6 妃の来訪3
『契約破棄されたとて、痛手ではありませんが?』
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最近書きました。
契約破棄+ざまぁモノ のつもりです。
お手隙の際にどうぞ、お目通し頂けたら幸いです。
「や。久しぶりだねぇ、『薬術の魔女』。前回の春の祝宴では君が王代理に呼ばれていて、会えなかったね」
後宮の門の前に、薬猿当主は付き人を引き連れて現れた。薬猿当主は、薬術の魔女に軽く挨拶をする。それに合わせて薬術の魔女も
「そうですね、なにのお話したかったんですか?」
と問い返した。薬術の魔女の気軽な態度に、補佐官達や宦官1は気が気でなかっただろう。薬猿当主を含め、『古き貴族』の当主達は大公爵の身分にあたる。王と同等の存在とされるのだ。
「特に何も考えていなかったけど。……そうだ、去年度の最後に出した論文。あれは面白かった」
咎めることなく、薬猿当主はそう答える。
「痛み止めですね」
薬術の魔女と薬猿当主は薬草の話を始めた。実は薬術の魔女が薬猿で研修を受けていた頃に、当主になる前の薬猿当主と薬関連の論文の議論などで仲良くなっていたのだ。薬猿当主は『友人』だと認識している。(また薬猿当主は人の考えを読み取る能力を持っているが、薬術の魔女が悪意を持っていないことに好感を持っている)
「そろそろ本題に……」
補佐官2が言葉を挟む。薬術の魔女は「あ」と口をつぐんだ。薬猿当主はくす、と小さく笑った。
「そうだった。後宮用の化粧水だよね」
「はい」
薬猿当主が振り向き、薬術の魔女は頷く。
「四季姫に合わせて4種類作っちゃおう。いや、5種類だな。宦官達が困っちゃうだろうし」
「わかりました。成分は?」
「ほぼ同じだけど。ま、匂いは桃、藤、楓、梅、桜にしなきゃだね」
化粧水だけでなく乳液や美容液も作る予定らしい。そうすると15種類にもなる。結構大ごとだ。
「で。君が件の商人の娘さんだね? 話は聞いている。売り込みがやけにうまいらしいことも」
「は、はい……」
薬猿当主に微笑まれ、平女官は体をこわばらせる。
「売り込み対象者は、どうやって選んだのかな?」
「ええと……手作りのものや健康に良いものに興味がある方です」
じ、と薬猿当主に見つめられ、平女官は緊張からか視線を逸らしながら答えた。
「そういえば。客層は『自然天然派』の人だったか。じゃ、薬猿の工場での生成はやめておこう。後宮で作れそう?」
平女官から視線を外し、薬猿当主は薬術の魔女を見る。んー、と少し考えてから薬術の魔女は提案をした。
「医局に製造ライン作ったらいいんじゃないですかね」
「そっか。じゃ、医局見せてよ」
ということで、医局に移る。
×
「ふーん。意外といい所じゃん? 姫達の御殿程じゃないけれど。ちゃんとしてる」
医局の建物を見、薬猿当主はそう感想を零した。宦官1は安堵した様子だった。補佐官達は普段通りの様子だが、どこか緊張している様にも見える。女官Aは普通通り、女官Bはどこか薬猿当主を警戒している様子だ。
「なるほど、星官の『蘇蛇宮』は人数は少ないと聞いていたけれど、本当に少ないねぇ。でも、製薬能力には問題ない感じね。ま、『薬術の魔女』には簡単な仕事だろう宮廷医は」
口元に手を遣り、薬猿当主は呟く。
「正直、設備は期待していなかったんだけど。このくらいの設備なら、化粧水や乳液、美容液の生成くらいは問題なさそうだね。ってか今も作ってんでしょ? 栄養剤」
視線を向けられ、宦官1は「はい」と素直に頷く。
「後宮の栄養剤なんざ、薬猿で作った方が早いし効果あるから。これならまだ美容液作ってた方がためになる。美容薬もこっそり作ってるより、大体的に堂々と作る方が面倒少ないでしょ。王代理に言っとくね」
そう告げると連絡端末を取り出し、さっさとメッセージを作成して送ったようだった。
「よし。じゃ、製薬してるとこを見ようか」
