第22話:王立魔法学園での1年目が終わります(2)
「勝負あり!勝者、レオ・コリンズ!」
会場から大きな歓声が巻き起こった。
男子決勝戦の勝敗がついたようだ。
私は、ファウナとレイラ様と一緒に控えテントから会場に戻ることにした。
会場に戻ると、地面に寝そべっている準優勝の生徒が、レオ様のことをすごく睨んでいることに気付いた。心なしか、観戦していた男子生徒からもレオ様に向けて憎しみを感じる。
レオ様がこちらに歩いてきて、レイラ様の前に片膝をついて、その手を取った。
「レイラ嬢、三日後に行われる学年末パーティーでわたしと一緒に踊っていただけますか」
「えっ、ちょっと、えっ?そういう感じ?」
レイラ様があたふたしている。この前のサロンのこともあり、照れているのだろう。
「あぁ!いつもと同じ、慣れた相手と踊る方がいいからな」
あーあ。レイラ様の顔も真顔に戻っちゃったじゃない。周りの女子の目も冷たい。
「そうですか。お誘いありがとうございます。謹んでお受けいたします」
レイラ様は事務的な様子でレオ様にハンカチを渡した。
周りの目が今度はファウナに集まった。
どうするんだろう?無難にシスターの祈りかな。本物の聖女の祈りは盛り上がりそう。
ファウナはバックからハンカチを取り出した。
「マーサ様、三日後の学年末パーティーでわたしと一緒に踊っていただけますか?」
「ふぇっ?」
予想外のことに口から変な声が出たけれど、私は急いで自分のバックの中を探した。ハンカチあった。よかった。
ムーノ殿下と私が踊らないだろうことは周囲もわかっているし、ファウナなら同性で角もたたないから大丈夫だと思う。
「謹んでお受けいたします」
一連のやり取りは、進級試験トーナメントの優勝者が、学年末に行われる慰労パーティーのダンスパートナーを指名できるという伝統であった。学園側が設定したものではなく、生徒が自主的に行い始めたものが受け継がれている。そこはやはり、年頃の少年少女、ロマンチックな青春を送りたい。
男子から誘う場合は、騎士のように片膝をつき相手の手をとる、女子から誘う場合は、淑女の授業で手作りの刺繍を施したハンカチを渡す。誘いを受ける場合も同様である。
決勝戦は年毎に男女交互に行っているため、後から決勝戦を終えた方が、先に誘うことになっている。両方の決勝戦が終わった直後の方が盛り上がるかららしい。
男女片方の優勝者がもう片方の優勝者を誘った場合は、準優秀者が誘うことになっている。男子でも女子でも、選ばれるかもしれないドキドキ感を満喫したいからだ。一回で終えるのはもったいない。
平民出身者も多いため学園内のパーティーは教育の場であることを強調し、習熟度を揃えて学年ごとにパーティーを行うことと、基本的には外部の参加者を入れないことを方針にしている。3年時になると外部を招いたパーティーもあるが、1、2年次は学外や他学年に婚約者がいる場合でも同一学年内でダンスパートナーを探すことになる。卒業パーティーは社交界デビューとして扱われるが、それ以外のパーティーはあくまで授業の一環として扱われている。
そのため、基本的にはこの場で誘われても断らないが、同じ学年に婚約者がいるのにも関わらず誘われた場合はさすがに断ることが多い。その断り方が、男子の場合は婚約者を忠誠の相手とし騎士の誓いに見立てて断る、女子の場合はシスターの祈りに見立てて断るというドラマチックな断り方をする。
1年生のパートナー探しは、進級試験トーナメント優勝者の指名を終えてから行われる。それくらい優勝者へは敬意が称される。学年内で、男女同数になるばかりではないので、同性でパートナーを組む場合もあれば、教員に相手をお願いすることもできる。
学年末パーティーまでの三日間は教師陣は試験の採点をしているため、学生は自由にすごしていいことになっていた。マーサは、試験の疲れを癒したり、羽を伸ばしているうちに、学年末パーティー当日になった。
「マーサ様、今日はよろしくお願いしますね」
「久しぶりのパーティー楽しみですね、ファウナ様」
