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「ルナリア・オーガスト!俺の前に出てこい!」
ここは学園にあるパーティー会場。卒業式が終わり今は卒業パーティーの真っ只中だ。卒業生達が最後の思い出を作ろうと楽しそうな声があちこちから聞こえてくる。
そんな中私は一人ソワソワしていた。
なぜかと言うと三年間の学園生活が終わり明日には第一王子との結婚を控えているからではない。このパーティーの場でこれから起こることを今か今かと待っているのだ。
そしてパーティーも終盤に差し掛かった頃、それは突然始まった。
第一王子に名指しで呼ばれた私はスキップしそうになるの堪え、令嬢らしく粛々と歩いていき第一王子の前に立った。
「第一王子殿下。大声で私を呼び出して一体何事ですか?」
私は何も知らない振りをして何事かと質問をする。
(本当は何が起こるか分かっているんだけどね!)
そう質問をしながらチラリと第一王子の隣にいるコスター男爵令嬢に視線をやる。第一王子の腕にコスター男爵令嬢がしがみついており私を怯えた目で見ていた。
「メ、メイビス様ぁ!ルナリア様が私を睨んできますぅ!」
「はっ!何事かと?白々しい!お前が今までエリンにしてきたこと知らないとは言わせないぞ!お前は――」
どうやらこの場で私に冤罪を被せることにしたようだ。せっかくなのでどんな内容なのか黙って聞いていたが、私の学園での行動を知っている人からすれば全てあり得ない内容であった。
「エリンの悪口を言ったり、エリンの制服にお茶をかけたり、それにエリンの顔を叩いたそうだな!」
「と、とっても痛かったですぅ~!」
「あぁエリン!なんて可哀想なんだ!」
「…」
全て冤罪であるので私はここで反論をしてもいいのだがあえて黙る。変に反論して話が拗れるのはあまりいい流れではないからだ。ここは最後まで黙っている一択だ。
「ふん!全てバレているのに黙っているなんて卑怯なやつだ!お前は俺に相手にされないからって可憐なエリンをいじめてたんだろう。最低だな!そんな女が王妃になるだなんて反吐が出る!王妃には可憐で心優しいエリンのような女性が相応しい!」
「メイビス様ぁ~」
コスター男爵令嬢がさらに第一王子の腕に胸を押し付け、第一王子は嬉しそうに鼻の下を伸ばしている。
(くだらない茶番ね)
しかしあと少しの辛抱なのだ。ここまできたのだから我慢しなければ。
「だから私はここで宣言することにした!ルナリア・オーガスト!この場で貴様との婚約を破棄する!」
(来た!!)
とうとうこの時がやってきたのだ。十年という長い時間願い続けてきたこの瞬間が。
私は口角が上がりそうになるのを扇で急いで隠し第一王子の言葉の続きを待った。
「そして新たにエリン・コスター男爵令嬢との婚約を発表する!私とエリンの治世に性悪の女など不要だ!よってルナリア・オーガストを国外追放とする!衛兵!この女を連れていけ!」
(な、なんてことっ!婚約破棄に国外追放なんて一番望んでいた展開じゃない!最高だわ!…はっ!こうしてはいられない!一刻も早くオーガスト領に戻らなくちゃ!)
第一王子の命令で私は衛兵に囲まれているのだが嬉しすぎてそれどころではない。早く喜びを家族に伝えなければならないのだ。
「だ、第一王子殿下っ!」
「ふっ、今さら謝る気にでもなったのか?でももうおそ「ありがとうございます!」…は?」
「きっと殿下なら私の望みを叶えてくれると信じていました!私はお二人を心から応援していますので頑張ってください!二人ならどんな困難でも乗り越えられるはずです!では私は早速国を出る準備をしますのでここで失礼します!」
そう言ってから魔法を展開する。もちろん展開する魔法は転移魔法だ。
「はっ?な、なにを言って」
「それでは皆さん、ごきげんよう!」
第一王子が何か言いかけていたが、私は魔法を発動しパーティー会場を後にしたのだった。
◇◇◇
「ルナリア!」
「ルナちゃん!」
「ルナ!」
転移した先のオーガスト家で熱烈な出迎えを受けた私は三人を落ち着かせてから今日の出来事を伝えた。
「それじゃあルナリアは賭けに勝ったんだな。それも最高の結果で」
「はい!それで以前お願いしたことを実行してもらいたいんです」
「ルナちゃんが王妃にならなくて済むのは嬉しいけど出ていっちゃうのはやっぱり寂しいわ…」
「やっぱ俺もルナと一緒に…」
「お母様、お兄様落ち着いてください。私のお願い事を叶えてくれるって約束しましたよね?」
「「そうだけど…」」
「家を出ていったら私はもう家族ではなくなるのですか?」
「っ!そんなわけないじゃない!」
「ルナはいつまでも大切な家族だ!」
「ふふっ、そう言ってもらえて嬉しいです。それに出ていったとしてもたまには帰ってくるつもりです。だから今は快く送り出してくれませんか?」
そう、私が以前にしたもう一つのお願い事とは婚約破棄されたら私を貴族籍から抜いて欲しいということ。貴族籍から抜けばもしもの時に家族に迷惑をかけずに済むと思ったからだ。ただおそらくあの茶番では家族に責任が問われることはないだろう。だけど念には念をいれておくに越したことはない。
「ああ、約束したからな。それにルナリアの実力ならどこでもやっていけるだろう。ただ困ったことがあればいつでも私達を頼りなさい」
「ありがとうございます!」
これからは私は貴族令嬢ではなく冒険者として生きていくつもりだ。
冒険者登録は五歳の時に済ませてある。冒険者デビューのお祝いとして両親から貰った鞄を持っていくことにした。この鞄は空間魔法がかけられているとても貴重なものだ。これからの生活に大いに役立つだろう。
そうして私は急ぎ家を出る用意を済ませた。
この家には八歳までしかいなかったがたくさんの思い出がたくさんある。今日自分の夢を叶えるために家を出ていくがやっぱり少し寂しい。だけど自分で決めたことだ。それに家族も後押ししてくれた。私は笑顔で家から出ていくのだ。
家族と使用人達に見送られながら転移魔法を発動する。
「みんなまたね!」
そして私の姿は屋敷から消えたのだった。
婚約破棄された私はこうして家を出た。
次にこの家に戻ってくるのは夢を叶えてからと決めてある。
私は夢に向かって歩み始めたのだった。




