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薬術の魔女の宮廷医生活  作者: 月乃宮 夜見
後宮編

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4 妃の来訪

 実はこの後宮には、四季姫の下に『妃』や『嬪』がいるそうだ。

 四季姫達は公爵だが、この妃達は侯爵、嬪は伯爵にあたる。嬪の下には『貴人』と呼ばれる他貴族のご息女達が所属する。


「急にどうしたんですか? 『後宮の上級女官について知りたい』と言うなんて」


にこやかに、補佐官1が問いかけた。補佐官2は現在、宦官1と一緒になって後宮で不足している薬の調査をしている。女官Aと女官Bは、それぞれの仕事があるらしく今は医局には居ない。

 薬術の魔女は、補佐官1と一緒に医局で仕事内容の確認兼お留守番をしていた。


「んー。だってわたし、後宮のこと何も知らないし。まずは重要な人達の情報を入れて、徐々に後宮のことを知っていこうかなぁって」


「そうですか。向上心がありますね。……まあ、軍部と違い、後宮では身分が重要視されますからね。良い防衛本能だと思います」


「防衛本能ってなにさ」


呑気な様子を見せる補佐官1に、薬術の魔女はじと目を向ける。


「(……だけど。あの女官Aちゃんと女官Bちゃんは嬪じゃないっぽいんだよな)」


どこから手に入れたのか、補佐官1がくれた写真付きのプロフィール帳に薬術の魔女は目を通していた。だがその中には、女官Aや女官Bに似た人物はいなかったのだ。


「(今考えてもしょうがないな)」


薬術の魔女は思考を放棄した。思考の切り替えが生き残るためには大事。


 すると突然。


「ちょっとあなた、『薬術の魔女』でしょう!」


と、医局に来客があった。豪奢な格好の女性だ。あとから付き人らしき女官が(疲れた様子で)入ってくる。


「え、なに」


と思わず言い返すと、補佐官の咳が聞こえた。


「……なんでしょうか」


改めて言い直す。それに満足したのか、来訪者は薬術の魔女の方へ詰め寄った。品の良い香水の香りがする。


「私の肌が荒れたのよ! なんとかしてちょうだい!」


「はい」


見た感じ回復薬で回復するものだったので、ぺぺぺっと処置する。なんとかした。(※診察は頼まれていないので省いた)


「まぁ! 戻ったわ! これでお化粧できるわ!」


鏡を見て喜ぶと、女性は去っていった。慌てて女官が医局を出て行く。


「なんだったんだろ」


首を傾げる薬術の魔女に、補佐官1が苦笑した。


「先程の方は『檎妃(キンキ)』様ですね」


「あ、あの冊子に載ってたね。侯爵家の娘さんだっけ」


「そうですね。官僚の娘の方でもあります」


そうして補佐官1と話をしていると。


「ちょっと! ここに『薬術の魔女』がいると聞いたんだけど!」


と、薬術の魔女を求めて医局を訪れる者が複数いた。全員が後宮に所属する女官や宦官で、全員が肌トラブルでやってきたようだった。


「なんか肌荒れが流行ってるのかなー。見た感じ、細菌性(流行るやつ)じゃないんだけど」


「なんでしょうねー」


 薬術の魔女と補佐官1は首を傾げるが、よくは分からなかった。


 それから補佐官2と宦官1が戻ってきて、後宮内で必要な薬の個数などを確かめてリストを作り始めたのだ。


×


 次の日。


「ちょっと! また荒れたのだけど!」


 また同じ人が来た。確か檎妃だ。

 檎妃は怒ったような困ったような様子で、医局に入ってきた。そうして薬術の魔女に詰め寄る。補佐官2と宦官1が困惑していたので、補佐官1が事情を説明していた。付き人らしき女官が遅れて医局に入ってくる。


「治療ですか? 必要なら薬用化粧水出しますけど」


そう問うと、


「お肌が綺麗になるなら、何だって良いわ。綺麗にしてちょうだい」


と言われたので、今回は処置をゆっくり目にして話を聞くことにした。薬術の魔女は、さっさと処置用の手袋をはめる。そうして檎妃を処置用の椅子に座らせ、薬術の魔女はゆっくりとその椅子を倒した。


「今まででも、こんなことありました?」


「なかったわ。急に、お肌が荒れてしまったの」


補佐官1が、聞き取った内容をメモしているようだ。


「最近変えた物とかあります? 食べるものや肌につけるものとかで」


「食事は後宮で出されるものを、毒見の後に召し上がっています。免疫異常(アレルギー)は治療済みです」


付き人の女官が、口を挟む。


「変えたもの……化粧水かしら」


「化粧水。ふむ」


薬術の魔女が頷くと、付き人の女官が化粧水を見せてくれた。どことなく、手作り感のある化粧水だ。


「最近流行ってるのよ。肌艶が良くなる天然化粧水だって」


「天然。なるほど」


言いながら、檎妃の肌を回復薬で丁寧に直してゆく。


「化粧水なら、わたしが作ってるもの良いんですけどねー」


「そういえばあなた、『薬術の魔女』でしたわね」


 薬術の魔女は回復薬を作っているが、化粧品も作っているのだ。そしてそれを薬猿の厳しい審査を合格(クリア)した上で、(魔術師の男の)後輩の魔術師の管轄である通鳥や、友人Bが牛耳っている交魚の回遊グループの手を借りて国内外で売りさばいている。


