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剣と魔法と核融合 ~現代世界大戦で剣とか魔法とかハズレチートじゃないですか?~  作者: 猫長明


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第11話(1/2):勇者VS勇者

 魔勇者ルテスが「魔王城」と言った通り、銅鉱山の跡地を利用した秘密研究開発施設はまさに現代におけるラストダンジョンだった。

 しかし、その攻略方法は二組でまるで異なる。

 

「止まって」


 マリアを静止すると同時に、Nが坑道内の地面に手をつける。

 

「振動……この先の右から。

 3人、いや、4人か。

 小走りってことは迎撃に出た軍人だな。

 マリアさん、隠れますよ!」


 壁際に寄り、まるで忍者かカメレオンかなにかのように魔法で光学迷彩をかけるN。

 前を自動小銃を持った4人の軍人が駆け、音を立てないよう口を塞ぐNの心拍数が上がる。

 

(あぁくそ! マリアさんの髪の毛の匂いすごくいい匂いなんだよなぁ!

 今なら後ろから抱きしめても許されるかな!?

 いや、やっぱり怒られるか!?

 でもちょっと髪の毛舐めるくらいは不可抗力の範囲かな!?)


 しかし彼の心拍数上昇の理由は童貞特有のファンタジーだった。

 

「居たぞ! 殺せ! 許可は出ている!」


 二人の前を通り過ぎた4人はまもなくハオランとクズハの二人とエンカウントする。

 狭い坑道の中で放たれる自動小銃。

 本来なら回避する術がないはずだが、ハオランには通用しない。

 

「勇者はこんな狭い坑道内でドローン兵器を使うのか!?」


 弾丸の盾となるのはハオランの式神。

 その素材は和紙である。

 和紙は実は衝撃吸収力に優れた物質であり、数十枚が束にして数回折れば現代の自動小銃が放つ弾丸を完全に無力化する。

 

 そして、誰もが一度は経験があるように、紙は時として鋭利な刃物にもなる。

 弾丸を防いだ式神はリロードの隙をついて接敵し、そのまま敵兵を切り刻むのだ。

 

 ハオランはクズハへの愛情こそ狂気的だが無益な殺生を好むシリアルキラーではない。

 無力化した敵兵はそのまま紙によって縛り上げられる。

 これもまた意外な話だが、何重の層にもなった和紙での拘束はそう簡単に抜け出せるものではない。


 それでいて肌触りもよい。

 ハオランは式神攻撃による切り傷の上から覆うような形で拘束を行う。

 この際、和紙には傷薬が染み込まれているという手厚さだ。

 

「無力化、攻撃、回復。

 まるで妖怪カマイタチですね」

「先を急ぐぞ」


 ダンジョンを進む二組。

 ある程度先にまで進んだところでまたしてもNの足が止まる。

 

「なんだ? この音……ずっと追っかけてきたやつのものとも違う……人間じゃない。

 機械でもない。動物……にしては大きすぎる」


 地面に手をつきぶつぶつと思考するN。

 T地路の左側から接近する正体のわからない相手。

 だがエンカウントを回避しようにも右からは追跡者の足音が響く。

 

 右からの追跡者は十中八九今までと同じような壁に控えてのやり過ごしを見逃さない。

 だが左から来るのは完全な未知。

 どうすればいい?

 この時、ダンジョンに入って初めてNの心拍数が危機に対する緊張で上昇する。

 

 そっと腰元のオリハルコンのナイフに手が伸びる。

 かつての異世界でこれは盗賊が装備可能な最強装備だった。

 だがNはこの武器を未だに一度も使用したことがない。

 Nは女性に対して童貞であるだけではなく、殺しに対しても童貞だった。

 

 おそらく、実際に戦闘に入ってしまえばNにも無双は可能だろう。

 だがそこに至る覚悟の踏ん切りがつかない。

 それはまさに、押し倒してしまえさえすればトントン拍子で進むはずのマリアとの恋愛と同じだった。

 Nにとっての性行為と殺人は同じベクトルでそびえ立つ壁なのだ。

 

 ともあれ進路は2つ。

 既に脅威であることが確定している既知と、蓋を開ければ枯れ尾花の可能性もある未知。

 危機に対して誰よりもナイーブな怪盗勇者Nが選んだのは。

 

「……右に向かいます。

 マリアさん、多分この向こうでは戦闘になります」


 Nの危機管理センサーは未知よりも確定した脅威を選択した。

 この判断はほとんどの似た状況で結果的に正解となる。

 かくして覚悟を決めたNはオリハルコンのナイフを引き抜く。

 



 前方から堂々と姿を見せたNに、ハオランは小さく感嘆の声を漏らす。

 

「なるほど、盗賊か。

 それは追尾に手こずるわけだ」

「そっちはまさかの神主さんっすか」

「神主? まぁ京都にはそういう神社もあると聞くが、厳密には違う。

 僕は陰陽師。異界の陰陽王、ハオランだ」

「……怪盗N。予告状は切らしてる」


 挨拶をかわしつつも、二人の間には冷たい火花が走る。

 