そう薬猿当主が告げると、女官Aが少し慌てたように見えた。
「あ、そうだった。私、作業部屋に入れないんだ」
ぴた、と動きを止め薬猿当主は声を上げる。「困ったなー」と困っていなさそうな声色で呟いた。
「薬猿当主なのに? ですか?」
ふとわいた疑問を、薬術の魔女は問う。
「高貴な身分だからね。おかげで個人の趣味でしか、製薬作業ができなくなっちゃった」
てへ、と笑いつつ、薬猿当主はあっさり答えた。
「ま、とにかく確認は王代理に送ったし、あとは作るだけだね。冬官と月官や日官に頼めばすぐできるんじゃないかな。設計図は作っておくから、使える部屋の大きさ教えてね。製薬する場所と液詰める場所が必要だから、そこんとこ宜しくー」
と一気に言われ、薬術の魔女はただ頷くくらいしかできなかった。補佐官2は「承知いたしました。部屋の寸法はどなたに提出すると良いですか?」と薬猿当主の付き人に声を掛けていた。
×
「じゃ、次は作る化粧水達の話をしようか」
椅子に腰かけ、薬猿当主は薬術の魔女と平女官に視線を配る。
「平女官ちゃんの作ってた化粧水のアレンジ(と言う体)だから、似た成分使うと良いと思いますけど」
薬術の魔女の返答に「そうだねー」と薬猿当主は軽い調子で頷いた。平女官の方は、酷く緊張している様子だ。
「瓜系の液と香草、あとは桃の花、藤の花、楓の花、梅の花、桜の花を使って匂いを出すか」
薬猿当主の言葉を受け、「それでいい?」と薬術の魔女は平女官を見る。「は、はい……」と平女官は頷くだけだ。
「使って良い瓜系の植物はこれ、後宮にあるやつのリストはこれね」
薬術の魔女は、宦官1と補佐官達が事前に集めてくれていたデータも出す。薬猿当主は補佐官2に一瞬、視線を向けた。
「そうだ。使う瓜系、種類で変えようか。その方が雰囲気出るし」
と薬猿当主が提案したので、それを採用することになった。
化粧水などの成分も決まったので、次は薬猿当主は平女官に手紙を渡す。
「これ、推薦状ね。ちゃんと研修受けて。保証するからさ」
と告げる薬猿当主に、付き人達が「当主様お優しい……!」と感激していた。手紙を受け取り、平女官もこくこくと頷く。大事になったので反省したのだろう。
「そういえば毒蛇の当主、最近領地に居ないらしいんだよね。彼、どうしたんだろう」
ふと、薬猿当主は口元に手を遣り、呟いた。
「居ないとやっぱり問題がありますか?」
薬術の魔女が問うと、薬猿当主は首を振る。
「うーん、呪猫当主ほどの影響はないけれど。書類とか領地運営は滞りないらしいから。あとは伴侶の方も見かけないとかなんとか。伴侶の方は結構前から居ないっぽいね。何かあったのかな」
「そうなんですねー」
頷きつつ、薬猿当主は女官Aと女官Bに視線を向けた。女官達は茶器の位置を整えているところのようだ。
「あと、呪猫当主といえば。この間、『毒蛇のテロ組織を弟夫婦と一緒に排除した』って嬉しそうに言ってた」
薬術の魔女に視線を向け、薬猿当主は告げる。
「あー、それは伴侶には言わないでおきます」
「そっかー」
薬術の魔女のきっぱりとした返答に、薬猿当主は笑った。呪猫当主はちょっとずれているのだ。魔術師の男が(薬術の魔女を囮に使ったことに)ブチ切れしていたのを知っているはずなのに。
「じゃ、私の用事はこれで終わりかな。またねー」
そう、軽く挨拶をし薬猿当主は付き人を引き連れて返っていった。
やはり、サバサバとした嵐のような人だったなと薬術の魔女は内心でため息を吐く。
行動の速さが、薬猿の発展の秘訣なのかもしれない。
と言うことで、薬術の魔女が後宮へ赴任している間に医局の工事を終わらせようと、すさまじい速さで工事が行われることになったのだった。
「……っていうか、明日以降のノルマ製薬って後宮でできなくない?」
「蘇蛇宮で作るしかないですねー」
薬術の魔女が眉を寄せると、補佐官1が呑気に答える。




