選んだ職場は「カメラ屋」さんでした。
職場で霊感があるないの話になり、
そこから思いついたお話です。
「幽霊のいるカメラ屋さん」
あるとき、当時の総理が何を考えたのか変わった法律が出来た。それは、『幽霊にも人権を与える』というものだった。
まだ小学生の頃の僕は、なんだそれ。と思っていたが、その法律が成立してから、街中で不思議な広告を見かけることが増えたのだ。
「アルバイト募集中」や「正社員募集」みたいな広告の中に、「幽霊の方も歓迎」の一文が増えたのだ。幼い僕には「へんなのー!」と、言うだけで終わったが、そんな世の中になってから数年経ち、僕もバイトをするような歳になった。
古い雑居ビルの四階。そこに僕、平田佳斗が働くカメラ屋さんがあった。
小規模な店舗だが新品はもちろん、中古のカメラも扱っているので常に在庫管理を徹底されていて入ってすぐの僕には難しい事ばかりだったが、ここの募集広告にも例の一文はあったのだ。
けれど一向に幽霊の姿は見ることはなかった。それもそのはず。僕には所謂、霊感というやつがなかったのだ。けれどその募集広告のあるところには必ず見える人がいるというのだが、誰もその話題はおろか幽霊の話ですら従業員同士でしたことなかった。
まぁまだ入って大して経ってないしな、と気にすることもなかったのだ。
あの日までは。
僕が働き出して三ヶ月経ち、ようやく仕事にも慣れが出てき始め、先輩社員の人たちとも打ち解けるようになってきた頃のことだった。
店舗のバックルームのほうから怒鳴り声がしたのだ。びっくりした僕は持っていたカメラレンズを落としそうになりながら近くにいた店長に声をかけると「あー。しばらくは落ち着いてたのになぁ。ほっといて大丈夫だよ」とそのまま作業に戻って行った。嘘だろ、このまま仕事に戻っちゃうのかよ、ともう一度声をかけようとすると、また「だから、そうじゃないでしょ!」と言ったような大きな声がまた聞こえてきた。
この日入っているメンバーは、自分と店長、それと吉田さんだ。
吉田さんは社員ではないらしいのだが店長と仲が良くいつも楽しそうに話している姿が印象的な人だったが、その人がどうして『1人で』バックルームで怒鳴っているのだろう。
電話だろうか?けれど電話ならお客様相手だろうし、こんな話し方になるか?などぐるぐると考えていると、そんな僕の姿がおかしく見えたのか、店長が笑い出した。
「そっか、もしかしてまだ‘ゆうちゃん’のこと知らないんだっけ?」
「ゆうちゃん?」
「そう、うちの幽霊パートさんの名前。本名は吉田さんしか知らないんだよねー。」
ここで初めて幽霊が働いていることを知った。
他のアルバイト仲間たちとそういう話をしなかったのもそうだが、接客はもちろんできないので、彼女、ゆうちゃんは基本裏方の作業を中心にしてるため、接客ばかりやっている僕に知る機会が少なかったのだ。
彼女はネット注文や写真印刷など様々なことをしているんだとか。それを聞いて妙に納得したこともある。
入ってそこそこ経つのに一度も裏方作業を教わらなかったからだ。他店舗のカメラ屋さんでバイトしてる友達は印刷なんかもやってるよ、と聞いていたのでそれこそ吉田さんに聞いたことがあるが、やらなくていいよ、の一点張りでそれ以上を聞けなかったのだ。
そして今、やっと理由を聞けた。なるほどそういうことだったのか。へぇー、と相槌を打っていたとき、レジにお客さんが並び出した。店長がさっとレジ対応に入ったため、残りの作業を終わらせようとしたときに他のお客さんに声をかけられたため案内をすると、また他のお客さんにも声をかけられた。そちらに関しては僕ではわからないことだったので、吉田さんに助けを求めにバックルームの方へ行き「吉田さん、質問が…」あるのですが、と続けようとしたが、僕から見て後ろ向きでファブリーズを片手に"なにもない空間に向かって"構えている姿をみて言葉に詰まってしまった。
