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剣と魔法と核融合 ~現代世界大戦で剣とか魔法とかハズレチートじゃないですか?~  作者: 猫長明


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第11話(2/2):勇者VS勇者

 ヒグマV2とサトルとの出会いは数刻前に遡る。

 

「大丈夫か?」

「なんとか。それより、少し離れてもらえる?」

「今更ゲロの匂いも気にならねぇけど」

「私が気になるの。着替えるから、離れて」


 こうしてサトルはコクピットから追い出され、不時着したフッケバインの外装を確認する。

 

「アナライズ」


 ステータス表示は瀕死。

 エンジンは停止しているが燃料漏れや爆発の可能性はなく、外装の損傷も最低限。

 まさに的確に急所を狙うルーデンの神業と、墜落の衝撃を無力化したシュウカの魔法のおかげだった。

 

「それにしても……」


 改めて墜落したあたりの様子を確認するサトル。

 そこはゲランにしては考えられない環境破壊の進んだはげ山の中だった。

 

「そういや領空侵犯のアラートも出てたな。

 一体なんなんだ、この辺」

「もういいわ。あなたも着替えなさい」


 コクピットから顔だけ出して服を投げるシュウカ。

 受け取った物とシュウカの服装を見てサトルの表情が歪む。

 

「他のない?」

「ゲランにまともな物資なんか残ってないわ。

 あるところにしかない」

「そのあるところってのが嫌なんだよなぁ」


 こうして嫌々親衛隊の制服を着るサトル。

 彼なりの反抗心が、肩についていた腕章だけは外して捨てるという行為として現れた。

 

「それにしても、なんなのかしら、この山」

「な。ゲランにしてはおかしいよな。

 なんかやばいもんでも作ってるのかね」


「やばいものって?」

「ほら、俺達の世界で言うところの……」

「毒ガス、化学兵器、いや、ここで言うなら……核兵器」

「それを超える何かとか。

 そんな無茶をやらかそうとしてるってことでしか、ゲラン国内でここまでの環境破壊が進んでることに説明がしにくい」


 そう言われて自身の歴史知識を辿ったシュウカが思い出したのは、現実のドイツで終戦直前に行なわれていたロケット兵器の研究だった。

 

 ロケット開発に命を捧げたマッドサイエンティスト、ヴェルナー・フォン・ブラウン。

 彼の研究は確かに後のアポロ計画に受け継がれるが、その当時の彼はロケットエンジンの開発のため鉱山を改造した秘密基地内で特定の民族を強制労働させていた。

 科学燃料を取り扱う故に発生するガスの中毒で大勢の人が命を失い、戦後にその鉱山に足を踏み入れた者は、そこを「地獄」と形容したという。

 

 この世界は現実世界とは異なる。

 だが、どこかしらで現実の第二次世界大戦と繋がるようなものが見られている。

 現実のフォン・ブラウンがドイツ内で地獄を作り新兵器を開発していたのなら、このゲランでもフォン・ブラウンにあたるマッドサイエンティストが同じように新兵器開発を行っている可能性は高い。


 そして、ロケットも核兵器も既に開発済みであるならば、ここで作られている「何か」がそれらを超える超兵器である可能性もある。

 

「調べてみる必要がありそうね」

「マジで言ってらっしゃる? 俺、今完全なお荷物なんですけど」

「その辺で新しいモンスターでもスカウトしてらっしゃい」

「いないんだよなぁ、この世界にモンスターなんて……」

「がぅ……」

「ん?」


 と、サトルと巨大なヒグマが目をあわせ。

 

「居たぁぁああ!?」


 というのが偶然のV2との出会いだった。


 ちなみにV2とは、このヒグマを仲間にした際に表示された「ヒグマにニックネームをつけますか?」のシステムメッセージに対し、シュウカが提案したヴォイテクという名前に由来する。

 

 ヴォイテクとは、第二次世界大戦当時ポーランド軍に実存していたシリアヒグマの兵士である。

 子熊の頃にポーランド軍の弾薬補給部隊で拾われたヴォイテクは軍人たちと相撲を取ったりタバコを貰ったりしながら成長し、周りの真似をする中で弾薬の運搬手伝いを覚えて実際に戦場で活躍した逸話を持つ。

 

