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第12話:将来の領地、アメリアに行ってきます(3)

視察も残り1週間になった。もとから自由行動の予定だったが、移送ルートの件で、少し早く自由行動が始まっていた。

ムーノは、文化体験、社会見学と称して、カジノなど娯楽施設に繰り出している。貴族として経済を回す義務はあるが、今回のは無駄遣いだろう。


マーサは、アルマと一緒にアメリアの冒険者ギルドに行くことにした。王族の視察としてではなく、実際の市井を見てみたいのと、将来のためユースティティア以外の冒険者ギルドの様子を知っておきたいようだ。


「アルマの幻惑魔法はやっぱり上手ね」

鏡の前でくるくるしながら自分の姿をみて、優秀な専属メイドに声をかけた。

「ありがとうございます。わたしも準備が整いました」

「じゃ、今すぐギルドに行くわよ、メル」

「わかったわ、アテナ」

私とアルマは冒険者モードになった。


オールドミルにある冒険者ギルドについたけど、基本的な構造はユースティティアと変わらないようね。


「メル、この依頼見てみて!カカオ農園での収穫と害虫駆除だって、アメリアらしいわね!」

「南に行くほど赤道に近づいて暖かいから、この時期でも収穫をしているのね。人手が必要だから、人口の多い王都でも募集しているのかな」

「このクエスト受けてみる?住み込みだけど」

「1週間宿に帰らないのはさすがにまずいんじゃない?」


ふいに近くまできた少年が周りに聞こえないくらいの小声で話しかけてきた。

「僕もまずいと思うよ、銀髪のお嬢さん」

今は幻惑魔法で見た目を変えているはずだ。私とアルマは一気に警戒体制になったけど、少年の顔をみてすぐに警戒をといた。

「少し話をしたいんだけど、いいかな?」

目の前には、手をひらひらさせながら、それはもう人の悪そうな笑顔をしたクラトス様が立っていた。



私たちはギルドの近くにあるレストランの個室に案内された。秘密の話をするのにもってこいらしい。

「ここは防音もしっかりしているから安心していいよ。深くは聞かないけど、お嬢さんのことはなんて呼べばいいかな」

変装して冒険者ギルドにいた理由は聞かないことにしてくれたようだ。


私は首から下げていた冒険者のペンダントを胸元から取り出して答えた。

「アテナ、って呼んでちょうだい。ユースティティアで冒険者をやっているわ。こっちは姉のメルよ」

アルマは目礼をした、メイドとして話に入らないことにしたらしい。

「それで、話って?」

クラトス様は笑った。

「単刀直入だね。僕がなんで君たちに気付いたのか気にならないの?」

私とアルマは顔を見合わせた。

「それは気になるわ。メルの幻惑魔法の腕はいいはずよ。まさか宿からつけてきたの?」

尾行者の気配は感じなかったけど。

「違う違う、ギルドで見かけたのは本当にたまたま。メルちゃんの魔法の実力はすごい優秀だと思う。普通の人には気付かれないだろうね。僕の場合は少し特殊で、固有スキルなんだ」

「へえ、固有スキル」

「僕の固有スキルは、幻惑魔法とか精神干渉系魔法とかに対する強耐性なんだ。

それで、見覚えのある子が冒険者ギルドにいたから声をかけちゃった」

「そんな簡単に固有スキルをバラしてよかったの?」

「少しでも信用されたいからね。ちなみに魔法属性は光だよ」

うわぁ、なんか笑顔が胡散くさい。


「あなたがいいならいいのだけど。それで本題は?」

私は早くこの人の悪い笑みを浮かべる少年から解放されたい。

「実は、僕には最近知り合ったすごい立場がある人がいるんだけど、あれはダメだね」

ムーノ殿下のことね。

「どういうこと?」

「上部だけしか見れず、権力に縋って成長する気がない。しかも傲慢だ。国を任せようものなら、間違いなく損害を生み出す癌だよ。国賊で税金泥棒まっしぐらだよ」

私は、下手なことを言えないため、目で続きを促した。

「だから、その人が失脚しないかなーって、思ってる」

「はっきりと言うけど、それは私たちには手伝えないわ」

「わかっているから大丈夫。だから、もしそうなったらの話なんだけど、その人の婚約もなくなるだろうし、その時はアテナちゃんが僕と婚約しない?」

私とアルマはびっくりして同時に目を見開いた。これは予想外。

「は?」

こんやく?konnnyaku?こんにゃく??いやですけど。

「そんな嫌そうな顔しないでよ。精神干渉系に耐性があっても、素の反応には僕も傷つくんだよ」

「婚約をしたい理由は?」

「君が気に入ったから」

語尾に⭐︎がつきそうなノリで言ってきた。


私は席をたって帰ろうとした。

「ちょっと待って!ちゃんと話すから」

「最初からそうして欲しかったわ」

私はため息を吐いて座り直した。

「ごめんごめん、政略結婚だよ。アテナちゃん自身がしっかりしているから気に入っているのも本当だけど、アテナちゃんのご先祖様って有名じゃん。僕もそれなりだし、政略結婚としては好条件かなと思って」

