に熱心な人が多い。そのおかげで新しい食べ物が領内に広がるのだからありがたい。
マーサは朝食を食べ終わると、専属メイドのアルマを呼んだ。
「アルマも一緒に教会に行きましょう」
「お嬢様、お誘いいただけるのは嬉しいのですが、わたしは10歳なので、すでに洗礼をすませております。お邪魔ではないでしょうか」
「すでに洗礼を済ませていることは、知っていますわ。単純に一緒に行きたかっただけなのだけど、だめかしら?」
「そんなことありません!すぐに準備いたします!」
アルマは食い気味に答えた。かわいいご主人様と一緒にいられる時間が増えるのは嬉しいようだ。
マーサとアルマは嬉しそうに準備を整え、祖母に連れられて教会に向かった。
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公爵邸から1時間ほど馬車を走らせ、私とお祖母様とアルマは教会に着いた。
この世界にも教会はあり、信仰されている神様もいる。教会の偉い人が女神様から神託をうけることもあるようだけれど、どこまで本当かはわからないわよね。前世で無宗教だった私は神や女神の存在を信じていないけれど、そこはまぁ教会には大人の事情など色々あるということで納得している。
私たちが教会の建物に近づくと、ちょうどいいタイミングで教会のドアが開き、落ち着きのある服に身を包んだ司祭様が出迎えてくれた。
「ダフネ様、お待ちしておりました」
ダフネとは私のお祖母様の名前である。
「お出迎えありがとうございます。本日は孫のマーサの洗礼で伺いました」
「かしこまりました。準備は整っております」
「マーサ様、こちらでございます」
司祭様は段取り良く私の案内を勝手出た。
この手際の良さ、お祖母様は私の知らぬ間に先触れを出していたようだ。
さすができる貴族。
教会内部の装飾や綺麗なステンドグラスをながめているうちに、洗礼を行う区画に到着したようだ。
先を歩いていた司祭様が立ち止まり、柔らかい表情をしながら私に向き合った。
「マーサ様、すでにご存知かも知れませんが、洗礼について説明させていただきます」
「洗礼は、固有スキルの判定、魔力の測定、魔法属性の判定の3つで構成されています」
「はい」
司祭様は私に質問をしてきた。
「固有スキルについてはご存知ですか?」
「個人の資質に応じて発現する能力、でしょうか」
「その通りです。実のところ、洗礼をしなくても固有スキルは効果を発揮しているのですよ。ただ、名称と効果を正しく認識している方が使いこなせるので、洗礼を行う必要があります」
ちゃんと理解せずに上部だけで使っても効果を十分発揮できないものね。
「洗礼における固有スキルの判定は、水晶が置かれた個室にご本人だけが入室して行われます。騎士団や魔法師団、冒険者から、自分の手の内を広く公開したくないという要望を受けて、ご本人だけが知る形式をとるためです」
前世の健康診断でもプライベートなことは個室で相談していた人もいたし、そんな感じなのかな。
「判定結果は、誰にも話してはだめなのですか?」
「そういうわけではありません。あくまで、不特定多数に能力バレや弱点バレを防ぐのが目的なので、パーティーメンバーやご家族など親しい相手には話している人も多いですよ。有名になると固有スキルも広く知られてしまいますが、その頃には戦いにも慣れますし、絶対に秘密にするというわけではありませんね」
「わかりました」
その後、司祭様と私は何回か質問のやりとりをして、実際の判定手順に話がうつった。
「こちらのお部屋の中に、固有スキル判定用の水晶があります。水晶に触れると、頭の中に声が響きます。その声が、固有スキルの名称と能力の概要を説明してくれます。判定が終わったら個室から出てきてください」
「ご説明ありがとうございます。早速判定してみます」
私は個室に入り、ドアを閉めた。
前世の親友が話していた、ゲームの中のマーサ・アクトゥールの固有スキルが、魔力制御効率化だったので、私も同じだろうと思いながら、水晶に手を触れた。
「固有スキル名:ソウルオブグンマ。効果:グンマジンに相応しい身体能力を獲得、および、グンマカルタに関連する事象の行使」
はい?ソウルオブグンマ?なにそれ?
