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剣と魔法と核融合 ~現代世界大戦で剣とか魔法とかハズレチートじゃないですか?~  作者: 猫長明


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第10話(2/2):勇者と魔王

 レベルのカンストした勇者や最強ランクの魔王のステータスを持ってしても、戦闘時の速度は音速であるマッハ1には遠く届かない。

 だが、この時空で戦う勇者と魔王の速度はマッハ6.7、時速にして7274kmを越えていた。

 

「信じられないわ」


 汗1つ流すこともなく淡々と状況を見るシュウカの言葉は本心だった。

 

「まったくもってその通り!

 このフッケバインに乗れるやつは居ないんじゃなかったのか!?

 ていうか普通に考えてこの重力加速度に人体って耐えられるのか!?」

「ある程度までは専用のパイロットスーツで対策が可能だとしても、この速度、この旋回半径でかかる重力加速度に耐えられる人間がいるとは思いません」


 焦る2人に通信で豪快な声が響く。


『だが私ならば問題ない!

 元々フッケバインは、私をテストパイロットに開発された機体だからな!』

「そりゃぁ誰も乗りこなせないモンスターが生まれますよねぇ!?

 バカなんですかあなたも技術者も!」

「ゲランの科学力は世界一ぃぃいい!」


 通信の先が聞こえてくる声は狂気そのものだった。

 百歩譲って超技術のパイロットスーツがこの無茶苦茶な重力加速度による人体への過負荷を軽減すると仮定しても、その状態で元気に会話ができるはずがない。

 サトルとシュウカのそれが魔法で説明できても、ルーデンのそれは常識では説明できない本物の奇跡である。

 

「ふはははは! どうした勇者! その程度か! 背後を取ったぞ!」


 コクピット内に響くロックオンアラート。

 放たれたミサイルは当然ながら実弾である。

 

「くそがぁ! 振り切れねぇ!」

「っ……!」


 命中確実だった空対空ミサイルが、突然ありえない角度で下へ「落ち」、そのまま軌道が逸れる。

 

「げほっ……うげぇぁっ……はぁ……はぁ……」

「おい! 無茶すんな! ゲロ臭えぞ!」

「死ぬ、よりは……マシでしょう? 嫌なら、真面目に……やって」

「やってるよ! やっててこの有り様だよ!」


 初戦はルーデンの乗機が一世代前の爆撃機だったから圧倒的な技量差を機体の性能差で補うことができた。

 だが、今のルーデンが乗るのはこちらと同じフッケバイン。

 ジェット戦闘機でありながら戦車を目標とした急降下爆撃を効果的に行うために調整されたルーデン専用カスタムである敵機との間には確かに空対空戦闘能力に若干の優位性が残っているが、それはルーデンとの間にある常識外れの技能差を打ち消すものではない。

 

 魔物使いとしての最強チートを持つサトルは、確かにモンスターマシンフッケバインのカタログスペックを100%引き出している。

 だがそれはルーデンも同じ。

 そうなれば差となるのは、操縦時のコンマ数秒の判断だ。

 

 サトル曰く「賢さ0」であるフッケバインは異世界でのモンスター使役と異なり使用する技を伝えて後は任せるというやり方ができない。

 故にサトル自らが操縦を行う必要がある。

 その技能はチートと呼ぶにふさわしいものだが、それでもコンマ数秒の判断力の差がルーデンとの絶望的差となっている。

 なにせ、マッハ6.7のフッケバインはコンマ1秒で200mも移動してしまうのだから。

 

「ふはははは!