 これに対しサトルは、だけどヴォイテク本熊ではないのでと2を後ろにつけたようとしたところで5文字の命名制限に引っかかる。

 そこで頭文字をとってV2としたのだ。

 

 しかしV2といえばフォン・ブラウンが開発していたロケットのコードネーム。

 今からこの世界のフォン・ブラウンが待つかもしれない研究施設に足を踏み入れようという中でその名前はどうなんだと事情を説明したシュウカに対してサトルは笑って返す。

 

「なら、その兵器を味方にするってのはいい表現じゃないか」

 そして坑内でのエンカウントに繋がるということだった。

 



 改めてお互いに敵意がないことを確認しあった面々。

 下手をすれば殺されていたと叫ぶハオランとNだったが、ハオランに関しては自業自得。

 そしてNに対しては。

 

「それで殺されるくらいなら足手まといだろうしちょうど良かったんじゃない?

 この先に居るの、本物の魔王かもしれないわ」


 というシュウカの言葉で流されると同時に一同は改めて息を呑んだ。

 彼女の語る魔王現存説。

 それは確かに納得のいくものだったのだ。

 

「でも、魔王ってルーデンさんじゃないの?」

「そうかもしれないと思っていたのだけど、なんかあの人、ただチートなだけに思って」

「……ありえる」


 サトルとシュウカがルーデン魔王説を棄却したところで、ハオランが総統魔王説を否定する。

 

「総統というのも納得のいく話だったが、この先に総統は居ない」

「なんでそう言い切れるんすか」

「一時期は親衛隊に協力していた。その頃に一通りの情報は確認済みだ。

 3名の影武者はいるが、本物はリンベルの地下シェルターだ」

「そうだったんですか!?」


 しれっと超重要情報を入手してしまい叫ぶマリア。

 ハオランは別にゲランに愛着があるわけでもなく気にしていないが、根が真面目なシュウカはつい鋭い視線を向けてしまう。

 それを横目で見るサトルは親衛隊制服に身を包んでいるのもあって誤解されてしまう可能性を想像し軽くため息をつくが、当のシュウカ本人は気にせず推理を続ける。

 

「確かに総統からは魔族特有の合理性が感じられない。

 合理性で言うなら、サヴィーナ連邦よ」

「スターリンにあたる存在か」


 頷くシュウカと首を傾げるN。

 その名を知らない彼の中では義務教育が敗北していた。

 

「大方が私達の知る歴史をなぞる中、ソ連にあたるサ連の動向だけが異質」

「情報もまるで手に入らん。そこに合理性がある」

「そうね。戦争への参加なんて、非合理の極みだもの。

 世界を滅ぼしたいなら、戦争には参加せず他国同士の戦争を煽るポジションにつくべき」


「それで言うならサ連は引きこもってて煽るようなこともしてねぇんだろ?

 なら、むしろこの戦争を煽ってるのはアメリカ、この世界のマルティ合衆国だよな」

「原発事故の後でゲランに多額の賠償金請求を提案したのもマルティでした。

 まさか……」


「とはいえこんなとこに大統領が隠れてるわけがないっすよね?

 なら、この先に居るのは誰なんすか」

「わからないわ。

 けれど、ここまでの情報からここで超兵器の開発が行なわれていることは事実。

 核を超える超兵器なんて、星を破壊する力を持っていてもおかしくない。

 そんな兵器としてはまるで役に立たないものを作る存在がいるとすれば、魔王以外にありえない」


 緊張の中でゆっくりと開かれる扉。

 その先には、久しく見ない魔族の姿があった。

 

「よく突き止めたものだな、勇者共。

 俺はルテス。魔王の子にして、この世界を……」

「兄様!?」

「は?」


 驚きの声を上げたシュウカの声が別の驚きとして連鎖する。

 一同の視線がシュウカに集まる中、当の魔族が素っ頓狂な顔つきで顎を外す。

 

「ユウカ……? 何故ここに……?」

「兄様こそ……」


「え? えぇ? どういうこと? って、お前魔族だったのか!?」

「そうね。魔族『だった』わ」

「だった、ってのは……」

「父様が討たれた後、兄様が私の意識だけを人間に転生させたんです。

 その後で、女神様に導かれて再び異世界に転生させられたのだけど……」


 そう言われてサトルも思い出す。

 重力魔法といえば闇魔法のひとつ。

 闇魔法の使い手は魔王かその血を引く者のみ。

 当初はそれすら与えられてしまう転生チートの万能さに驚いたのだが、そういう成り行きだったと考えれば腑に落ちる。

 

