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薬術の魔女の宮廷医生活  作者: 月乃宮 夜見
後宮編

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43/45

5 妃の来訪2

 次の日。

 いつものノルマの薬品を精製しながら、薬術の魔女は昨日や一昨日のことを思い出す。


「(また肌荒れで作業止められたらめんどくさいなー)」


宦官1の話によると『後宮で流行っている』とのことなので、件の化粧水による肌荒れに悩む者は割と多そうである。


「薬用化粧水も、たくさん作っとかなきゃだね」


「治療で使いますからね」


薬術の魔女が呟くと、一緒に作業をしていた補佐官1が返事をした。


「根本原因を叩いた方が解決は早そうですよ」


補佐官2がそう告げる。細菌感染も、治療するだけではなく感染経路や感染源をどうにかせねば流行は治まらない。それと同じように、根本をどうにかせねば肌荒れの治療は延々と続くだろう。


 薬術の魔女達は件の商人の娘を、呼び寄せることにした。

 昨日はちゃんとした化粧水を渡したので、今日は檎妃は来ないはずだ。(※ほかの者は知らない)


×


「どうやって呼ぶ? 商人の娘ってことは、身分が伯爵以下なのは分かるけど」


 医局の執務室に移動し、薬術の魔女は補佐官達を振り返る。侯爵以上の身分の貴族は、(交魚と通鳥を除き)商売をしないように定められているのだ。製薬や占いなどはして良いらしいので、詳しい線引きは知らないが。


「僕達は序列で言えば正五品や従五品に当たるので、その方が何も役職を賜っていなければ呼べますよ」


「そっかー」


補佐官1の言葉に薬術の魔女は頷く。

 執務室に着くと、宦官1がお茶を用意して待っていた。準備が良い。

 女官Aと女官Bは、器具の整理整頓をしている。


「ね、昨日言ってた商人の娘さんって、なにか役職持ってるか知ってる? ちょっと、医局(ここ)でお話したいんだけど」


薬術の魔女が問うと


「彼女は、何も役職を賜っていないはずです。つい最近いらしたばかりですから」


そう、宦官1が教えてくれた。補佐官2が調べたところ、確かに件の商人の娘は平女官(従六品)のようだった。

 宦官1が端末を操作すると「すぐに呼んでくださるそうです」と答える。宦官1の操作していた端末は青い色をしていて外では見かけたことが無かったので、恐らく後宮で使われているものなのだろうと見当をつける。


 呼び出された平女官は平民だが商人の娘だからか、良い飾りを身に付けていた。(薬づくりに必要かは置いといて。)


「なんですか」


作業中だったのに、と、その平女官はどこか不満そうだ。どことなく、香草や薬品の香りがする。若い女性が好きそうな、華やかな香りだ。だが、魔力の匂いと混ざって派手な匂いになりそうだな、と薬術の魔女はなんとなしに思った。


「なに作ってたの」


余計なもの作っていそうだな、と思いつつ薬術の魔女は問う。


「石鹸よ! いい石鹸がないから……」


ややムキになりつつ、平女官は素直に答えた。『いい石鹸がない』とはどういうことだろう、と薬術の魔女は思考する。肌に良い石鹸は薬術の魔女を含め、いくつかの企業が作っているのに。薬術の魔女が知らないだけで、市井の石鹸は質が悪いのだろうか?


 ちなみに薬術の魔女は自身で作った石鹸や、宮廷魔術師(高給取り)の夫が貰ってくる高級石鹸などくらいしか使ったことがない。友人達も軒並み貴族なので、くれる石鹸類は質が良いのだ。


 商人の娘なら、良い石鹸を使えば宣伝になると思うのだが。(※友人Bや後輩の魔術師がよくやっている手法)


「ふーん。ともかく。きみの作った化粧水(植物のしぼり汁)、薬猿の規定合格(クリア)してないでしょ」


薬術の魔女は、平女官に指摘する。すると平女官は目を瞬かせた。


「薬猿の規定? そんなもの無くたって平気よ、だって食べられるものしか選んでいないんだもの」


平女官は薬術の魔女を睨む。『そんなことを言うために私の作業を止めさせたの?』と言いたげだ。


「甘いね」

「へ?」


平女官は本当に何もわかっていないらしい、と態度で察する。


「口で食べられるものを口以外から摂取しようとしたら、問題が起こるんだよ」


「問題?」


首を傾げる平女官に、薬術の魔女は小さく息を吐いた。


「免疫機能が『異物』だって判断して、免疫異常(アレルギー)反応を起こしちゃうってこと。免疫異常(アレルギー)は一応幼少時期や宮廷に入った時点で治されるけど、『ずっと耐性がある』ってわけじゃないんだよ。急に免疫異常(アレルギー)が発生しちゃうこともあるんだから」