 弾を逸らす魔法を使うにして、MPとやらはどこまで持つのかなぁ!?」


 30mmMk3機関砲の音が響くが、直撃コースだったはずの弾丸はすべて下に逸れる。

 ルーデンはその誤差に感覚で補正をかけ機首を上に向けるが、そうなると今度は当然の物理運動法則に則って弾丸は機体の上を越えていく。

 

「かはっ……かひゅぅ……」

「おい無理すんな! 制御に余裕がないなら俺への魔法行使も切れ!」

「すぅ……人間には、耐えられ、ません……ふぅ……よ……」

「まるで自分が人間じゃねぇみたいなこと言いやがって!」


 サトルは起死回生の策を考える。

 圧倒的なレベル差がある相手に勝利するための方法があるとすれば奇策しかないというのは当然だ。


 だが、そもそも普段から奇策としか言えない挙動を取り、常に瞬間的判断力を持って最適解を出してくる化け物相手にはもうどうしようもない。

 なにせ相手は、重力魔法によるミサイルの軌道変更を未見の初回で読み、操縦桿を倒して致命傷を避ける腕を持っている。

 サトルはここまでの転生者人生ではじめて、チートというものの理不尽さを実感している。

 

 その瞬間。

 コクピット内にロックオン時とは異なるアラートが鳴り響いた。

 表示されるコードの種別は領空侵犯。

 だがここまだゲラン領のはずだ。

 直後、基地から通信が入る。

 

「勇者様! ルーデン大佐! 何やってんですかあなた達は!」

「ガーデラスさん!? 助かった! なんとかしてください!」


「状況はわかりませんがわかりました!

 また大佐が無茶をやってるんですね!」

「無茶ではない!

 この戦闘訓練はしっかりと基地司令の承認を得ている正式なものだ!」

「世界中探しても友軍の最新機同士で実弾装備の戦闘飛行の承認を出す基地司令はあなた以外にいませんし、あなたの戦時的決断はすべて私の承認が必要になっています!」

「わかったわかった! こいつ落としたら帰るから!」

「落としてもらっちゃ困るんですよぉ!」


 通信を聞いていてサトルは直感する。


 あ、これはダメだ、と。


 背後で聞こえる何度目かもわからない嘔吐音。

 後頭部にかかる温かな胃液。

 遅れて感じる衝撃。

 

「勇者よ、さようならだ! ふはははは!」


 火を吹くエンジン。

 運良く即座の爆発こそしなかったが機体の制御は失われ落下をはじめる。

 

「くそがっ! 脱出……」


 サトルの片手が脱出装置のレバーに伸びる、が。

 

「しない、で……この、まま……」

「死ぬぞ!?」

「……しん、じ、て」


 数秒の沈黙の後、サトルの手がレバーから離れ。

 

「わかった」


 そのまま機体は落下し、地面に激突する直前。

 サトルは体が下に向かって強く押しつぶされるような感覚を覚えた。

 そしてフッケバインの機体は、誰かがそっと優しくプラモデルを床に置くような感覚で大地と接触した。

 



 自然を愛し勤勉に励む気質はゲラン人の特徴とも言えるものだった。

 そんなゲランの科学技術者コミュニティ内において、ヴェルゲン・ガナン博士は異端者とも言える存在だった。

 

 幼い頃から宇宙の神秘に憧れ、初等学校の自由研究で相対性理論を扱い、中等部では自作した天体望遠鏡とすだれコリメーターを用いてブラックホールの神秘を模索した彼の究極目標。

 それは、消滅した反宇宙を探すことにあった。

 

 物理学において物質は生成と同時に同量の反物質を生成する。

 これはつまり、この宇宙を創生したビッグバンの際に同量の物質と反物質が生成されたことを示している。

 

 だが、この地球上での反物質生成の難易度とその希少性から考えてもわかるように、宇宙の観測可能領域内に反物質はほとんど存在していない。

 これは現代宇宙物理学における大きな謎のひとつである。

 ガナン博士は、その反物質が向かった先、つまり、反宇宙の存在を真面目に考察していた。

 

「何故お前たち人間にはこんな簡単なこともできんのだ。

 こんなものは初歩的な魔法に過ぎん。

 こんなもの、ありふれた物質に過ぎんではないか」


 魔勇者ルテスがそう言っていとも簡単に反物質を生成する様を見てガナン博士は震えた。

 そして、確信に至る。

 

(反物質で構成された反宇宙は存在している。

 魔王なる存在は、そこからやってくるのだ。

 エントロピー増大の法則も含めたすべての物理法則が真逆に働く反宇宙は、実在している)


 彼は反宇宙のみを目指す。

 その目は美しいゲランの自然も、世界の平和も、いや、地球の未来すら映さない。

 