「怪盗か。なるほど。

 それでまんまと盗んでくれたということだな」

「は? いや、心当たりないんすけど。

 俺はあんたのとこからは何も盗んでないっす」

「いや、お前は大変なものを盗んでくれた」


 ん? とNの首が傾く。

 よく知ったそのフレーズだが、まさかまさか。

 

「クズハの個人情報だ!」


 これまでとは別の意味で下がる坑道内の温度。

 

「……は?」

「だから! お前はクズハの個人情報を盗んだんだ!」

「は……いやいや……えぇ……?」


 ひとり怒りに燃えるハオラン。

 その背後から恐る恐るクズハが声をかける。

 

「あの、ハオラン様。それってつまり……」

「量子暗号技術が示した!

 お前は、電子化したクズハのパスワードを解析し、ハッキングしてくれたのだ!

 これはクズハを寝取ったのも同じこと!

 絶対に! 絶対に許せん!」


 あ、そういえばとNの記憶の線が繋がる。

 何か違和感のあった情報。

 やたら大きなオセロ板。あれが、まさか……


「いや、あぁ、はい。まぁ、その。

 確かにそれなら心当たりはあるんすけど……それが、何か?」

「何か、だと……?」


 目を伏せ肩を震わせるハオラン。

 Nは直感する。

 

(この人、やばい人だ)


 顔を上げ、正面から強く睨みつけたハオランがその腕を振るう。

 

「死んで詫びろぉ! こそ泥がぁ!」


 横に待機していたすべての式神が一斉にNに向かう。

 狭い行動、回避行動が取れるはずもなく。

 Nの体は一瞬でずたずたに引き裂かれ、がくりと膝をついた。

 

「Nさん!」


 悲痛な叫びを上げるマリア。

 呆気なさに鼻で笑うハオラン。

 その背後から届く囁き声。

 

「残像っす」


 覚悟と決意を込めて振るわれるオリハルコンのナイフの一閃がハオランの首に迫る。

 咄嗟にハオランの身を護れる位置に浮遊している式神はない。

 

 敗因は怒りと慢心。

 開幕5分で脱落した竜使いから遅れること800日以上、デスゲーム二人目の脱落者は陰陽師ハオランになる、そう思われたが。

 

「ハオラン様!」


 間一髪、ねじ込まれたクズハの鉄扇がナイフを文字通り首の皮一枚で防ぐ。

 意識の外からの必殺の初撃を無力化されたNは追撃を行なわず、距離を取ってマリアをかばう位置に戻った。

 

「二対一とは卑怯じゃないっすかねぇ」

「盗賊なら分身くらいできるだろう」

「それもそうっすね。ならここからは……」


 Nの体が2人に別れ、それがさらに4人に別れる。

 

「カルテットでいくっすよ」

「待ってください!」


 再び坑道内のボルテージが高まる中、マリアが思わず飛び出す。

 

「マリアさん!?」

「確かにこの方はハッキングを行いました!

 クズハさんの個人情報も見てしまったのでしょう!

 しかし、それは断じて寝取ったことにはならないかと思います!」

「なんだと……? ええいこの盗人め!

 まさか思い人が居てなおクズハに手を……」


「思い人じゃないんです! 思い人として見てくれないんです!」

「は?」


 Nとハオランの表情が同時に凍りつく。

 だが、その温度はNの側がより低い。

 

「どれだけ露骨に誘っても、この人は絶対に手を出してくれないんです!

 奥手とか鈍感とか唐変木とかクソボケとかそういうの全部超越してるんですよNさんは!

 そんなNさんが目の前の私を無視してよその方を寝取るなんてありえません!

 出来て淋しい一人遊びです!

 私が寝た後でこそこそやってるの知ってるんですよ!

 寝た私をネタにして!」

「ちょ、ちょま、マリアさん、待って」


 焦るN。唖然とするハオラン。

 かわいそうな物を見る目になるクズハ。

 だが一度漏れ出したマリアの言葉は最後の最後まで止まらない。

 

「だからNさんは童貞なので寝取れないんです! 証明終了です!」


 陰陽勇者ハオランVS怪盗勇者N。

 その対決の決まり手は、精神的及び社会的死だった。

 こうして一人の男の独占欲が産んだ不毛な戦いは終わった、かに思えたのだが。

 

「N君! 後ろだ!」

「はい……?」


 ハオランの叫びで振り返るNの顔面に、巨大な爪が迫る。

 意気消沈の中の奇襲、Nは死を覚悟した。

 が、これを隣に浮遊していたハオランの式神が間一髪で盾となる。

 

「借りは返したぞ!」


 マリアを抱えて距離を取ったNは、改めて後ろから迫っていた巨大な影に気付く。

 狭い坑道の天井すれすれの巨体は、体長3mにも届く巨大なヒグマだった。

 

「クマぁ!? なんでこんなところに!」

「もどれ! V2!」

「がうっ!」


 モンスターマスターサトルの指示で、V2と呼ばれた巨大ヒグマは一度距離を取った。

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