・・・数秒ほど思考が停止してしまった。とりあえず、部屋からでないと。
「司祭様、判定が終わりました」
私は淑女スマイルをうかべ、何事もなかったかのように部屋からでた。
「お疲れ様です。このまま魔力の測定に移ってもよろしいでしょうか」
「はい、お願いします」
洗礼の時には司祭様が一通り説明しているのか、今度は魔法属性について教えてくれた。
「魔法属性には4大属性と3つの特殊属性があります」
司祭様はこちらを見ながら話を続けた。
「4大属性は、火、水、風、土です。4大属性に適性がある場合は、最も適性がある属性以外にも3つの属性を多少使うことができます。台所で火をつけるなど、生活魔法程度ですが。一方で、特殊属性である光と闇はそれぞれの属性しか使えません。特殊属性には、無属性も存在しています。無属性は、身体強化や幻惑魔法、精神干渉魔法、結界などです。強い幻惑魔法や結界などは、適性がある人しか使えませんが、光と闇に適性がある方も含めて、全ての人が使えるのが無属性です。全体の割合としては4大属性が9割、特殊属性が1割くらいです」
司祭様は、カンペでもあるのかと思うほどスラスラと説明している。チュートリアルみたい。
「魔法属性の判定には、無属性であるホワイトスライムの体液を染み込ませた布に魔力を通すことで行います。火属性の場合は赤色、水属性の場合は青色、土属性の場合は黄色、光属性の場合は、金色と銀色が混じったような色、闇属性の場合は黒色になります」
リトマス試験紙みたいね。
「魔法属性は隠しにくいので、個室ではなくこの場で判定してしまうのですがよろしいですか」
「問題ありません。早速調べてみたいです」
司祭様が渡してくれた布に魔力を通すと、少し薄い青色に変化した。
「青色ということは、私は水属性ですね」
「少し薄い青色をしているので、氷の方が得意かもしれませんよ。どちらも同じ水属性なのですが、たまに直接氷を出す方が得意な人もいらっしゃいます」
そういえば、氷を作って飲み物を冷やしたりししていることを思い出した。
「わかりました、色々と試してみます」
司祭様は、私が布に魔力を込めている間に準備していた別の水晶について話をはじめた。
「こちらは魔力量を測定する水晶です。魔力量に応じて、色が変わります。赤、黄、緑、青、紫
の順で魔力量が多くなります」
前世の学校の健康診断みたいな流れ作業で、どんどん話が進んでいく。司祭様が、看護師に見えてきた。
「魔力量に関してですが、王立魔法学園の入学に関係するので、個室ではなくこの場で測定して結果も記録させていただきます。しかし、魔力量は年齢とともに増加する場合もありますので、今回の結果が絶対ではありません」
王立魔法学園という不穏な単語が聞こえてきた。乙女ゲームが繰り広げられる舞台ではないでしょうか。どうする私?どうする?そもそもあの王子と婚約しなければ問題ないかもしれないし、私の魔力量が多いことは誤魔化せないだろうから、王立魔法学園に通うことはことから避けられないと思う。
ここで足掻いてもしょうがないかと思い、ベルトコンベアーに運ばれる荷物のように、洗礼の流れに乗ることにした。
「わかりました、この水晶に触れば良いのですね?」
水晶に触ると紫色に光った。やっぱり魔力量が多い。
「紫色なので、マーサ様の魔力量はかなり多いですね。おめでとうございます」
「ハイアリガトウゴザイマス」
王立魔法学園への入学がほぼ確定してしまった気がした。
司祭様から、洗礼を実施したことを示す証明書をもらった。
「こちらが洗礼を終えた証明書です。再発行もできますが、なくさないようにしてください」
私は証明書に目を通した。
洗礼の証明書は2種類あるけど、合同洗礼式でも配られる簡易版をもらった。
簡易版には、洗礼を終えたことした書かれていない。もう一つのしっかりしたタイプは、汝の魔法属性は〜みたいな感じで格式ばっていて、貴族が好みやすい。今回は急な訪問だったから簡易版になったのかな?
私と司祭様は教会の控え室に戻ってきた。
「ダフネ様、マーサ様の洗礼が終わりました」
「急な訪問にも関わらず対応いただき感謝いたします」
お祖母様と司祭様の談笑が終わるのをまって、私たちは教会からでて、馬車に乗り込んだ。
洗礼が終わったということは、次はあれだ!!
「お祖母様、アルマ、私このまま冒険者ギルドに行きたいですわ!冒険者登録したいですわ!」
やる気に満ちていた私は馬車の中でさっそく希望をつげた。
しかしながら、その直後にお祖母様が困ったように告げた言葉により一気に奈落に落ちてしまった。
「残念なことを言うようだけど、冒険者ギルドの規定では、登録ができるのは10歳からです」
「・・・えっ?」
お祖母様の言葉が頭の中で回っている。
「つまり、私はあと2年待たないと冒険者になれないのですか?」