1 軍医中将
『ある魔術師の戦中記録』(https://ncode.syosetu.com/n7208lj/)
『薬術の魔女』が軍医中将になる決定打となった戦争のお話を書きました。
ジャンルは戦記(恋愛要素皆無)、名前開示版です。
1万2千字くらいなのでサクッと読めると思います。
薬術の魔女は、軍医中将になってしまった。
宮廷で軍医中将の任命とそれに伴う子爵の叙爵の儀式を行うことになり、今は医術薬術開発局の薬術の魔女専用の執務室で準備をしている。
薬術の魔女の内心はあわあわしていた。気を抜くと「あわわわ」と間抜けな鳴き声が出る始末だ。同時に昇進する補佐官達は、薬術の魔女を見て余裕そうに苦笑しているだけ。もっと慌ててもいいのに、と言っても余裕そうである。
「落ち着け。先輩からのアドバイスだが、とりあえず堂々としておけ。そうすりゃあとはなんとかなる。おどおどしてる奴が上に立っていたら、下の奴らは不安になるだろ」
「そ、そうだね」
人事中将である同僚の男にやや呆れ交じりに諌められ、薬術の魔女は何とか落ち着いた。同僚の男は薬術の魔女の面倒を見る役割も担っているらしい。
なにせ、薬術の魔女が『薬術の魔女』の名を受け取った時よりも緊張するのだ。(とは言いつつ。『薬術の魔女』の称号を受け取ったのは12の頃なので、緊張のしようが無かったのだが。)
薬術の魔女は自身の格好を見る。普段のただの黒い軍服と異なり、装飾が派手だ。結婚式(当事者)用の白い軍服や、慶弔事用の灰色の軍服とも違うデザインだ。髪は伴侶の目の色の髪飾りで後髪を一つに結んでいる。
「その服、これからアンタの儀式用の制服になるんだからな。気に入らないところはないか?」
服をまじまじと見ている薬術の魔女に、同僚の男は問いかける。
「はぇー……変なとこはないよ。痛い所もない。中の生地、良いやつ使ってるんだね」
「そりゃあ、アンタの肌の繊細さは有名だからな。『魔女』殿に四六時中不機嫌で居ちゃ困るだろうよ」
「ふーん」
「普段のやつと慶弔事用のやつの階級章はすでに変えてある。帰ったら机の上に置いてあるだろうから、受け取っておけよ」
「はーい。置き場所って、この部屋?」
「そうだ。アンタがいつも居る、この執務室だよ。それとも、軍部に執務室置いとくか?」
やや意地悪そうに同僚の男は表情を歪めた。
「嫌。遠くてもいいから、そっちでいい」
「了解。ったく。大変だな、アンタも」
ぷん! と顔を逸らした薬術の魔女に、同僚の男は眉尻を下げる。
「んー、別に。今は気にしてないよ。過剰な辺りには天罰は下ってるし、今居るのは実力のある人といい人ばっかりだし」
「そうか。なら良い」
実のところ、薬術の魔女は軍部に良い思い出がないのだ。缶詰にされて、兵器の開発を強要されたからだ。お陰で、いまだに軍の本部に行くと気持ちが下がる。
なので、薬術の魔女の隔離施設として医術薬術開発局ができたことは薬術の魔女にとってはありがたい事だった。恐らく、今回の薬術の魔女の叙爵の儀式が宮廷で行われるのも配慮の一つだ。
「アンタは毎年昇進していたが、とうとう中将になるんだもんな。最年少じゃないか?」
揶揄う声色で、同僚の男は薬術の魔女を見る。かくいう同僚の男は去年人事の中将になったそうだ。薬術の魔女より、年齢は3つほど年上だ。
同僚の男は薬術の魔女とは違い、軍学校卒の士官からの昇進である。薬術の魔女はあいにく、魔術アカデミーという魔術のエリート校卒なので下士官からだ。二等士、一等士、下兵曹、上兵曹、曹長、少尉、中尉、大尉、少佐、中佐、大佐、少将を経ているのだ。准尉、准佐、准将は補佐官や秘書官専用の階級のため、薬術の魔女や通常の軍人達がなることはない。
「そーかもね。軍医中将になる、って決まってたとはいえ中将になるのはちょっと怖いなー。きみは?」
「ん? 俺は異国とはいえ元王族だし、今も通鳥の当主の伴侶だからな。何も変わらん」
「へー」