私たちは、一緒に学年末パーティーの会場に入った。
「ごきげんよう、レイラ様」
「ごきげんよう、マーサ様」
レイラ様とレオ様が先に会場にいたので、合流した。
会場の端の方を見るとジャンヌもいた。学園の教師で攻略対象でもあるユー・アドカスと一緒にいる。教えを乞う真面目な生徒の感じを装いつつも、時折さりげなくその豊満な果実を当てている。向こうから近づこうとすると、飲み物を取るなどして距離をとっている。なかなかの手際だ。
遅れてムーノ殿下が会場にやってきた。
派手な女子生徒をエスコートしている。確かEクラスだったとおもう。
「あれはないな」
ムーノ殿下たちを見たレオ様が呟いた。
「そうね、レオ。あのドレスとアクセサリーの色、殿下の瞳と同じよ」
「あぁ、しかもオーダーメイドだから、三日間じゃ間に合わない。進級試験トーナメント前から準備していたことが丸わかりだ」
「わたしがマーサ様をダンスにお誘いする前から準備をしていたってことですか?それって、、、」
「本人的には、マーサ様がファウナ様と踊るから、と言っていたようだが、明らかに矛盾している。矛盾ばかりのくせに、威張っているからあれはダメだな。バカじゃないか?」
「レオ様!さすがにそれは!」
「マーサ様、他の生徒も思っている。殿下の矛盾癖は今に始まったことではないしな。全自動矛盾製造機と噂になっている。成長していない本人が悪い」
そうこうしているうちに、ファーストダンスの時間がやってきた。
「マーサ様、曲がはじまりますよ」
「そうね、ファウナ様。気を取り直して踊りましょうか」
「今回は私が男性パートを踊ってもいいですか?」
「もちろん。リードはお願いしますね」
ファウナもしっかりと成長している。嬉しい。
何曲か踊り終えて、席についた。今回もビュッフェスタイルだ。
カミラ様とも合流して美味しい食事を満喫している。
「もうすぐ夏休みだけど、みんなはどうするんだ?」
レオ様が聞いてきた。
「教会で過ごしたり、実家のパン屋に顔出そうと思っています。あっ、鍛錬も怠りませんよ!」
「わたくしは、フラメル領に戻りますわ。領地運営の手伝いをいたします」
「私はアメリアに行きますわ」
レオ様が興味津々という様子だ。
「俺はアメリアに行ったことないんだけど、どういうところなんだ?」
「そうですね・・・私たちの国よりも南寄りに位置していますね。ユースティティアの最南端の都市のサウプトンが、アメリアだと中部付近にあたります。アメリアの首都までは、一番近い航路だと船で半日くらいですね。開拓の聖女様が広めた、チョコレートなどが美味しいです。南部は特に、南国の気候で綺麗なビーチやリゾートもありバカンスに行く方も多いですね」
レオ様が少年のように目を輝かせている。
「船に乗るのか!?」
「えっ、ええ、そうですね。海を越えますし」
ファウナ様が目をキラキラさせて聞いてきた。
「チョコレートがあるんですか!?」
「えっ、ええ、そうですよ。カカオの大規模農場がありますね」
ファウナとレオ様が目を合わせてうなづいた。
「「一緒に連れて行ってください」」
「それは構いませんけれど、、、」
レイラ様と、カミラ様の方を見ると。
「アメリアの統治や運営に興味はありますが、今年の夏はわたくしは領地のことがあり、難しいそうです」
そうおっしゃっているけど、カミラ様はバカンスとリゾートにすごい名残惜しそうにしている。
「わたしは、レオが行くなら行こうかな」
レイラ様はそこまで興味はないけど、みたいな雰囲気を出しているけれど、おそらく、バカンスとリゾートに惹かれている。
「わかりました、アメリア側にも確認してみますね」
パーティーが終わって私は夜風に当たりながら一人で学園の庭を散歩していた。夏の始まりとはいえ、夜は肌寒い時がある。
今日魔法学園での1年目を終えた。確かにこの世界は前世の乙女ゲームの世界に似ているけど、違うことも多い。一緒に生活を送り、この世界に触れ、実際に人が生きている。ここは現実だ。無能王子のせいで、国やみんなに被害を出さないよう、できる限りのことはしよう。