「でもあなたが作る化粧水って化学物質がたくさん入っているんでしょう?」

「は?」


 檎妃の言葉に、思わず薬術の魔女は眉を寄せた。補佐官2の咳払いが聞こえた。


「薬猿の工場で作られたものとか、化学物質が入っていて危ないって聞きますけれど」


「それ言ってんの誰ですか」


化学物質、が一体何を指しているのか分かっているのだろうか。


「お医者様よ」


檎妃の言葉に合わせて、付き人の女官が端末を操作して画像を見せてくれる。


「インフルエンサーとかやってる半端医者か」


「半端医者?」


「この人、論文ちゃんと書いてないヤブ医者」


「でもお医者様でしょう?」


「(正直、伯爵以下の医者は(神に制限されてないから)お金のために嘘とか平気でつくからなー)まあそうですね」


面倒になってきたので、返事が雑になる薬術の魔女。視界の端で、補佐官1が肩を竦めた。補佐官2はゆるゆると首を振っている。


「処置、終わりましたよ」


 薬術の魔女は檎妃に声をかけた。そしてゆっくりと椅子を起こす。


「あなた、火焔茸とか毒茸も蛇毒も『天然だから体に良いのよー』って食べるタイプ?」


「そ、それは……」


薬術の魔女が目を真っ直ぐに見て問うと、檎妃は視線を逸らした。


「とりあえずその化粧水、ちょっと貸してください。原因特定しますから。代わりにはいこれ」


補佐官1が付き人の女官から化粧水を取り上げ、代わりの化粧水を薬術の魔女が差し出す。


「何ですの?」


「わたしが作ってる薬用化粧水。天然成分入ってますよ。薬草たっぷりなので」


「で、でも……」


「お肌荒れたらまた来てください。なにかあった場合、補償もしますから」


勢いで言いくるめ付き人の女官に渡して、檎姫を帰らせた。


×


「なにこの化粧水」


 檎妃(の付き人)が持ち込んだ化粧水を手に少し取り、においを嗅いで薬術の魔女は呟く。


「毒でも入ってました?」


興味深げに補佐官1が近付き、補佐官2は


「毒なら大事(おおごと)になりますけれど」


と眉間にしわを寄せていた。


「……その化粧水、最近後宮(ここ)の一部で流行っている物ですね」


そう宦官1が呟く。


「流行ってんの? マジ? これただの植物のしぼり汁だけど」


 眉間にしわを寄せ薬術の魔女は肩を落とした。


「植物のしぼり汁……と言うと、普通の植物由来の化粧水とどう違うんです?」


問う宦官1に、薬術の魔女は補佐官1へ視線を向ける。


「説明しておきますねー」


意思が通じたようだ。補佐官1は宦官1に近付く。

 次に補佐官2へ、薬術の魔女は視線を向けた。


「承知しました。成分分析ですね。薬猿に連絡を入れておきます。それと、制作者の調査ですね」


「お願いー」


薬術の魔女は頷く。すると、補佐官1から説明を受けたらしい宦官1が、


「制作者は存じ上げてます。この後宮の者です」


と教えてくれた。


「商人の娘で、自身の作成した商品を後宮で広めている方なのです」

【本作の後宮システム】

正一品:皇后

従一品:四公爵の娘

春姫(桃色)、夏姫(緑色)、秋姫(黄色)、冬姫(紫色)


正二品:選ばれた侯爵の娘

杏妃(桃色)、楪妃(緑色)、椛妃(黄色)、季妃(紫色)、槐妃(灰色)、棗妃(橙色)、檎妃(草色)、柑妃(茶色)

従二品:官僚の長や大臣の身内の女性、他の侯爵家の娘

(授かった花の名前)嬪


正三品、従三品:政治貴族や大臣の身内の女性、歴史ある伯爵の娘

(授かった色の名前)貴人


(女官)

正四品、従四品:尚官局、尚儀局、尚服局、尚食局、尚寝局、尚功局の長


正五品、従五品:尚官局など六つの局にそれぞれ配属されている女官


正六品:その他の女性(伯爵、子爵、男爵)

従六品:その他の女性(平民)


リアルの後宮とは設定が違います。

設定が変わることもあります。


リアル後宮は主に皇帝の妻になることを目的としています(雑な概要)が、こちらの世界観では貴族/平民の女子達が安全に働くため(ついでに宮廷の官僚達の相手探し)の役割の方が強いです。

後宮の女官達と官僚達の交流会とかあります。

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