3 後宮の薬草事情
「で。わたしたちは、後宮で何したらいいの?」
調製場所を出、薬術の魔女は宦官1に問う。
「主には薬関係の指導をしていただけたら、と思います」
「ふん」
「こちらに、医局の宮廷医の持ち場があります」
宦官1に案内され、広い場所に通された。ここは医局の局長が居座る執務室で、主にはここに宮廷医の室長が居ることになるらしい。他の宮廷医達は執務室で室長の手伝いをしていたり、先程の場所で調薬したりするそうだ。
執務室では、女官Aと女官Bが待っていた。
「お待ちしていました」
「どうぞ、お茶です」
女官Aが朗らかに微笑み、女官Bがお茶を用意してくれる。普通のお茶だったので、薬術の魔女の好きな薬草茶は作らないと飲めなさそうだ。
案内された執務室は、外がよく見える場所だった。恐らく、受付の役割も担っているのだろう。
「外出てもいい?」
「何をするんですか」
振り返った薬術の魔女に、宦官1が問う。
「薬草園見せてもらおうかなーって」
「わかりました、案内します。ですが、一度お昼休憩を挟みましょう」
宦官1は納得するも、別の提案をした。時計を示され、見ると昼食の時間だ。
「お昼? そっか、もうそんな時間なんだね」
「食事は女官達がお持ちします。少々お待ちを」
宦官1に言われ、少ししてから食事を持った女官達が現れた。
×
出てきたお昼は魚肉のスープ、獣肉のソテー、鳥肉のリゾットだ。香草や野菜、海藻なども豊富に使われている。宦官1や女官A、女官Bは別のタイミングで食べるらしい。
「すっごーい、全部お肌にいいやつじゃん」
「美容重視で、栄養たっぷりですね」
「食材も器も、良いものを使っていますね」
薬術の魔女、補佐官達は感嘆の言葉を零した。使われている皿類は皆、青色や切れ込みの入った五枚花弁の花の絵が使われている。とてもきれいだ。
「おいひい」
薬術の魔女は目を輝かせる。彼女が次の皿に手を付けたのを確認し、毒は入っていないらしいと補佐官達は判断する。(※薬術の魔女は毒の類が効かない)
「後宮での食事は、主に尚食局が担っています。この医局も、大まかには尚食局に属します」
「司薬ですね」
宦官1の解説に、補佐官2が相槌を打った。補佐官1は、「どれもおいしそうですね」と呑気に薬術の魔女に話しかけていた。
「どれもおいしい。すごい」
「貴族の御息女方を預かる後宮ですからね。料理人の腕は確かです」
驚く薬術の魔女に、宦官1は答える。話によると、王都を含めた各9地方全てからそれぞれ料理人を雇っているのだとか。
×
昼食が終わったので、薬術の魔女は薬草園に行くことになった。補佐官達は、他の室員達のする仕事を確認するために医局に残るそうだ。女官1と女官2は、今度は薬術の魔女に付いて行くらしい。
「ふんふん、薬草薬草」
宦官1に案内されながら、薬術の魔女は鼻歌を歌い歩いた。薬術の魔女の後ろを、女官二人が静かについてくる。
「魔女殿は薬草がお好きなのですね」
「そうだね。小さいころから親しんでるから」
ご機嫌な薬術の魔女に、宦官1が微笑みかけた。
「小さいころから、と言いますと」
「初等部より前からだよ。おばあちゃんから、薬草の知識はたくさん教えてもらったからね」
「おばあちゃん……『白き森』の主様ですね。なるほど」
そうして少し歩いたところに、薬草園があった。それなりに色々な植物が植えられている。
「(鬼灯草に彼岸花、肉荳蔲、肉桂樹、茉莉花……か)」
ふーん、と植物達の確認をした。
「子宮収縮の機能があるやつがほとんどだけど……やっぱり、女の子が多いからそういう薬が多く必要なの?」
ちら、と宦官1を振り返る。
「それとも……堕胎薬でも作ってるの?」
と薬術の魔女が訊いた瞬間、宦官1の顔が引き攣る。
「……よくお分かりですね。実は、後宮で中絶薬が必要になることがありまして」
