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第24話:夏休みにアメリアに行きます(2)

マーサはいま、アメリアの領主館の執務室で無言で書類を処理している。


マーサはアメリアに来た本来の用事であるアメリア運営の手伝をしていた。

レオ、レイラ、ファウナはせっかくだからまずは観光を、ということで送り出されている。迎賓館に泊まる以上何もしないわけにもいかないので、レオとレイラは魔物退治の手伝い、ファウナは教会の手伝いを行うことになっているが、初日は観光になった。


そのため、執務室には、マーサとクラトスとアルマしかいない。


「マーサ嬢、あの」

「クラトス様、この書類、ここの数字が間違ってますよ」


「お嬢様、温かい紅茶をお持ちしました」

「そう。ありがとう」


しばしの沈黙。


「「先ほどは、すいませんでした」」

「はぁ、二人とも顔をあげてください。しょうがないですね」

「「ご寛大なお心遣い感謝致します!」」


実際、本当に困ることは言われてないし、みんなの緊張をとるためもあったのだろう。

さて、と私は気持ちを切り替えた。

「クラトス様、お伺いしたいのですけれど、いつもよりも私に回ってくる業務が少なくありませんか?」

「ジャックとミントの兄妹が、自分たちがやると言ってました」

「あのお二人が?」

「はい、おそらく、ジャックの弟君の尻拭いではないでしょうか」

「それはありえるわね。あれの破棄の可能性が高くなってて嬉しいわ」


私はイスに座りながらノビをした。

「そうですね、さすがにあの無能っぷりだと。あっ、この書類目を通してもらってもいいですか」

「そうよね、あれ以来アメリアにも来てないし。確認したわ、問題ないと思う。こっちの書類のこの箇所なんだけど、どういうこと?」

「実力以上のことをやることになった点については同情しますけど、権力をふりかざしてごっこお遊びをしているだけらしいじゃないですか、嘆かわしい限りです。うーん、これは現地特有の文化の影響ですね。小さな村なのであまり知られてないのですが、特に変な申請ではありません」

「あなたも聞いていると思うけど、ごっこ遊びばかりで成長しないから同じ組織内でも無能扱いされているらしいわ。わかったわ、そのまま申請通しちゃって」

「らしいですね。これで書類の束が一個終わりですね」

「終わったわね」


「以前マーサ嬢に言われてた件なんですけど」

「どうでした?」

「アメリア独立派が徐々に増えていることがわかりました」

「やっぱり・・・」

「さいわい、早めに気付けたおかげで国に癌が広がらないように対処ができます」

「何かあったら知らせてください」

「姫様の仰せのままに。ところで、チョコレートクッキーが余って」

「食べる!いいの?」

「食い気味に答えるくらい食べたいんですね。少々お待ちください」


アルマは二人の様子を見ていた。二人が出会ってから4、5年間経つけど、なんやかんや息があっているのになぁと思っていた。


ーーーーーーーーー


レオ、レイラ、ファウナは街に繰り出していた。

オールドミルは港町ということもあり、活気がある。


「クラーケン焼きー、新鮮なクラーケンの足を使った、クラーケン焼きはいかがでしょうかー、今朝とれたばかりのとれたてぴちぴちだよー」


「レオ、わたしあれ食べてみたい」

「クラーケン焼きか!うまそうだな。ファウナ嬢はどうする?」

「わたしも気になります!」


3人は、実質たこ焼きであるクラーケン焼きを食べながら、街の散策を続けた。


「食べ歩きって、新鮮だな」

「そうね、レオ。食べながら街も散策できるなんて、2つを同時に満喫できて楽しいわ」

「貴族になると難しいですよね」

「ファウナ様も、昔は食べ歩きをしてましたか?」

「そうですね。わたしが育ったのは街の平民街だったので、日常的でした。懐かしいです」


3人は談笑しながら、レンガ造りの建物が並ぶ目抜通りを歩いている。


「レイラ様!レオ様!あそこにお菓子屋さんとパン屋さんがあるので、行ってもいいですか?チョコレートを使った商品が売っているみたいなんです!」


ファウナが指を指した先にはおしゃれなお店があった。

レオとレイラは、もちろんとうなづいて、小走りで走り出したファウナの後に続いた。


ーーーーーーーーー


「お兄様、、、」

「わかっている、我が妹よ。これはひどい」


ユーノ王子と、エフィー王女は、オールドミルにいる代官や有力者への挨拶回りをしている。

その移動の馬車の中で、ムーノ王子のアメリア関係の仕事ぶりがまとめられた報告書を読んでいた。


「ムーノ自身から話を聞いた時は、もっと活動成果があるはずだったが・・・?」

「そうですよね、これを見る限りめぼしい成果がないではないですか」

「それだけではなく、失敗をごまかすために、全体の中で見ればこれで問題ないとか、実は別の計画でした、と上部だけの言葉で取り繕うとしていたことも明らかになったな」

「本当にわたくしたちと同じ王族ですの?恥ずかしいです。もう追い出しません?」

「妹よ」

「あら、申し訳ございません。つい口が滑りましたわ」


少し経ち。


「アメリアの文官たちがまとめた収支報告書には目を通したか?」

「先ほど見ました」

「どう思う?」

「1000ゴールドのワインを100万ゴールドで買っているような無駄遣いが多いです」


ユースティティア王国の通貨は、ほぼ1ゴールド=1円の価値である。


「なぜ、迎賓館から街中にただ向かうだけで護衛を2000人も動員したんだ?パレードじゃないんだぞ」

「初めてのアメリアで自分のことをすごく見せたかったのではないでしょうか」

「こんな権力の使い方をして、恥ずかしくないのか。他にも目を疑うことが書かれている。収支報告書が間違っているのと、ムーノの意思決定の判断が間違っていて本当に無駄使いしたのと、どちらだと思う?」

「後者だと思います」

「だよな、、、国の税金やリソースをなんだと思っているんだあのバカは」

「お兄様」

「あぁ悪い、つい口が滑った」


初日の挨拶回りを終えて、ユーノ王子とエフィー王女は馬車で迎賓館に帰る途中である。


「お兄様、、、」

「わかっている、我が妹よ。これはひどい」


「代官様や有力者様とお話ししましたが、ユースティティア王家への信用が落ちているように思えます」

「そうだな、、、ムーノの報告では自分の計画通りにうまくやっているとのことだったが、あてにならないことがわかった。監査を強めよう」

「それがよいと思います。承認や予算を多く取る為に、部下に命令して報告に色をつけていたのでしょう」

「頭がいたい・・・」

「この体たらくでは、アメリア独立派が増えるのも無理はないですね」

「あぁ、早めに実情調査に踏み切ってよかった。もう少し遅かったらと思うと正直ぞっとする。クラトス氏が情報をくれて助かった」

「クラトス様は有能ですからね。わたくしたちがアメリアにいる間にできる限り状況を改善しましょう。アメリアが独立を主張すると戦争に発展しかねません」

「そんなことになったら、国や国民に被害が出る。絶対に避けよう」


ユーノは現実逃避気味に馬車の窓から外を眺めている。

「それにしても、普通の商会や貴族なら、確実に重い責任取らされるレベルの失態じゃないか」

「本人が成長しないのもなおさらいただけませんね」

「なぁもうあいつの王族籍剥奪しないか?権力を持つ人間に相応しくないだろう」

「お兄様」

「あぁ悪い、つい口が滑った」


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