 戦争に勝利するための光子爆弾の研究命令。

 それはガナン博士にとって渡りに船だった。


 総統は知らない。

 光子爆弾が敵国だけを吹き飛ばす兵器ではなく、この星そのものを消し飛ばす超兵器であることを。

 そして、その爆発が反宇宙とのゲートを開く可能性があることも。

 

 憧れの反宇宙へ行くためなら、どれだけの自然を奪い、どれだけの人間を犠牲にし、そして、この星そのものを破壊し、自分自身の命すら失われても構わない。

 そう真剣に語るガナン博士の目は、まるで子どものような純粋な輝きで透き通っていた。

 

「む?」

「どうしました?」


 光子爆弾に必要な量の反物質を生成し続ける魔勇者ルテスが、何かに気付いてその手を止める。

 彼の協力を持ってしても反物質が規定量貯まるまであと1ヶ月もかかる。

 ゲラン博士にとって、くだらないことでルテスが手を止めることは認められない。

 

「この感覚、勇者か。

 2人……いや、4人か?」

「勇者とは?」

「知らんのか。勇者とは魔王を討つ者。

 大方私を魔王と捉え、討つためにパーティを組んだのだろう。

 確かに今のこの呪われた地は魔王城と呼ぶにふさわしい」


 ゲランの最東、反物質の生成と貯蔵、そして、光子爆弾の開発のために用いられている巨大地下施設は、使用されなくなった銅鉱山の跡地を利用した地下迷宮だ。

 ここでは地上に規定量をはるかに上回る汚染物質を垂れ流しつつも全力で光子爆弾の開発が進んでいる。

 

「兵を向かわせますので、ルテス様は引き続き反物質の生成を……」

「いや、勇者が相手ならば相手になるまい。

 狭い地下施設では火砲による面制圧もアウトレンジ攻撃も不可能。

 まさに勇者のための領域だ。私が向かう他あるまい」


 ガナン博士の目が曇る。

 魔王だの勇者だの、そんなくだらない子どもの絵本のようなことで私の研究が遅れてしまうのか。

 だが確かに、ルテスが倒れれば光子爆弾の研究は立ち消えになってしまう。

 そう考えれば、ここで憂いを断つ必要があることは事実だ。

 

「……わかりました。

 それで、あなたは勇者を倒せるのですか?」

「誰に向かって物を言うか、人間」


 ルテスは鼻で笑う。

 

「この魔王の子ルテス、伊達に魔勇者王などと呼ばれてはいなかった。

 父のような惨めな敗北は俺にはありえない」

 それは魔王と勇者の宿命の戦いに思えるがそうではない。


 ついに。本当の意味でついに。

 最強の転生者同士の殺し合いが始まるのだ。

 船内の巨大モニターの前では、大勢の女神達が固唾をのんで戦闘の開始を待っていた。

 



 次回予告

 落ちぶれた女神たちを集めて始まる異世界勇者達の現代戦デスゲーム。

 魔王城攻略に挑む中で、怪盗Nと陰陽王ハオランがついに衝突する。

 

「死んで詫びろぉ! こそ泥がぁ!」

「残像っす」


 そんな二人の対決に割って入るのは。

 

「その辺で新しいモンスターでもスカウトしてらっしゃい」

「いないんだよなぁ、この世界にモンスターなんて……」

「がぅ……」

「ん?」


 そして勇者たちは魔王へと迫る。

 

「ここまでの情報からここで超兵器の開発が行なわれていることは事実。

 核を超える超兵器なんて、星を破壊する力を持っていてもおかしくない。

 そんな兵器としてはまるで役に立たないものを作る存在がいるとすれば、魔王以外にありえない」


 だが魔王城の最奥で一同を待ち受けていたのは。

 

「兄様!?」

「は?」


 奇妙な導きは世界を束ね、勇者たちは真の敵を見る。

 

 次回、最強転生者達の現代出戻り列伝、第十一話「勇者VS勇者」


「でも、魔王ってルーデンさんじゃないの?」

「そうかもしれないと思っていたのだけど、なんかあの人、ただチートなだけに思って」

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