「ほら、準備が終わったんなら宮廷に行くぞ。主役が遅刻なんてあった日にゃ笑いモンだ」
同僚の男に急かされ、準備を終えた薬術の魔女と補佐官達は移動の馬車に乗り込んだ。
×
叙爵の儀式は粛々と行われた。
薬術の魔女はそれっぽい顔をして、同僚の男のアドバイス通りに堂々としていた。それで何とかなったらしい。儀式が終わった後に、補佐官達から「様になっていましたよ」「いつもそうだったら良いんですけれどね」と褒めの言葉(?)を貰った。
同時進行で、第三王弟の総司令官への任命式も行われた。
それから軍医中将として日々を過ごして仕事を色々と行い、慣れてきた頃。
薬術の魔女は、補佐官達を伴って宮廷に呼び出された。
×
見栄えの良い馬車に乗って、補佐官達と共に薬術の魔女は宮廷に着く。
「(……呼び出された、ってことはつまり)」
煌びやかな宮廷の内部を通り、謁見の間に通された。そこにはやはり朱殷色の髪の王弟と、その傍に控える宰相が待っていた。
「後宮の、医療の世話をしてくれ」
薬術の魔女と補佐官達が跪座するなり、王弟はそう告げた。無論、拒否権はない。
「(やっぱりー!)」
「そう身構えるな。やはり、薬猿できちんと学んだ者の知識が必要だからな」
口をへの字にした薬術の魔女に、王弟は面白そうに笑う。ちなみに宰相は『面白くありません』と言いたげに、やや怯えたような困った顔をしていた。宰相は小心者なのだろうか。
「権威ある者は概ね男なんだ。だから、後宮の女官や姫達が素直に受け入れてくれない。あと、生まれてから女であった者にしか分からないこともあるだろう」
だそうだ。
×
屋敷に帰ると、薬術の魔女は夫の魔術師の男にしばらく後宮の世話をすると言う話をした。すると「存じ上げて居ります」と、淡々とした返事があった。
「……泊まり込みですか?」
魔術師の男は静かに、薬術の魔女を見下ろす。(※因みにこれは薬術の魔女には魔術師の男が不安そうに見ているように見える。「(一緒に居たいんだなー)」と薬術の魔女は一瞬思考する。)
「ううん。通う方」
「然様ですか」
魔術師の男は視線を逸らした。(※安心したらしい、と薬術の魔女は察する。)
「泊まり込みだったら、何か問題が?」
「いえ。後宮は貴族の御息女方がいらっしゃいますが、屋敷程設備は整っておりませぬ。貴女が耐えられるか……」
やや愁いを帯びた表情で、魔術師の男は口元に手を遣る。
「なるほど? 分かった。誘われてもおうちに帰るよ」
「宜しい。恐らく余っている寝台は硬く、使える布も質が悪いですよ。質の良いものは御息女方が持っていきます故」
「わ、絶対帰る!」
身震いをした薬術の魔女に、魔術師の男は僅かに口元を緩めた。
「後宮には四季姫達がいらっしゃいますが、他の御息女方の方が多くいらっしゃる」
「ふん?」
真剣な表情になった魔術師の男に、薬術の魔女も少し気を引き締める。
「皆、殆ど貴族ですからね。お気を付けくださいませ」
「ほん」
「普段の貴女の様子を見せれば『野蛮』だの『面白い(意味深)』等と言われますよ」
「あー、うん。よく言われるから別に」
「……然様で御座いますか」
何かもう手遅れらしい、と魔術師の男は察した。
実のところ宮廷医として活動していた頃、宮廷で土いじりをしたり虫を捕まえたりしている姿を女官達に目撃され色々と言われていたのである。その噂は恐らく後宮にまで広がっている。
花見祭の頃、魔術師の男が夏姫と真剣勝負をしているのをよそに、春姫や秋姫、冬姫達から宮廷での噂の真偽について問われたのだ。
ちなみに薬術の魔女の返答は大まかに『是』である。その答えに、四季姫達は驚いたり笑ったりしていた。
それから薬術の魔女は後宮に行く準備を始める。
宮廷医としての制服をそのまま着て行って良い、と言うことなので宮廷医の時と同じ準備をしていれば問題ないだろう。
何も思いついてないのに書き始めました。
私(筆者)の首の先に着いているものは帽子置きでした……




