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第3話:婚約を避けるために領地に戻ります

アクトゥール公爵領は、ユースティティア王国の北東に位置し、氷河湖や渓谷など美しい自然に囲まれたのどかな地域である。広い土地を活かして穀物の生産も盛んで、海に面してもいるので水産資源もあり、豊かな領である。


馬車に揺られながら、マーサと専属メイドのアルマは話をしていた。


「マーサ様、思ったよりも早くアクトゥール滞在の準備が整いましたね」

「ええ。王都の公爵邸は寂しいので、領地運営のお勉強をしているお兄様のところに行きたいとお願いしたかいがありましたわ」


前世17歳、今世8歳、足して25歳の私であるが、8歳の子供らしく、それは可愛く、それはあざとく、アクトゥール行きをお願いしていたのだ。死活問題なのだ、なりふり構っていられない。


「アクトゥール領は魔物が強いと聞いておりますが、大丈夫でしょうか」

「戦闘に慣れた方が多いので、安心して大丈夫ですわ」


そう、これも私がアクトゥール領の滞在を決めた理由の1つだ。魔物が強いため、腕試しや修行のために、各地から強い冒険者が多く集まる。強い人が集まるので、トーナメントや模擬戦や武闘会も多くなる。そして、対魔物、対人間、両方の経験がつめる。