「それで兄様は、ここで何をなされているのですか?」


 シュウカの声のトーンが下がり、威圧的なものになった。

 一瞬だけ泳ぐルテスの目。

 小さいため息の後で、重く口を開く。

 

「……世界を破壊する兵器を。光子爆弾を作っていた」

「なっ……!」


 衝撃に一歩足を引く勇者パーティ。

 その中でシュウカだけが一歩前へ踏み込む。

 

「何故です?」

「それは、魔王として人間を……」

「もう一度お聞きします。何故です?」


 圧に押されるルテス。

 彼を魔王として畏怖しかけた一同だが、印象は一転。

 何故かルテスに同情のような思いを向けていた。

 抉るように兄を睨む妹の視線。

 横目でちらりと見たサトルの背中にもぞくりとした悪寒が走る。

 

「……魔王を、倒すためだ」

「は? いや、魔王はそいつ……」

「兄様が魔王になるはずがないでしょう」

「ごめんなさい!」


 威圧され土下座するN。

 その見事なまでの土下座に呆れるハオランと同情するサトル。

 

「やはり、魔王は……」

「あぁ。核シェルターの中から出るつもりはないらしい。

 となればもう、核シェルターごと消し飛ばす以外にないだろう」

「星ごとの間違いでは?」

「最効率で魔王を倒す方法を合理的に考えた結果の必要コストだ」


 考慮にも値しない本末転倒とも言えるような回答だったが、魔族であるシュウカとクズハだけが納得の表情を示し思考に沈んだ。

 

「それで、その魔王は何者なのですか。

 核シェルターとは言いますが、どこの……」

「そんなことはどうだっていい!

 光子爆弾の開発は止めんぞ! 私は反宇宙に行くのだ!」


 銃を手に狂気を叫ぶ白衣の博士。

 この世界のフォン・ブラウンにあたる存在の登場を予測していたシュウカが躊躇いもせず全力の重力魔法を行使する、が。

 その魔法は等しく相反する力によって打ち消される。

 

「兄さ……違う」


 歪む空間。闇魔法によって開かれるワームホール。

 そこから伸びた手が博士を引きずり込む。

 

「させん。させんぞ。

 ゲランなどに先を越されてたまるものか。

 最強は常に我が国でなければならない。

 そうだ、戦争だ。私はずっと戦争がしたいんだ!

 下等なサルを浄化するのだ!」


 ワームホールから伸びる腕だけを睨みつけたルテスが即座に加減無しの全力の闇魔法を叩き込むが、その中性子が届いた時にはもう敵の姿は博士と共に消失していた。

 

「ちっ……」

「兄様、あれは……」


 シュウカを相手にルテスは頷きを返し。

 

「あれがこの世界の魔王。

 マルティ合衆国大統領、フランケン・ローズベストだ」




■次回予告

 落ちぶれた女神たちを集めて始まる異世界勇者達の現代戦デスゲーム。

 かつて最強の剣術チートを与えられ、最強の剣聖と崇められたリョウは異世界で。

 

「あぁん! 剣聖さまぁ!」

「リョウ様素敵!」

「うへへ。右も左もおねえさん! ハーレム最高―!」


 すっかり肉欲に溺れてしまっていた。

 

「……現実を思い知りなさい」


 女神によってハーレムチートを没収されただの剣聖に落とされ、さらには現代に飛ばされ剣の腕すらも無意味な物になってしまうリョウ。

 停止した彼の時計は小太りの研究者との出会いによって再び動き出す。

 

「ガヴァガイ問題ってご存知ですか?」

「いや……」

「あれがガヴァガイです」


 何もかも失われたと思っていたリョウは言語学者との出会いによって真理にたどり着く。

 研究に協力し、熱帯雨林の奥の村に向かったリョウは奇妙な既視感を覚えていた。

 

 次回、最強転生者達の現代出戻り列伝、第十二話「剣聖と言語学者」


「俺も何がなんだかわからねぇんだが……最高だよ。

 消えた蝶が、帰ってきやがった」

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