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薬術の魔女の宮廷医生活  作者: 月乃宮 夜見
後宮編

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2 後宮の薬庫事情

 指定日。

 薬術の魔女は補佐官達と共に宮廷医の制服に着替え、後宮の前の門に着いた。中庸の象徴である切れ込みが特徴的な5枚花弁の花があしらわれた、豪奢な門。宦官を表す青色と、四季を表す桃色、緑色、黄色、紫色が平等に使われている。それがゆっくりと開かれた。


「相変わらず青い……」

「そうですねぇ」

「神聖な色ですからね。まずは宦官長に挨拶をしましょう」


 濃淡はあれど、ほとんど青一色で統一された後宮の光景に薬術の魔女は嘆息する。補佐官1は苦笑し、補佐官2が次の予定を告げる。


「ようこそ、よくお越しくださいました」


 宦官の局へ着くと、丸眼鏡のややきつい顔立ちの人物、宦官長が待っていた。男性のような、女性のような声はどこか優しく感じられる。


「薬が新しくなったおかげで()()()()をする者が減り、かなり仕事が捗っています。改めてお礼を」


「はい。薬でお役に立てたなら、よかったです」


宦官長は軽く頭を下げ、薬術の魔女は頷いた。宦官や後宮の女官の役に立てているなら、結構なことだ。


「では。後宮の薬庫がある医局に案内いたしましょう」


「宦官長が直々にですか?」


「確実に薬庫へと案内するためです。……『薬術の魔女』殿は()()()()()()有名なので」


「……」


多分『氷の君』を射止めた云々で、女官達から嫌がらせされるのを危惧しているのだろうと薬術の魔女は悟る。


「(……ま、伴侶(あの人)めっちゃ美だしな)」


納得である。


「(性格、すっごい悪いけどね)」


顔は傾国並みの美人だが、他人の不幸を喜ぶ粘着質(ストーカー)男だぞ。なんで結婚したんだっけ、と逆に思えてきた。顔だな。(※相性結婚の制度)


×


 医局に着いた。

 

「こちら、医局です」


「綺麗なところ」


青い色は相変わらずだが、色は淡い。代わりに薬物関連の取り扱いを表す、橙色の柱や装飾が使われている。建物自体は後宮のデザインと同じ感じだ。


「お気に召したようで、何よりです。宮廷の薬庫の改装に合わせて、こちらも改装を致しました」


「なるほど」


宦官長の言葉に、薬術の魔女は頷く。補佐官達もどこか感心している様子だ。


「……で、こちらの方は?」


医局の前に立つ、一人の宦官と女官二名に薬術の魔女は視線を向ける。


「性格に難はありますが、信頼できる者です。医療、製薬の知識もあるので、役には立てるかと」


「そうなんですね」


宦官長から紹介があり、宦官と女官二名はそれぞれが礼をした。


「宜しくお願いいたします」


二つのお団子髪(シニヨン)に桃色の蓮の髪飾りをした女官はどこか澄ました雰囲気をしている。女官だと紛らわしいので女官Aとでも呼んでおこう。


「よろしくお願いします」


もう一人は女官Aとよく似た雰囲気の女官だ。同じ髪型で紫色の蓮の髪飾りをしているが、筋肉の付き方が少し違うようだと薬術の魔女は気付いた。どこか、武人のような印象を持つ。女官Bと呼ぼう。


「噂に違わぬ素朴な容姿、いや、可愛らしいね」

「はぇ?」


宦官の方は、にこ、と爽やかな笑みを浮かべた。


「……彼は、女子を見ればすぐに口説く悪癖を、有しています」


「へー」


やや頭が痛そうな顔で、宦官長が教えてくれる。

 ちら、と耳を見ると元の性別を表す耳飾りは黒だった。元女性の宦官らしい。とりあえず宦官1と名付けておく。


「案内を兼ねてデートしましょう」


「補佐官達いますけど」


振り返ると、補佐官達はつい、と顔を逸らした。知らんぷりすんな。


「気にしなければ良いのです」


「既婚者ですけど」


なおも食い下がる宦官1に、既婚者の証である右腕の結婚腕輪を見せる。不変の金属と深い緑色(常盤色)の魔石を使った腕輪()だ。ちなみに魔術師の男は不変の金属と明るい赤色(珊瑚珠色)の魔石を使った腕輪()を左腕に着けている。


