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薬術の魔女の宮廷医生活  作者: 月乃宮 夜見
宮廷医編

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13/38

12 室長会議と偽装工作3


 女官や男官達を探して、宮廷の中を歩く。月官(宮廷魔術師)と違い割と見かけるのだが、掃除をしていたり何かを磨いていたりと忙しそうだ。

 その上、半分ほどは薬術の魔女を見かけると慌てた様子で視線を逸らす。やはり、噂話の影響は強そうだ。


「他の聴取は私達補佐官に任せて、貴方は研究室で大人しくした方がいいですかね」


「うーん、ひとまずもう少し情報集めてから」


「どうやって集めるんですか」


「あ、」


 唐突に薬術の魔女は声を上げた。


「なんですか」


「そこ。わたしを見ても逃げない人達、見つけた。最近よく話してるの」


「はぁ。……まあ、情報を集めるくらいはしておきましょうか」


 女官や男官達に近付く薬術の魔女の後を、補佐官2はついて行った。


 そして、最近行動が怪しい官が居ると女官から聞く。

 その官は何かに怯えているらしい。


「……明らかに怪しい」


「そうですね……『何に』怯えているかによりますが」


 教えられた居場所は食堂の裏だった。男官や女官達の控室がある場所だ。


「こんにちはー」


「こんなところに何用だ。……病人は居ないぞ。顔色が悪い奴もいるが」


厳つい男官が出てきた。だが体格の大きな人間は軍人や伴侶で見慣れているので、薬術の魔女が怯む事はなかった。出入り口から見える食堂の裏は案外広く、調理場と食材や皿類の収納、洗浄場が分けられていた。


「その人の様子見です」


なんて嘘(のような嘘でないような)言葉を返す余裕すらある。補佐官2も動じずに薬術の魔女の後ろに立っていた。


「だがお前、乙女宮の星官じゃないな?」


「乙女宮?」


「俺達男官や女官の担当だろう」


「なるほど」


「あんた何者だ。……上着からして室長だろうが」


厳つい男官はじろじろと薬術の魔女と補佐官2を見る。恐らく、帯の星座が判別できないのだろうと薬術の魔女は悟った。


「蘇蛇宮の星官です」


「蘇蛇宮? ……って事は、『薬術の魔女』か?!」

「ひっ!」


厳つい男官が声を上げた瞬間、弾かれたように別の男官が薬術の魔女達の横をすり抜け駆け出していく。


「あ、逃げた!」

「そこで待っていてください。捕縛は得意です」


思わず叫ぶ薬術の魔女をそのままに、補佐官2は眼鏡を外した。目が一瞬光ったかと思えば、逃げた男官が身体を硬直させ倒れる。

 薬術の魔女は邪眼を使ったのだと理解したが、周囲は「なんだ?!」「何をしたんだ!」と驚いていた。


「お、俺は……知らなかったんだっ!」

「どうしたんだよお前」


動かないように軽く捕縛しているうちに、食器を磨く係の男官は自供する。途中からは嗚咽混じりで酷い怯えようだ。


 数ヵ月前から宮廷医に『綺麗に磨ける薬だ』と薬をわたされ、拭く布に付けて食器を拭いていたのだそう。

 薬術の魔女達が試験を受けていた数日だけ『作業』をしないよう言われた。それを不思議に思ったものの、その日だけ毒事件が起こらずそれで薬と毒事件の関係性に気付いたらしい。


「抗議をするも『お前はもう手遅れだ』と言われて……いつ天罰が降るかもしれなくて恐ろしかった」


「でも、もうやってないんでしょ?」


「そ、それはもちろん!」


こくこくと頷く男官を見た後、薬術の魔女は補佐官2へ振り返る。


「じゃあ、新しい人を雇ったのかもしれない」


「まだ毒事件は続いていますからね」


「根本原因を探さなきゃ、ずっと続くかも」


「そうですね。指示者を探すということですね」


改めて男官達の方を向き、「誰かわかる?」と問うた。


「全く。ただ、服の色から星官(宮廷医)ってことしか……」


だが、周囲の男官達は首を振るばかりだ。


「っていうか、男官や女官達と接して怪しくない星官って乙女宮の人じゃないの?」


「まず、どうやって犯行したかを探ってみませんか。理由は大体分かります。『薬術の魔女』を妬んだとかそこいらでしょう」


「そっか」


補佐官2の言葉に薬術の魔女は頷く。


×


 前回の男官は駄目になったので新しい官にやらせたが、それもまた駄目になってしまった。だがまた新しい官が入ったようなので、その者にやらせることにしよう。


「これはとても綺麗に食器が磨ける薬です」


「そうなんですね」


 いつものように告げ、とある薬を新人の男官に渡した。見るからに気弱そうで、言うことを聞いてくれそうだ。


「これは口に入れても大丈夫な薬ですか」


「当たり前だろ! 男官のくせに宮廷医に楯突くつもりか?」


聞き返すとは思っていなくて、思わず嘘を告げてしまった。だがこれくらいの嘘など、誰でも吐くだろう。


「じゃあ、貴方が口に入れても問題はないですね」


「そ、それは……今じゃなくても良いだろう! さっさと仕事をしろ」


「分かりました」


穏やかに頷く男官に、内心でほっとひと息吐いた時。


「では、貴方を捕縛しますね。()()()()()()