私のご先祖様というと、アメリアを統一した初代アクトゥール公爵のことだろう。

「あなたもそれなりというのは?普通の代官の家系ではないの?」

「僕はね、開拓の女神の子孫なんだ」

これには私もアルマも驚いた。私のご先祖さまと一緒にアメリアを統一した聖女様の子孫だったとは。だから、視察の予定を決める時にこのワードに反応していたのか。

「そう、なのね」

「話を戻すけど、もしも例のお方が失脚したら、僕の国と君の国の橋渡しが必要になると思うんだ。その点、開拓の聖女の子孫である僕と、有名な先祖をもつアテナちゃんはぴったしじゃないかな」

確かに、理にはかなっているわね。

「例のお方の婚約につけられた内密の条件も関係しているの?」

「もちろん!」

私は、左手を顎にそえて考えた。

「私一人では決められないわ。実家に帰ったら私の父と、例のお方の父君に伝えて、後ろ向きに検討するわ」


「えっ、そこは前向きに検討してよ」

「私は冒険者になりたいの」


本題が終わったので、そのまま昼食をとることになった。サラダと一緒にハンバーガーとロブスターが出てきたので、美味しくいただいた。

「そういえば、アテナちゃんて刀に興味あるの?」

「えっ、そうだけど、急にどうしたの?」

視察でアメリアを回っていた時に、鍛冶屋があれば刀を探していたのを覚えていたようだ。残念ながら、両手剣ほどの大きな刀しかなく、手に合う刀を見つけられないでいた。

「僕には東方に詳しい知り合いがいるんだけど、希望にあう刀を探してみようか?」

私はテンションがあがった。

「いいの?私だけじゃ探すのに限界があると思ったのよね。あなたのツテ頼らせてもらうわ」

なにせアメリアの代官の家系だ、交易を結んでいる東大陸の東部にも商人などの知り合いがいるのだろう。

「片手で振り回せるくらいがいいかな!重さはあまり考慮しなくて良いから、長さ的に!魔法で強化して使うこともあるから、魔力の伝導効率が高いタイプがいい!極東の島国で作られたものだとなお嬉しい!お金に糸目もつけないわ!」

使う機会がなかったので、今までの冒険者としての報酬はほとんど貯金しており、結構な額にのぼっている。今使わずにいつ使うのか。

なぜかクラトス様は苦笑いしていた。

「僕との婚約の話も、それくらいキラキラした目をしてほしかったかな」

私のテンションは平常運転に戻った。

「善処するわ。それにしてもあなた、良い性格してるわね」

「ほんとに?褒めてくれて嬉しいな」

私のセリフが嫌味だと理解した上で、表面的な言葉の意味通りに返してきた。本当に良い性格していると思う。



若干の疲労感をともなう昼食会が終わり、私とアルマは冒険者ギルドで日帰りでできる依頼を受けることにした。

ついでに、クラトス様についても周りに聞いてみた。クラトス様も冒険者として活動しているようで、ギルドにいたのは本当にたまたまだったようだ。割が良い依頼や報酬が良い依頼はあまり受けずに他の冒険者に回して、自分は住民の生活に影響が出てしまいそうな依頼や、放置されて依頼者が困っている依頼を優先して受けているようで、評判はよかった。良い性格しているけど、代官業以外にも国や国民のために、活動していることは、まぁ評価してあげてもいいかな。


4週間の視察が終わり、私たちがユースティティアに帰る日になり、クラトス様がムーノ殿下に挨拶をしていた。


「この度はムーノ殿下とマーサ嬢の視察のご案内をさせていただき光栄でございました。お二方が将来アメリアを統治をされることを心待ちにしております」


「あぁ」

殿下は不機嫌そうに答えた。移送ルートの件など、思い通りにならなかったからね。

「こちらこそ4週間にもおよぶ視察の案内を引き受けていただいこと、感謝申し上げます。

クラトス様の博識には驚かされてしまいましたわ。おかげさまで、とても有意義な視察になりました。今後とも両国の間で良好な関係を維持できることを願っております」



船でユースティティアに戻った私は熱烈な歓迎をうけた。なんでも、アメリアに向かう前に渡したジャムのおかげで、船乗り病が改善した人が何人もいたらしい。もっとジャムが欲しいと言われたけど、ハシカプはまだお祖父様が個人的に栽培している程度しかないから、提供ができない。代わりに、野菜をペースト状にして船に持ち込んではどうですか、などアドバイスをしておいた。


マーサとアルマは気づいていなかったが、その様子を、第二王子ムーノ・ユースティティアは恨めしそうな目で見ていた。


一方クラトスは、知り合いの商人に依頼し、マーサがアメリアの視察から帰って一ヶ月以内に刀を見つけた。

権力だけのどこぞの無能王子とは違い、しっかり仕事をした。

桜花という銘をもち公爵令嬢に相応しい白い刃をした業物と、平民冒険者が使っても問題ない目立たないけど品質の良い黒い刃をした刀を極東の島国から取り寄せた。

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