「ふーん。さすがに暗殺用の毒薬は作れないだろうけど、ちょっとした生薬程度なら宮廷医に頼めば作れるもんね」
「……お怒りにならないのですか」
「なんで? 黒い人は悲しむだろうけど、子供を産み育てられない理由があるんでしょ? なら望まれない子供を産んで無理に育てる必要はないよ。子供は後継が必要な貴族が産むだろうし」
「そういう考え方も、あるんですね」
静かに頷く宦官1をそのままに、薬術の魔女は薬草園の中へ入っていく。無論、ちゃんと靴裏などは浄化した。
「わ、ちゃんと育ってる! これならすぐに使えるねー」
葉の艶や栄養状態もよさそうだ。土づくりがしっかりしているのだろう。
「後宮の庭師の人はちゃんと仕事をしているんだね」
「尚寝局の者ですね。『薬術の魔女』殿が褒めていたと伝えておきます」
にこにこ笑顔の薬術の魔女に毒気を抜かれたのか、宦官1はほほえんだ。
薬術の魔女は、ちら、と女官1と女官2を見る。
「(あれ、見た感じお嬢様とその護衛って感じなんだけど。指摘しない方がいいかな)」
女官Aは薬術の魔女の様子を観察している様子で、女官Bは自然体な風を装って周囲を警戒していた。
「あなたはわたしの案内役なのは分かったんですけど、そこの女官の方々は一体?」
言いたいことをどうにか、オブラートに包んで問うてみる。するとこちらに話題が飛ぶとは思っていなかったらしく、女官Aはぴくっと肩を震わせた。
「ええと、ですね……」
ちら、と宦官1は女官Aを見た後
「『薬術の魔女』殿の手伝いがしたいそうです」
そう、薬術の魔女に告げる。
「(……ぜったい、何かうそだ!)」
思ったが、顔には出さなかった。
「宦官長の方の話からすると、薬術や医術の知識があるそうだけど」
「そうですね。なので、通常の女官よりは役に立てるかと」
宦官1のほうを見る。宦官1は何やら事情を知っていそうだ。というか、薬術の魔女のことも割と知っているので伴侶の仲間だと思っている。そもそも、宦官1の身のこなしが尋常でないのだ。
「ちなみに、どこの出身か聞いてもいい?」
女官達に問いかける。すると女官Aは女官Bと顔を見合わせる。
「毒蛇の方です」
少しして、女官Aが答えた。
「へぇ、蛇のところか。王都と植生が全然違うからびっくりしたんじゃない?」
「えぇ、そうですね」
毒蛇と言えば、砂漠が特徴なのだ。王都の付近はまだ緑の植生があるが、国境側にはほとんど植物がみられない。お陰で空気を砂が覆い、『天の神の目が届きにくい場所』と言われているのだ。噂に違わず治安は悪い。
そういえばこの間の夏、毒蛇の非公式テロ集団に捕まったんだったな、と薬術の魔女は思い出す。
「なにしに、ここまで来たの?」
「王都へ行ってみたかったのです。それと、伴侶探しですね」
「ふーん。見つかると良いね」
薬術の魔女が頷くと、女官Aはにこやかに笑った。嘘はなかったので、この話は信じて良さそうだ。
「結構聞くんですね」
と宦官1は苦笑いをしていた。
「気になることは、聞けるうちに聞いておかなきゃだよ。チャンスを逃したら二度と機会ないかもだし」
「そうですか」
それから薬草園を一通り見て回り、薬術の魔女達は居局の内部に戻ってくる。
「おかえりなさい」
「意外と長かったですね。薬草園は広そうですね……」
医局の執務室に戻ると、補佐官1と補佐官2が出迎えてくれた。
「薬草茶、作っておきましたよ」
「私達が飲んだことのあるものだけ、ですけれどね」
と、補佐官1が茶葉が入っているらしい缶を見せる。補佐官2が補足をした。
「えっほんと! やったー!」
思いがけない報告に、薬術の魔女は小さく跳ねる。その様子を見て宦官1は小さく笑った。
女官達は「薬草茶……?」と顔を見合わせている。
カクヨムに宮廷医生活を掲載しました。(1年目で完結予定)
名前開示版です。タイトルは同じ。




