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剣と魔法と核融合 ~現代世界大戦で剣とか魔法とかハズレチートじゃないですか?~  作者: 猫長明


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第9話(2/2):闇魔法と反物質

 北国の冬は寒い。

 怪盗勇者Nが乗るキャンピングカーは戦時下で値段の高騰したガソリンを大量に必要としていた。

 移動のための燃料、暖を取るための燃料、そして、スーパーコンピューターを稼働させるための発電機を回すための燃料だ。

 

「ガソリン代、また上がってましたよ」

「それでもお金を出せば手に入るだけマシでしょう」


 微笑みを返すマリアにNもばつが悪くなる。

 

「すんません。

 なんか俺が、わけのわからないやつに追われてるばっかりに」

「しょうがないですよ。

 どんな難解な暗号も一瞬で解読できるのは世界であなただけです。

 それは枢軸国から命くらい狙われますよ」


「まぁそうなんでしょうけど……

 もうわかってると思いますよね。

 相手は俺と同じ転生者ですよ」

「でしょうね。私が見たあれはどうみてもドローンには見えませんでした」


 マリアは数日前の襲撃を思い出す。

 空を飛ぶ白い紙切れの群れは、存在が否定されたスカイフィッシュかなにかにも見えた。

 

「それにどうも、ただの枢軸側の転生勇者って気もしないんすよね。

 もっとこう、どうでもいいような私怨で動いてる気が……」

「それはどうしてです?」

「いや、俺の勘すけど」

「なら、当たっているんでしょうね」


 そう言わせる程度には、マリアからNへの信頼度は上昇しており、その一部は愛情にも変化していた。

 男と女がお互いを信頼しつつ、恐怖的対象からの逃避行の旅を行う。

 こんな状況で未だにNが童貞であることは、むしろNに天性の童貞スキルがあるとしか思えない。

 もとい、ここまで来るとヘタレを遥かに超越した「何か」である。

 

「ところでマリアさん。これ、どう思います?」


 Nが提示したのは、最近解読した暗号の中に頻出するようになった未知の単語である。

 転生者の基本スキルである翻訳スキルを持つ彼がこの単語を理解できないということは、この単語は暗号であると同時に彼にとって未知の概念であることを示している。

 

「まず、『わかりません』と言った上での仮説検証ですけど、この単語が記載される書面が毎回違う暗号化技術で高度な秘匿が行なわれていることから……」

「え? そうだったんすか?」

「そういう違いがわからないってのはあなたの弱点なのかもしれませんね。

 はい、そうなんです。

 ともあれ、これはそれだけ重要な存在であるということです。

 そして、前後に頻出する単語は『開発』『大陸間弾道ミサイル』、そして」

「……『核』っすよね」


 この世界では未だ核兵器が戦争で使用されたことがない。

 それ故に、Nは核という言葉に対して、マリアが感じる以上の恐怖と嫌悪を覚えていた。

 

「でも、これはきっと核兵器ではないと思います」

「そうなんすか!? マリアさんがそう言うなら、俺も安心でき……」

「いえ」


 マリアが表情を曇らせ、推測の結論を述べる。

 

「ゲランでは、核兵器を超える未知の『何か』の開発が進んでいる可能性があります」


 都市伝説の中で陰謀論にも多少なり触れてきたNは、自分の世界でのロシアが開発した史上最大の破壊力を持つ水素爆弾、ツァーリ・ボンバの存在を知っていた。

 その破壊力は50メガトン。

 広島原爆の3300倍の威力であり、理論上は富士山を消し飛ばせる威力を持つ。

 そんなツァーリ・ボンバはおそらくこの世界でも開発されているはず。


 なら、その未知の何かは、それ以上の存在。

 富士山ではなく、もはや星を破壊する力を持っている可能性すら考えられた。

 



 リバース・フローレン国立研究所。

 マルティ合衆国にあるその研究所では、今日も科学者達が頭を悩ませているのだが。

 

「博士、最近なんか顔色がいいですね」

「そう見えるかい? 未だ研究に進展はないんだがね。

 来週には我がマルティが誇る勇者であるお二人に足を運んでいただくわけだし、それまでには何かしらの進展が欲しいのに頭が痛いよ。

 いや、今のは比喩表現だ。

 何故か肺癌も勝手に治っていたらしいし、実際体の調子は悪くないんだよ」


 主任研究員であるエドガー博士は、ワッフルにはちみつを垂らしつつそう答えた。

 

「……物凄く甘そうですね」

「物凄く甘いぞ。糖分は脳に良い。

 医者からもそれだけ食べれば糖尿病になるはずなのに何故か血糖値が上がらないというお墨付きを貰っているから、安心して食べられている」

「羨ましい限りです」


 ワッフル片手に論文を読む博士の片手が自分の物ではなく助手のコーヒーカップに伸びる。

 助手がそれに気付いた時にはもう遅く。

 毒ガスで幽霊化する猫のイラストが入ったお気に入りのコーヒーカップの取っ手は博士の二本の指で砕かれていた。

 

「あ、すまん」

「今月何個目ですか。ちゃんとご自身のカップを使ってください」


 チートスイーツによって緑の超人も真っ青になるパワーを手に入れていたエドガー博士は、それはそれで日常生活に苦労していた。

 