「は?」


ガシっと腕を掴まれる。


「ところで貴方、もしかして()()()()()()様ですか?」

「っ! やめろ! 手を離せ!」


普通じゃない、その様子に手を振り解こうと動かす。だがびくともしない。


「犯人、見つけた!」

「証拠は揃っていますよ」


戸が開き、背の低い宮廷医と銀髪の宮廷医が現れた。


×


「勝手がわからない、新人の男官に声をかけると思っていましたよ」


 冷ややかな目で補佐官2は主犯を見下ろす。


「まさか貴方が犯人だったとは」

「っていうか、真っ先にわたしを疑った人じゃん」


 主犯は、補佐官2と薬術の魔女には見覚えのある人物だった。主犯を捕まえている補佐官1は全く面識が無かったが、着ている服の()でただの宮廷医でないと容易に理解できる。


 捕縛され項垂れるのは、星官(宮廷医)の乙女宮室長だった。現行犯なので言い逃れはできない。


「僕の変装、役に立ったでしょう?」


補佐官1がにこやかに薬術の魔女に告げる。確かに補佐官1は、痣を消して髪色を少し変えるだけでその場に溶け込んでいた。

 そして犯行理由は、やはり薬術の魔女のせいにしたかったからだそうだ。


「何がそんなに気に入らないの」


「お前みたいに恵まれた者には分からないだろう」


眉尻を下げて質問するも、星官の乙女宮室長はツンと顔を逸らす。


「分かる訳ないじゃん。教えられてないんだから」


「お前のように周囲から認められていて、功績も残している奴が、宮廷になんて来るな!」


「わたしだって好き好んで宮廷に来た訳じゃないんだけど?!」


薬術の魔女の言葉に苛立ったようで、星官の乙女宮室長は語気を荒くして言い返す。だが薬術の魔女自身は『王命だから』宮廷に来たのだ。命令がなければわざわざこんな宮廷になど、あまり居たくない。


「それに周囲から認められる云々は、自己の日々の努力の問題でしょ! 甘ったれんな!」


『仕事をしていない』とまで言われている星官が言って良い言葉じゃない、と薬術の魔女は眉を吊り上げる。認められたいのなら、そうなるように行動すべきだったのだ。

 そもそも毒事件などと言う問題を起こしている時点でもうどうしようもないのである。


「わたしが1日にどれだけの薬作ってると思ってんの! 宮廷と軍部のノルマの回復薬が200本と減退薬10本と趣味のお薬300本だよ! それも毎日!」


「趣味があからさまに多い……」

「ですねぇ」


薬術の魔女の言葉に補佐官達はため息を吐いた。薬1つ作るのだって、材料を入手したり質を留めさせたり、材料の加工だって必要だ。簡単にやってのけているように見えるが、手間は十分にかかっているのだ。


「1日に510本も薬作ってんのか?! 化け物め!」


「急に罵倒すんなし! 一気に作る方が手間も省けて楽なんだよ!」


星官の乙女宮室長と薬術の魔女が言い合いをしている合間に、星官の人馬宮室長が現れた。事件の真相を聞きに来たのだろう。


「乙女宮は一旦解体します」


 話を聞いた後、星官の人馬宮室長は静かに告げた。


「そんな」


「貴方は己の劣等感のために多くの人を巻き込んだ。然るべき裁きを受けていただきます」


目を見開く星官の乙女宮室長に、星官の人馬宮室長は呆れた様子を見せる。そしてもう用事はないと(きびす)を返して去っていった。

 室長会議の間も静かに周囲の様子を見ていたが、言葉数の少ない人なのかもしれない。


「会議の後に、新しく相応しい人材を充てるらしいですよ」


こっそりと補佐官1が教えてくれる。どうやら今ある(蘇蛇宮以外の)室から室長や室員を選び出し、乙女宮を立て直すのだそうだ。


 それからすぐに、人馬宮の室長からお詫びの手紙が届いた。内容としては『それぞれの室を室長個人の自由にさせていた結果、貴方に迷惑をかけてしまいました。申し訳ありません』と言う内容だ。

