第23話:夏休みにアメリアに行きます(1)
「やっほーーーーーいいい!!!!」
「レオ様!船から落ちたら危ないです!降りてきてください!!!」
「マーサ様、これ見てください!チョコレートを使ったパンのレシピをいくつか考えてみました!試してみていいですか!」
「ファウナ様!アメリアにつけばチョコレートが大量にあります、それまで辛抱してくださ!」
「うっひょーーーーいいい!!」
「レイラ様、あのお猿さんを捕まえるのを手伝ってください!大丈夫です、ビーチとリゾートは逃げません!水着をバックから取り出したり、しまったりしなくても大丈夫なんです!」
「ひゃっほーーーーーーいいいいい!!!!」
「・・・いっそのこと、あのお猿さん、氷漬けにする?」
「まぁまぁ、アクトゥール嬢落ち着いて」
「そうですわ、マーサ様。せっかくの船旅ですわよ」
「私は、殿下達がここにいることがいまだに理解できません。なぜ、第一王子であるユーノ殿下と、第一王女であるエフィー殿下がいるのですか」
「教会に行ったら、ファウナ嬢がアメリアに行くって嬉しそうに言ってたから羨ましくて、きちゃった」
「わたくしは、お兄様が行くと聞いたので、きちゃいました」
「国の仕事はいいんですの!?」
「それも大丈夫、早めに片付けてきた。ルーティーンワークはマニュアルにまとめ、俺のいない間に起こりそうな事とその対策も引き継ぎ書にまとめて指示してきた。もしも想定外の事が起きた場合は、父上か宰相が対応するということも手配してきた」
くっ!これだから有能は!それにしてもいい笑顔だな!
「王族が二人もいて、護衛は大丈夫なのですか!」
「この船と適度な距離を保っている商船が見えるだろう?あれとあれは商船に見せかけた王家の護衛だ!ちゃんと交易品も載せているから、ただの人件費の無駄遣いにもならない!」
しかもちゃっかり交易までしているし。
「護衛船が近くにいても、海面下から直接襲われたらどうするんですの!」
「この航路は主要な航路だから、魔物もしっかり間引かれている!それに、もしもの場合でも貴方がいればすぐに退治できるだろう!」
「わたくし、お姫様のようにマーサ様に助けられたいですわ!」
くっ!なんだこの王族!それにエフィー殿下は私に助けられなくてもすでに正真正銘本物のお姫様でしょうに!
「それと、俺たちはアメリアについたら、ジャックとミントと名乗る!すまないが話を合わせてくれ!」
私は思わず天を仰いだ。船の高いところで、風向きを確認していた船長様と目があった。はじめてアメリアに視察に行ってから、その後もアメリアに行くたびにお世話になっている。
その目が言っている、彼らは修学旅行でハイテンションになってるようなものだ放っておこう、と。
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無事にアメリアの首都オールドミルにつき、私はクラトス様のことをみんなに紹介した。
「こちらが今回私たちの案内をしてくださる、クラトス・アメルーシャ様です。アメリアは、4つの代官の家系が数年おきに交代でアメリアの運営を行っており、その中の1つの家系の方です」
ファウナがぼそっと独り言を言った。
「アメルーシャ・・・」
「・・・マーサ嬢、なぜかやつれていませんか?早めに迎賓館でお休みになられますか?」
「クラトス様、そうしたいのはやまやまなのですが、2週間の滞在中のおおまかな予定のすり合わせをしませんか」
「わかりました。その前にお聞きしたいのですが、そちらのお二人が例のご兄妹の方ですか?」
「ええそうです、兄がジャックで、妹がミントだそうです。今回お二人のおうちの事情で私に同行されました」
「クラトス様、お初にお目にかかります。わたしがジャックで、こっちが妹のミントです。わたしたちの家は大きな商いをしております。実家が今後の方針を決める為に、この度視察に訪れました。滞在中は、わたしたちのことは動く置物くらいにご認識ください」
クラトスは思った。動く置物と認識するのは、無理じゃないだろうか。変装しているとはいえ、王子様と王女様じゃないですか。王家としての国の運営を大きな商いと言っていることから、表立っては商家の子供として扱ってほしいのだろう。
「商家のご子息ご息女様でしたか。滞在中にご不便がございましたらおっしゃってください」
「感謝します」
翌日、私は、ファウナ、レイラ様、レオ様、クラトス様と朝食を食べ始めた。
「クラトス様、ジャックとミントの姿が見えませんが、お二人は?」
「マーサ様は聞いていないのですか?代官や街の有力者と会うようで、先ほど出発しましたよ」
あの2人ただ遊びに来ただけじゃなかったのね。
「わかりました。彼らは基本別行動と考えましょう」
「そうしましょう。ところで、皆様は王立魔法学園の1年生と伺っております。一年間を終えてみていかがでしたか?」
ファウナが答えた。
「今まで関わりがなかったような人たちと関わる事ができて、とても勉強になりました。魔法の使い方や武術など、今後の為にもっと身につけたいです」
「ファウナ様はご勤勉ですね」
あっ、クラトス様、どこぞの無能王子のことを考えてそう。
レオ様がニヤッとしている。
「今年一年で印象深かったのは、食堂凍結未遂事件ですね」
「レオ様!?それはもう昔の話ですわ!それよりほら!この焼き魚美味しいですよ!」
「レオ様そのお話を詳しくお聞きしてもいいですか?」
私が焦っているのをみて、クラトス様が笑みを浮かべた。
「もちろんですよ、クラトス様。うちの学園の食堂では、月に一度、特別メニューが用意されます。あれは、特別メニューがスシの時でしたね。マーサ様が、ショウユを取りに行っていた間に、他のご令嬢からの嫌がらせで、ネタの上に大量のワサビが置かれました」
「マーサ嬢も嫌がらせを受けることもあるのですね」
「たまにですね。魔法学園とはいえ、婚約者探しや人脈作りをしたいご令嬢もいるので、氷の女神として名高いマーサ嬢にちょっかい出す人もいます。普段は、これが貴族流のご交流?となぜか喜んでいるのですが、その時ばかりは違いました。席に戻ってワサビに気付くと、無表情になり、その瞬間その場の空気が凍りつきました。比喩ではなく物理的に、です」
「しょうがないじゃありませんか、寿司は楽しみにしていたのですから」
「大量の魔力を持っている場合は、感情に応じて魔力が周りに影響を与える場合もありますから。それですかね。その時はどうされたんですか?」
レオ様が続けた。
「カミラ様というご令嬢が事態に気付き、すぐにアルマさんを呼びました。アルマさんの機転で悪化は防げましたが、テーブル一個氷付になり、食堂全体に霜がおりてました」
「それは、なんとも、記憶に残る出来事ですね」
おいクラトス、笑いを堪えられてないぞ。
レイラ様が、何を思ったのか給仕のためにそばにいたアルマに聞いた。
「アルマさん、アルマさんは昔からマーサ様の専属メイドなのですか?」
「はい、7年ほど経ちます」
「その間、なにか面白いことはありました?」
ちょっと!レイラ様まで何を聞いているのですか。私の味方はファウナしかいない。
「そうですね・・・一番驚いたのは、ユースティティア王国に属国が増えそうになったことでしょうか」
みんなの声が重なった。
「「「「えっ?」」」」