「そんなこと……なんですか、その腕輪」

「へ?」


「……確かお相手は『氷の君』……え、嘘」


腕輪を見た宦官1がドン引きしていた。恐らく、夫の魔力で変質しているのが分かったのだろう。(※そもそも伴侶の目の色をしたものを身に付けている時点でドン引きもの)。


「いえ、なんでもないです。……後が怖そう。仕方ない、やめておきますね。残念です、こんなに愛らしいのに」


「うん。やめておいたほうがいいと思う」


やや顔を青ざめさせ、宦官1は力なく笑った。薬術の魔女は彼の賢明な判断に深く頷く。あっさりと身を引いた宦官1に、宦官長は「おや珍しい」と軽く言っただけだった。


「私はここまでです。くれぐれも、『薬術の魔女』殿に失礼が無いように」


「……では、気を取り直して。医局の案内をいたしましょう」


ここで宦官長とはお別れらしい。宦官1が案内を引き継いだ。医局の薬庫などの中には女官Aと女官Bは入れないらしく、室長が居座るための執務室で待機するそうだ。


「(ふーん)」


×


 案内された薬庫の扉は分厚く、表面に天の神を表す浮き彫りが施されていた。

 鍵穴はない。代わりに宦官1が手をかざすと橙色の魔術陣が浮かび上がり、重い音を立てて扉が開く。


「防盗、防湿、防虫、鮮度維持を施しています。宦官長が、月官(宮廷魔術師)達や日官(宮廷錬金術師)達に大金を払ってちゃんと作り直してもらったんです」


「そうなんですね」


 中は驚くほど涼しく、ほのかに薬草の香りが漂っていた。薬術の魔女にとっては良い香りである。


「(多分、猿のところの人とかとも話をしたんだろうな……)」


驚くほどちゃんとしている。補佐官達も「これはすごい」「医術薬術開発局(うち)と同じくらいしっかりしています」と感心しきりだ。


 棚は天井の近くまであり、引き出し一つ一つに薬草の名前と効能や採取日が記されている。引き出しを開けると、除湿用の石が一緒に置いてあった。

 保存されている薬の中で特に目を引くのは「月影草」「胡蝶の鱗粉」「日向草」など、明らかに高級すぎる素材だ。


「すごい……流星草までありますよ」

「美容目的の材料、多くありませんか?」


補佐官1は驚きの声を上げ、補佐官2はやや呆れている。


「これ。後宮の女官さんたち、ほとんど美容目的で使ってるでしょ。風邪とか解熱、痛み止めとか病気や怪我用の材料、あんまり使われてない」


「…………私の口からは、とても」


口をへの字にした薬術の魔女に、宦官1は笑った。ここに勤めていた宮廷医はちゃんと仕事をしていたのだろうか。


 次に、道具の保管場所へと案内される。

 天秤は純銀製で、土台の個所に「白き神」の紋章が刻まれている。僅かな誤差も許さない精度があるらしい。

 他にも純銀製の機材がいくつか。ちゃんと陶器や硝子製の道具もそろっており、薬術の魔女は安堵する。恐らく、見栄えのために純銀製の機材も置かれているのだろう。埃は積もっていなかったが、使用された痕跡はなかった。


 道具達は、薬術の魔女の御眼鏡に適うものだ。満足げな薬術の魔女に、補佐官達はひっそりと胸をなでおろした。


 最後に、製薬の場所へと案内される。そこでは何人かの宦官が作業をしていた。そこに入る宦官達は、薬物取り扱いを許可されているのか、橙色の飾りと草色の飾りをつけている。


 中央には巨大な炉が鎮座していた。


「今は媚薬……じゃなくて、美容薬を練ってるんですね?」


ふんふん、と匂いを嗅いだ薬術の魔女は宦官1を見る。後宮で何に使うかは分からないが、需要があるのは確かなことだ。美容成分も確かにあるし。


「違います! 栄養薬です!」


 宦官1が慌てて否定するが、炉から立ち上る香りが完全に()()()の香りだった。

 薬術の魔女は苦笑しながら、棚の奥に置かれた小さな瓶を見つける。

 ラベルには『金の君、氷の君 御用達』とだけ書かれていた。躊躇せず開けると、補佐官達が「何してるんですか」「勝手に行動しないでください」と慌てる。


「ああ、大丈夫です。それは(期限が切れた)普通の薬ですので」


と宦官1が首を振った。


「そうなんですか、よかった」

「大丈夫ですかそれ」


と安堵する補佐官1と呆れる補佐官2をそのままに、薬術の魔女はふんふん、と匂いを嗅ぐ。大丈夫そうだ。ちょびっと中身を手に出して、舐めてみる。


 中身は、明らかに夫が飲まないような甘ったるい栄養剤だった。


「(……あの人、飲んでないよね絶対)」というか、そもそも薬術の魔女の作った栄養剤か自作の薬しか飲まないし。


 手を洗い、薬術の魔女はラベルを再度見る。


「『金の君』ってだれ?」


「宰相殿ですよ」


「はえー」


「興味なさそうですね」


補佐官1に問うと返答があった。補佐官2は


医局(こちら)の魔術、かなり綿密ですね。どこの月官に加工していただいたのですか?」


と宦官1に訊いている。薬術の魔女も聞き耳を立てた。


「人馬宮と双子宮、蘇蛇宮の月官ですよ」


宦官1の説明に、薬術の魔女は周囲の魔術の様子を確認する。防犯系の魔術が、かなり厳重に掛けられているようだ。


「(じゃあ伴侶(あの人)医局(こっち)来れるな)」


思いつつ、口には出さなかった。

今さらですが、この作品のテーマとコンセプトを発表します。

テーマ(主題)

「魔女と術師のいちゃつきが見たい」

コンセプト(概念)

「魔女に宮廷でなんちゃって推理をやらせる&謎の解明」

よろしくお願いいたします。


私は魔女と術師の自覚的/無自覚ないちゃつきが見たい。

結婚事情を読まなくとも楽しめるよう、尽力します。

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