 お詫びとして薬術の魔女の主張であった『薬庫に鍵を付ける』話を天官や日官に通してくれたそうだ。


×


 事件が解決して、薬術の魔女は上機嫌で家に帰る。

 家族からも「機嫌よさそうだね」と指摘を受け、「まあねー」と受け流す。


「そういえば。きみのアドバイスのおかげで、室長会議ではあんまり不利にならなかったよ」


夫婦寝室で、薬術の魔女は夫の魔術師の男に毒事件のあらましを話した後にそう告げた。


「然様ですか。……事件解決、お目出度(めでと)う御座います」


「うん。でもさ、わたしじゃなくても解決できたよね?」


「……そうでしょうか」


「ふーん?」


「まァ、貴女のお陰で毒事件は解決しましたし。その功績で、薬庫に鍵を付ける事になったのでしょう?」


「そうだよ。あと、重さで管理するように進言した。温度管理も。多分、これで少しくらいは宮廷内の薬管理はましになると思う」


「然様ですか。(ところ)で、次の目標は何ですか」


「次? うーん……あ! 器具新調するの忘れてた。あとうちの研究室に焜炉(こんろ)欲しい」


「そうですか。では、予算を取らねばなりませんねぇ」


「予算かぁ」


 だが室の予算の振り分けや会議などは年度始まりの秋の初めに行われるので、はっきり言えばもう手遅れの話である。なので、予算の獲得のために何か資金集めをする必要があるだろう。


「自己資金ならあるんだけどなぁ」


「何でも自己資金で済まして仕舞えば、財務部の者共に何かしら抗議を受ける可能性がありますよ」


「そーなの?」


「少なくとも、『計算が合わない』と言われます。彼等は資金が増える事よりも帳尻が合う事を好みます故」


「へー」


 色々知ってるなぁと薬術の魔女は頷いた。そのついでに、薬術の魔女は別のことを思い出す。


「ね。わたしが『薬術の魔女』だと分かった途端に『コイツが伴侶かぁ』って顔されるのなに」


「はァ? 何方(どなた)から向けられたのです」


「宰相の人と日官の磨羯宮室長と騎士団長」


ついでに偶然見かけた月官にもそのような目で見られた覚えがあるが、とりあえず省いておいた。


「…………」


「なに。心当たりがあるわけ? 呪っちゃった?」


黙り込んでしまった魔術師の男の顔を、薬術の魔女は覗き込む。ややあって、彼は口を開いた。


「……学生会で関わりの有った者共ですね」


学生会、と言うと魔術アカデミーなどの学業機関における学生生徒達による自治組織のことだ。


「へぇ? じゃあもうちょい居そうだね。誰?」


「……枢機卿、魔術師協会幹部、侯爵家、序でに裁判官副長に一人ずつですかね」


聞くだけでも錚々(そうそう)たる人達である。学生会で関わりがあった、と言うことは成績も優秀だったであろう事は想像も難くない。(そもそも魔術師の男は入学してから卒業するまで満点の成績を取っていたらしいが)


「へー。で、なにしたの」


「弱みを握った程度ですよ、ほんの少し」


「例えば?」


「女性関係と技量のネタを少々」


「うっわ、最低」


眉を寄せ反射的に呟くと、魔術師の男は一瞬動揺した様子で視線をずらした。


「間違えました。数名に、魔術関連の勉学を教えておりました」


「そんな変な間違いやるかなぁ?」


にっこり、と微笑むそれは恐らく嘘ではない。だが勉強を教えた程度が弱みになるのだろうか。


 ともかく。毒事件は解決したし、これ以降は薬庫の管理が厳しくなるので宮廷では毒事件は頻発しないだろう。それに満足し、薬術の魔女は眠りについた。



「……等と、考えているの成らば。まだ甘いですよ、小娘」


 眠る薬術の魔女の頬を撫で、魔術師の男は目を細めた。


「……(これ)で、より狙われ易くなられて仕舞われた。何もしなければ、汚名を()()()()()()()辞めさせて貰えただろうに」


 ただでさえ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、毒蛇や薬猿から目を付けられているというのに。

 王都内の政治貴族にも目を付けられてしまうではないか。


 本当に余計な事をしてくれた、と魔術師の男は歯噛みした。命を下した者共を呪う事は出来なくもないが、手間がかかり過ぎる。

 ()()()諦めて、伴侶を守るための方法を思考することにした。



なんかめんどくせぇ行政関連の話をこちらの呟きでやっておりました。

https://x.com/sinojijou/status/1792002550620889104?s=46&t=Yi5pLMdiS_mxDEDYkpoqQg

必読ではない。


現状がこうってだけで多分変わることがあります。

首相の話がありますが多分宰相のことじゃないかなと思うなど。この辺りの設定はもう少し考えておきます。


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