もしも万が一、将来的にアメリアの独立戦争の戦場に送り込まれても生き残れるように、私自身強くなりたい。鍛錬にはもってこいの環境なのだ。


「わたしも護衛の訓練を受けておりますので、いざという時はマーサ様をお守りしますね」


アルマがニコッとしながら腕に力コブを作っていた。かわいい。彼女は、武術も嗜む系の専属メイドである。しかも筋がいい。


「ありがとう。頼りにしています」

私は微笑んだ。


その後、私たちは、アクトゥール領の食べ物やお菓子など、年頃の女の子っぽい会話を楽しんだ。


ーーーーーーーーー


「マーサ、久しぶり!」


10日ほどの馬車の旅を終え、アクトゥール領の公爵邸に到着した私を、お兄様が真っ先に笑顔で出迎えてくれた。


「オリバーお兄様お久しぶりです。王都は寂しかったので、領地ににこれて良かったですわ」


私のアクトゥール滞在の準備のために、頑張ってくれたお兄様に抱きついた。


「マーサのためなら、準備なんてすぐにやるよ!いつまでもいていいよ!」

・・・うん?気のせいかな。小さい妹に対する普通の態度だよね。


「テオも久しぶりね」


現在3歳になる弟の頭をなでながら、私はお兄様との会話を続けた。


「道中問題なかった?」

「大きな問題はありませんでした。ただ、一度馬車がぬかるみにハマってしまい大変でした」


横で会話を聞いていたアルマはその時のことを思い出していた。

あの時のマーサ様は、身体強化もせずに馬車をお一人で引っ張っていらしたわね。

アクトゥール公爵家のご息女といえど、まだ8歳の女の子がそんなことできるのかしら。


アルマがあれこれ考えている間に、オリバーとマーサの会話もひと段落したようだ。


「そうだ、お祖父様とお祖母様がいらっしゃっているよ」

「それを先に言ってください、お兄様。早くお会いしたいです」


お祖父様とお祖母様は、普段はアクトゥール領の別邸で引退ライフを満喫している様子で、たまに公爵邸に顔を出しているようだ。


案内された部屋は、派手すぎない上品な装飾を施されて、親しみやすい高級感に溢れている。さすが、公爵家、センスがある。


「お久しぶりです。お祖父様、お祖母様。お会いできて嬉しいです」

「久しぶりだね、マーちゃん。砂糖菓子食べるかい?」

いきなり餌付けしてきたのはお祖父様。


「久しぶりね、ちゃんと鍛錬はしている?」

いきなり鍛錬の話をしたのはお祖母様。


お祖母様は、ブラッディープリンセスというちょっと怖い異名を持っているバリバリの武闘派であるが、普段は優しい。

私は武術や魔法をたびたび教わっていた。


「はい、剣の扱いにも慣れてきました。魔力も徐々にコントロールできるようになってきました」

「それは良かったわ。魔法の発動の練習よりも、今はまだ魔力操作に慣れる方が先よ」


魔法を暴発させると危ないので、魔法の発動よりも、魔力操作を優先して練習している。とはいえ、小さい氷を作って飲み物を冷やしたり、簡単な魔法は使える。


「これからあなたがアクトゥール領に滞在するなら、今まで以上に稽古をつけてあげられるわ」

お祖母様は良い事を思いついた!といわんばかりのとても明るい顔だ。


「ヨロシクオネガイイタシマス」


お祖母様の鍛錬はスパルタなので、カタコトで返事をしてしまっても仕方がないと思う。

お祖母様は、公爵家たるもの実力をつけよ、権力しか取り柄のない無能になるな、が教育方針なのだ。

一緒に鍛錬を受けることもあるアルマをちらっと見ると、壁際に立ち、気配を消そうとしていた。


私が少し遠い目をしていると、

部屋の扉がノックされ、執事が夕食の準備がそろそろ整うことを告げた。


「おや?もうこんな時間になってしまったのか。あとは兄妹水入らずの時間を過ごすといい」

お祖父様はそうおっしゃり、お祖母様と共に別宅に帰っていった。


私は夕食と聞いて、ルンルン気分でソファーに座っていた。

「アクトゥールの食事は久しぶりで、楽しみだわ」


つい嬉しさがこぼれたつぶやきにお兄様が反応した。


「マーサの嬉しそうな顔が見れてよかったよ」

「王都の食事も美味しいですけれど、アクトゥール領には色々とありますからね」

「そうだね、マヨネーズもあるし、砂糖も日常的に手に入りやすいし、国内でも珍しいコメもあつかっているからね」


ありがたいことに、アクトゥール領には、米もあるのだ。主食は小麦だが、米も手に入りやすいのだ。


「初代アクトゥール公爵が珍しい食べ物を領内に広めたのでしたっけ?」

「そうそう、当時一緒にアメリアを開拓した聖女様から教えてもらったらしいよ」


私は少し記憶をさぐった。


「開拓の聖女様ですか。美味しい食べ物に目がなかった方ですよね」

「世間では、戦乱の時代のユースティティアの防衛、および、東大陸のアメリア開拓に貢献した偉大な聖女、という印象だけど、初代アクトゥール公爵が残した開拓に関する手記を知っているわたし達としては、食べ物の印象が強いよね」

「あの手記には色々なエピソードがありましたね」

「どこからともなく、砂糖の原材料になるテン菜を見つけてきて、さぁデザートを作ってくれとつめよってきたとか」

「どこからともなく、カカオを探してきて、これでチョコレートを作ってほしい、というのもありましたっけ」


さらに、お兄様がニヤっとしながら言った。


「一番のエピソードはあれだね」

「あれですね」

「コメという、小麦とは異なる穀物がアメリアよりもさらに東の地域にあるという情報を知った聖女様の雰囲気が一変した時のことだよね。ユースティティア王国と東大陸は海で隔てられているから、東大陸での交易を安定させるためには、アメリアを安定して統治する必要がある、と力説し、獅子奮迅の活躍をしたというあれだね」

「騎士もびっくりするくらいの活躍だったようですね」


正直なところ、元日本人の私はこの気持ちが痛いほどわかる。米は正義だ。おそらく開拓の聖女も日本からの転生者だったのだろう。


「他にも新鮮な魚介類を使った、サシミやスシも彼女の発案らしいよ」

「食卓が豊かになってとてもありがたいですね。アクトゥール家は聖女様のお墓に足を向けて寝れないです」


久しぶりの兄妹水入らずの会話を楽しでいると、また部屋がノックされた。夕食の準備が整ったようだ。


「マーサ嬢、わたしとディナーに向かいませんか」


お兄様は紳士のように私の手を取った。


「まぁ!エスコートしてくださるのですか。それではよろしくお願いいたしますわ」


そうして私は、偉大な先輩に心の底から感謝しながら、前世の記憶を思い出してから初めてのアクトゥール領の夕食を美味しくいただいた。


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