「そ、そんなわけ……!」


「なに。わたしは薬猿の施設でちゃんと試験受けて、法律とか化学の知識をちゃんと持ってるんだけど」


「私だってちゃんと勉強した!」


薬術の魔女の指摘に、平女官は言い返す。


「なにの?」


「栄養とか!」


「人の身体に入るものなんだから、人体の勉強しなよ」


栄養士とかその辺りの勉強をしたのだ、と平女官は主張した。だが、話を聞くと人体の勉強はしていないようだ。それもそうか、と薬術の魔女は納得する。人体の勉強をしているのなら、あんな化粧水など作らないだろうからだ。

 ついでに化粧水の製作環境などを聞くが、薬猿での規定には到底及ばないような環境だった。どうやら、杜撰な管理もしていたらしい。


「ちなみに、化粧水の成分は?」


 薬術の魔女が補佐官2に問うと


糸瓜果(ヘチマ)水のようです」


と返答があった。


「糸瓜果ぁ? なんでわざわざそんなものを」


「食べられるものでしょう?」


首を傾げる薬術の魔女に、平女官は答える。


「そりゃあ、食べられるけどさ。汁には毒あるよ」


「ど、毒?! そんなわけないわ!」


「あるよ、本にも書いてる。っていうか。栄養の勉強してるんなら、『糸瓜果の毒は過熱で分解されるから糸瓜果料理は必ず加熱するように』とかなんとか、勉強しなかったの?」


「で、でも私の知ってるヘチマは毒なんて……!」


正式な書籍にも記載があることを、薬術の魔女は主張した。だが、平女官は納得していない様子だ。とても動揺している。


「……もしかしてきみ、転移者か転生者?」


「な?! なんでそれを!」


 ふと思ったことを問えば、分かりやすい反応が返ってきた。ちら、と補佐官達に視線を配ると、補佐官2が端末を操作していた(おそらく調べるか報告するかしているのだろう)。


()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。きみの世界の糸瓜果についてはよく知らないけど、見た目がほとんど同じで毒がないってことはわかった。あと、きみに悪気がないのも」


動揺する平女官に、薬術の魔女は眉尻を下げた。


「石鹸の材料も、教えてくれる?」


「水酸化曹達(ナトリウム)と植物だけれど……」


「植物って?」


「香草とか良い匂いの花だけど」


「ふーん、毒性の確認はちゃんとしてね。前も転移者か転生者が水酸化曹達(ナトリウム)で石鹸作るとかやってたんだよね。流行ってるの?」


「せ、洗浄力が強い石鹸を作ろうと思って」


「まー作るのはいいけど、ちゃんと塩基(アルカリ)の濃度確認してる?」


「……濃度?」


「余分な塩基(アルカリ)残留あったら、肌がボロボロになるでしょうが。ちゃんと考えなよ」


平女官に薬術の魔女は眉間を寄せる。


「あと、『金の国』は呪猫以外、ほぼ硬水だからね。曹達(ナトリウム)より加里(カリウム)使ったほうがいいと思うよ」


 それから、薬術の魔女は平女官に製薬の環境や規定などの話をした。(しながら「(自分が法律を語る側になるなんてなー)」と少し途方に暮れる。いつも怒られる側だからだ。)


 一通り説明を終えると、平女官は反省した様子を見せる。「(この様子なら、大丈夫そうだな)」と薬術の魔女は判断して、温情を与えることにした。


「よし、じゃあ一緒に化粧水作ろうか」

「え?」


薬術の魔女の提案に、平女官は首を傾げた。


「汚名返上っていうか。やんなきゃ、きみ危ないからね」


「危ないって何が?」


「貴族子女に毒薬を勧めたとかなんとかで。『天の神からの罰が降ってないから悪気がない』って判断されて情状酌量の余地とかあると思うけど、賠償とかめんどくさいことになると思うよ」


「そ、そんな……!」


 青ざめる平女官をそのままに、薬術の魔女は補佐官2を振り向く。


「『後宮用の化粧水作るよー』って薬猿に連絡入れといて」


「分かりました」


薬術の魔女の指示を受け、補佐官2は端末を操作した。

 すると。


「薬猿の当主様がいらっしゃるようですよ」

「え、なんで」


少し端末を見つめた後に、補佐官2は薬術の魔女の方を見た。薬術の魔女は眉を寄せる。


「『後宮という国家運営に関わる場所用の化粧品など薬猿(こちら)も手を貸すべきだ』だそうです」


「ふーん」


ということで、少し大事(おおごと)になった。

敬語キャラ、多いですね。

補佐官1→ゆるい敬語(〜なんです、〜じゃないんです)

補佐官2→少し固い敬語(〜です、〜ではないです)

宦官1→柔らかい敬語(〜なのです、〜ではありません)

雰囲気で書き分けているので、書き分けきれていない可能性があります。


ちなみに

術師→やや大袈裟な敬語(〜で御座います、〜でないです/ではありません)

後輩の魔術師→雑な敬語(〜です、〜じゃねーんですよ)

です。

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