「え、なに?ごめんごめん、気にしないで」とこちらに向き直りながら、シュッとファブリーズを吹きかけ、近くの棚に置いた。もちろん、何もない空間に吹きかけたのだ。(吉田さんこわい…)とか思いながら、お客さんに聞かれたことを聞きはじめ、話していると吉田さんの背後のほうでカタっと音がした。気のせいだろうと思って気にせず続きを聞き、お礼を言ってお客さんのところへ戻ろうと吉田さんに背を向けた瞬間、ゴトっと何か落ちた音がした。
「へ?」振り返ると先ほど吉田さんが置いていたファブリーズが床に落ちている。そんなに倒れやすい所に置いてなかったような…、と拾い上げて戻そうとした瞬間に勢いよく手から抜かれ、また何もない空間に吹きかけ始めた。
「反発してる暇があるなら働け!」とまた大きな声を出す。もはや、ゆうちゃんではなく僕が怒られてるんじゃないか?というほど驚いて肩を震わせてしまった。
戻るよ!の一言で我に帰った僕はお待たせしていたお客さんの元へ戻り接客をした。
しばらくするとお客さんの流れがなくなりまた暇になり出した。
他のお店から聞こえてくる声や雑居ビルの店内放送だけが店内に響いている。ふぅ、と一息ついてからそういえば、と吉田さんに声をかけた。
「あの、吉田さんって幽霊見えるんですね。僕知らなかったや」
そう聞くと、きょとんとした表情をきたあとに少し笑って「あれ、知らなかったっけ。結構昔から見える体質でさー。ここに働き出してから、ゆうちゃんのことに気づいて店長にあいつ働かせようぜって言ったんだよ。当時はこの店の中でゆうちゃんの事知ってる人だっれも居なくてさ。幽霊人権のこと、ちゃんとわかってる人いなかったから大変だったんだよ。書類の作成なんかもやったことないしさ。国に提出しないといけないやつなんかもあったし。」とゆうちゃん発見から、今に至るまでの流れを軽く教えてもらった。
なんならゆうちゃんがこのカメラ屋さんでかなり不憫な扱いを受けてるのもなんとなくわかってしまって複雑な気持ちになったのだが。
そんなゆうちゃんは元々地縛霊で、この雑居ビルに住み着いている幽霊らしいのだが、ふらふらしていて、たまたまカメラ屋さんの裏手に入ったのがきっかけで吉田さんに見つかり(捕まり)、アルバイト、という形で働くようになったんだとか。亡くなった当時の年齢がアルバイトできる年齢だったことや、長くいたおかげか、下手な学生を雇うより知識量があるからと採用になったんだとか。ちなみに給料はちゃんと発生するらしく、その給料で色々ゲームだったり、ソーシャルゲームもしてるらしく、スマホも持ってるのだとか。ゆうちゃんBOX、なるものがお店の裏のどっかにあるんだとか。仕事が終わったらその箱からいそいそとゲームを出して夜な夜な遊んでるらしい。(吉田さんが話してた。)
普段どうやって吉田さん以外とコミュニケーションを取ってるのか聞いたらレジを始め、あらゆる文章を打ち込める機会を片っ端から使って普通に文通のように話してるんだとか。
それを聞いてからゆうちゃんから話しかけられることが増えるようになった。
例えば以前、店長から教わりだいぶ覚えてきたレジ締めをとうとう1人ですることになった夜、どうしても最後の書類の出し方がわからなくなって、店長に電話しようかとスマホを取り出した時、レジの画面に「教えようか?」と打ち込まれたのだ。
もう電気を消した店内で1人で大きな声で騒ぐところだったのは、僕とゆうちゃんの秘密だ。(もう何人か知ってそうだけど。)そのあとはなんとか教えてもらいながらレジ締めを終わらせることができた。「お礼はりんごのカードでいいよ。五千円分ね」と少し、いやだいぶ高いお礼になったが、後日給料日後にゆうちゃんBOXにそのカードを入れておいた。ちなみにその日のうちに使ったのか、
使い終わったカードを捨てておいて、とも僕だけが見てるタイミングでパソコンに打ち込まれた。
まだ続きます。