第1話:来週婚約破棄されるようです
初投稿でございます。
よろしくお願いいたします・・・!
「ねぇ、ムーノ、あたしじゃなくてあんな女が好きなの?だからあの女と結婚するの?」
「そんなわけないよ、ジャンヌ。俺が心の底から愛しているのはお前だけだ」
「ほんとに・・・?そんなこと言っても、言葉だけじゃないの・・・?」
「言葉だけじゃないさ。不安を感じさせていたのか、、、」
「うん、、、」
「悪かった。よし、決めたぞ。1週間後に学園の卒業パーティーがあるだろう?そこで、お前を新たな婚約者にすると発表しよう。あの女には婚約破棄を突きつける」
「ほんとに!?嬉しいわ!」
「ついに、この時がやってきてしまったのね」
そうつぶやきながら私は、下品な感じで腕をお互いの体に回しながら甘ーい雰囲気に酔いしれ時折キスまでしている男女の会話を、少し離れたところから聞いていた。
私は状況を整理するために、物語風に頭の中で思考を始めた。
ここは、乙女ゲーム「傾国の美女〜女スパイは大国の王子様を籠絡する〜」略して「傾美」の舞台に酷似した世界である。先ほどの会話は、ゲームのヒロインと、その攻略対象であり私の婚約者でもある王子によるものだ。
ゲームの終盤で、攻略対象である王子がヒロインに愛を囁くシーンだ。
前世の親友から見せてもたったゲームのスチルでは、淡い月明かりの中、ベンチに座った美男美女が、気持ちが通じ合った喜びを表しながらも、少し冷たい夜風から体を温める為に少しだけ体を寄せ合う、素敵なシーンだったのに、、ゲームと違ってなぜか下品な雰囲気になってしまっている。
そう、先ほど婚約破棄されることになった私には前世の記憶がある。いわゆる異世界転生だ。
8歳の時に家の庭で走り回っていたら転んでしまい、庭に生えているクロマツに勢いよく頭をぶつけて気を失った。寝込んでいる間にみた夢では、この世界とは異なる地球という世界で生活をしていた。そして、前世の記憶を思い出した。
前世の私の名は、宮沢 紗都。
群馬に住む華の女子高生だった。
突然だが、我が群馬には誇るべき文化がある。群馬の名産や風俗や著名人など、群馬人なら誰しも知っているあれこれを題材にした群馬カルタのことだ。子供の頃よりほほすべての子供に叩き込まれ、大人になり群馬以外の土地に進出した者同士が、本物の同郷の者かどうかの確認に使わうこともできる群馬カルタだが、もちろん大会があり、宮沢紗都は優勝した。
各部族、じゃなかった、各市町村の威信をかけたカルタ大会で優勝したお祝いとして私は東京に旅行にきた。人生ではじめて群馬の国境を超え、ワクワクしていた。
東京に住む人たちは同じ人間なのかと思うほどよわそu、じゃなかった、都会人ぽかった。
浅草を散策していた時に、日本一高いタワーがイルミネーションにピンク色に染まって綺麗だったので、目を奪われてしまったのが、失策だった。
私は対して意識を割かなかったのだ。焦った様子でワインの瓶をポイ捨てし、警察署に止めてあったはずのパトカーに乗り込む人物に。
飲酒していたその人物が運転しているだろうパトカーが猛スピードで目の前に来るまで気付かず、ドン!という音とともに私は意識を失った。
今世の私の名は、マーサ・アクトゥール。
ユースティティア王国のアクトゥール公爵家の長女として生まれ、王国の第二王子ムーノ・ユースティティアの婚約者である。
ユースティティア王国は大国という表現に相応しく、たくさんの属国、植民地をもっており、地球でいうところの大英帝国時代のイギリスに似ている。
属国の一つに広い国土、豊富な資源をもつアメリアという国がある。
重要な属国であるため、王族の直接統治が予定されており、将来第二王子ムーノが派遣されることになっている。
ゲームのヒロインであるジャンヌ・スプーキーは、実はアメリアの女スパイである。将来アメリアを統治する予定のムーノを籠絡し、ユースティティア本国よりもアメリアに都合が良いように手のひらの上で操り、アメリアの独立までも目的としている。
ユースティティア王国にとっては、重要な属国の独立はまさに傾国。しかもジャンヌは見た目がとても美しく、まさに傾国の美女。
ジャンヌにとって、ムーノの婚約者であり、アメリアの統治のために日々研鑽を積んでいるマーサ・アクトゥールは目の上のたんこぶである。ゲームでもあの手この手でムーノと婚約破棄させようとしてくる。
そして、婚約破棄されてしまったマーサ・アクトゥールはその責任を問われ、その後勃発するユースティティア王国とアメリアとの独立戦争に駆り出され、散ってしまう。戦場で散ってしまうのだ。
私は、それを避けるために準備することにした。
悪いことだけではなくテンションがあがることもあるのだ。
傾美の世界には魔法と固有スキルがあるのだ!
そう!魔法と固有スキルがあるのだ!!ファンタジー万歳!!
運が良いことに、私に発現した固有スキルは私にぴったしだった。
固有スキル名は、ソウルオブグンマ
大まかな能力は、素の身体能力が群馬人に相応しくなることと、群馬カルタに該当する現象や魔法を引き起こせる。実しやかに囁かれてはいなかっただろうか、生粋の群馬人は表舞台にでないだけで、100メートルを9秒6未満で走り、フルマラソンは2時間かからず完走し、走り幅跳びでは9メール以上とび、ハンマーは86メートル以上投げるなど、総じて高い身体能力を有していると。素の身体能力がそのレベルになるのだ。
幸いにも、この固有スキルのおかげで、独立戦争に駆り出されても生き残れる気はしている。戦場で散ってしまった、ゲームの中のマーサ・アクトゥールの固有スキルとも違うし。群馬人も死ぬ時は死ぬから気休め程度かもしれないけど、たぶん私一人ならどうにかなるだろう。
けど、国民や戦争に関わるみんなはどうなるんだろう。独立戦争がおこったら、たくさんの人が亡くなったり、被害がでる。国が傾くということはそれだけ損害も大きいだろう。それは避けたい。
うん、まずは目の前の状況をどうにかしないとね。
物語風に染まっていた思考の海にゆらゆら漂っていたマーサの意識は、さきほどよりも優しく吹いている夜風に髪を撫でられながら、現実に浮上した。
「こうなってしまったのはしょうがないわね」