「そういえば、ゲランの話、聞きました?」

「アル博士の亡命か?」

「そうです」


「法外な賠償金要求でゲランが戦争に走らざるをえなくなったことには同情するし、ある程度の理解もあったつもりだがね。

 自国民の戦意高揚のため特定民族を弾圧する政策には反吐が出るね。

 いかに戦争中だとはいえ、科学は公平な競争であるべき。

 アル博士がゲランで兵器開発を行うとしてもそれに文句を言うことはできなかったはずだ。

 そんなアル博士が亡命するきっかけを作ってしまった民族弾圧は、最終的にゲランにとって最大の敗因となるだろうね」

「私もそう思います。

 それで、亡命したアル博士が大統領に手紙を書いたらしいんですよ」

「ほう。それは初耳だね。

 どんな内容だったんだい?」


 若手研究者に貰った特注のプロテウス製マグカップを手に、世間話感覚で助手に先を促す。

 

「私も眉唾な話なんですが……ゲランは、光子爆弾を実用化しつつある。

 合衆国はゲランよりも早く光子爆弾を開発するべきだ、と」


 史上最硬の金属プロテウスはまたしても砕け散る。

 



 光子爆弾。

 それは、反物質を利用した究極の爆弾である。

 反物質とは現代において一粒の粒子をわずかな時間維持するのがやっとという、現代における地球ではダイヤモンドを遥かに超える希少価値を持つ物質である。

 あらゆる元素には反物質が存在しており、これは元素のドッペルゲンガーだとも言われる。

 都市伝説におけるドッペルゲンガーが見てしまえば死ぬと言われる存在であるように、元素は自身の反物質と出会った瞬間に対消滅と呼ばれる大爆発を起こし消滅する。

 これが光子爆弾の理論であり、その破壊力は未知である。

 未知というのも当然のこと。

 未だ実用の目処が全く立っていないのだから。

 

 しかし一説によれば、地球を破壊する力があるとも言われているSF兵器だ。

 実際にSFに登場した際には光子魚雷と呼ばれることもあり、アニメの演出では命中した瞬間に空間ごと切り取られるような消滅が描かれている。

 

 そんな光子爆弾を実用化するには、大量の反物質を安定化した状態で保持する技術が必要となる。

 その技術が未だなく、現状の反物質研究状況から考えれば数十年、下手すれば百年以上の時間がかかるはず。

 

 それが実用化しつつあるということは、何かしらの強烈なブレイクスルー。

 「奇跡」か「魔法」としか言えない力が必要だ。

 エドガー博士も、数年前なら「そんな奇跡も魔法も科学的にありえない」と一笑に付すことができただろう。


 数年前ならば。

 

 魔王がどこから現れるのかは不明であるが、魔王のみが使用する闇魔法と言われる独自の魔法形態が重力やダークマター、反物質などの宇宙由来の要素で構成されていることを考えれば、魔王は宇宙からやってくると考えるのは当然かもしれない。

 そもそも近年ではパンスペルミア説といい、すべての有機生命体は宇宙由来であるという学説がまことしやかな説得力を持って論じられているというのもある。

 

「何故お前たち人間にはこんな簡単なこともできんのだ。

 こんなものは初歩的な魔法に過ぎん。

 こんなもの、ありふれた物質に過ぎんではないか」


 涼しい顔で片手から反物質を生成するのは、かつて命の危機を女神に救われ、送られた先の世界で「魔勇者」として魔王を討ち滅ぼした後で「魔勇者王」を名乗り徹底した合理主義で魔物と人類を等しく統治したルテスだった。

 彼もまた、世界を救った転生勇者の一人としてこのデスゲームに参加させられていたのだ。

 

 そして今、ルテスはゲランにて反物質兵器の開発に協力している。

 神話の時代、神が人に火を与えてしまったことで戦争が始まったとされるように、彼は反物質の力を人類に、それも狂気に侵された総統の支配する悪の枢軸ゲランに与え、世界を滅ぼそうとしているようにも見える。

 果たして彼こそがこの世界の「魔王」なのか、それとも。

 

(……ユウカ、お前なら兄の行いを愚行と咎めるか?)


 どちらにせよ、デスゲームは終わりに向かい加速する。

 



 次回予告

 落ちぶれた女神たちを集めて始まる異世界勇者達の現代戦デスゲーム。

 ゲランにて世界を破壊する超兵器の開発が進む中、転生者達の運命が重なり始める。

 

「恋人さんと仲良くなー」

「こ、ここ、恋人ちゃうわ!」


 怪盗勇者Nはマリアと二人は盗賊の直感が導く逃避行の末に。

 

「親衛隊のサーバーにも記録がありません。

 該当の場所は地図から消されています」

「親衛隊の上だと……? そんな情報ランクを持つ組織、僕は知らないぞ」


 陰陽師ハオランはNを追う中の偶然に。

 

「世界中探しても友軍の最新機同士で実弾装備の戦闘飛行の承認を出す基地司令はあなた以外にいませんし、あなたの戦時的決断はすべて私の承認が必要になっています!」

「わかったわかった! こいつ落としたら帰るから!」


 モンスターマスターサトルと重力使いシュウカは魔王ルーデンに振り回され。

 

「この感覚、勇者か。

 2人……いや、4人か?」

「勇者とは?」

「知らんのか。勇者とは魔王を討つ者。

 大方私を魔王と捉え、討つためにパーティを組んだのだろう。

 確かに今のこの呪われた地は魔王城と呼ぶにふさわしい」


 偶然に導かれた勇者たちによる現代の魔王城攻略が始まる。

 

 次回、最強転生者達の現代出戻り列伝、第十話「勇者と魔王」


「ゲランの科学力は世界一ぃぃいい!」

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