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 不思議な夢を見た。


 この国では見たことがない黒い髪に黒い瞳の女の人が小さな建物を嬉しそうに見つめている夢。



(これは夢?…って私?え、私だ!ってあれ?今の私って銀の髪に黄色の瞳だったよね!?でもこの黒い髪の女性も私だ。…確か夢だったお店を開く直前に車がいきなり突っ込んできて…っ!も、もしかして私…)



「て、転生しちゃったの!?」




 ◇◇◇




 王城で意識を失い気がついた時には自分の部屋のベッドの上だった。


 あの後お父様が私を連れて帰ってくれたがなかなか目を覚まさずに生きた心地がしなかったそうだ。さすがにそれは心配しすぎだと思ったが、聞けばなんと私は三日も眠っていたそうだ。それは確かに心配するわと反省しているとお父様からこれからのことを教えられた。


 どうやら私が第一王子の婚約者というのは決定事項で覆ることはないとのこと。

 王妃教育は少しでも早い時期から始めた方がいいので、一月後から始めることになってしまったこと。

 王城の一室を与えられるのでそこでこれから生活をしなければならないそうだ。だから家族や使用人、オーガスト領の人たちとお別れをしなければいけないと父が苦しそうな表情で教えてくれた。

 これが前世の記憶を思い出す前の私だったら間違いなく泣いていただろう。だけど前世を思い出した私は泣くことはなかったがその代わりに決意した。



(このまま今世と前世の夢を諦めるなんてできない!まだ結婚するまでには時間があるんだからどうにかして王妃にならない方法を見つけてやるわ!)



 方法を見つけたら家族にも協力してもらおうと考えた。両親も私が王妃になることなど望んでいないはずだ。



 私は一人決意し、大好きなオーガスト領を後にするのだった。




 ◇◇◇




 王城に着いてすぐに第一王子との顔合わせが行われた。第一王子であるメイビス様は国王と第一側妃の間に生まれたお子で私と同じ八歳だ。


 この国セントミル国には二人の側妃がおり、第一側妃は第一王子を、第二側妃は第二王子と第一王女を出産されている。

 実際に王妃としての役割を果たしているのが側妃になるのだが、今現在公務を行っているのは第二側妃なのだそうだ。第一側妃は左の隣国であるグラシオン国の王女であるがゆえにこの国の王家の習わしを未だにいまいち理解されていないらしい。ちなみに第二側妃はこの国の公爵令嬢だ。

 そのせいと言うかそのおかげと言うか、第一側妃の子であるメイビス様もこの国の王妃という役割を理解していなかった。そして口も頭も悪かった。



「お初にお目にかかります。ルナリア・オーガストと申します」


「ふん!俺はお前が婚約者だなんて認めないからな。お前に王妃は相応しくない!」


「…では第一王子殿下はどのような女性が王妃に相応しいとお考えですか?」


「そんな分かりきっていることを聞いてくるなんてお前はバカだな!いいか?俺は優しいから教えてやる。俺に相応しいのは愛らしく護ってあげたくなる令嬢だ!」


「え」


「この俺に愛されるか弱い令嬢が俺の隣にいるべきなんだ!王妃は国王に愛される人がなるべきだって母上がいつも言ってるからな!それなのに婚約者がお前のような愛らしくも護ってやりたいとも思わないやつだなんて…」



 確かに私は第一王子より背も高いし、剣も魔法もこれまで相当鍛えてきたのでか弱くないのは当然だ。むしろそうだからこそ婚約者なんかに選ばれてしまったというのに。

 まさか第一王子がここまでおバカなのは予想外だ。おそらく母親の第一側妃はグラシオン国の王女だからセントミル国の王妃という職業に対する理解が足りないんだろう。そんな母親の元で育てばこういう考えも持つのも不思議ではない。


 しかしこれは私にとってはチャンスなのかもしれない。



(確か結婚式は学園を卒業してからだったから、それまでに第一王子の理想の令嬢が現れれば私は不要ってことで婚約破棄してくれたりするかも!?王族である第一王子から婚約破棄されれば弱い立場の私は拒否できないし、さらにそれが公衆の面前であれば婚約破棄を無かったことにはできない。そしたら私は婚約破棄を受け入れるしかなくなる…。あるかもしれない!)



 これは賭けだ。

 賭けに負ければ王妃になるしか道は残されていない。しかし賭けに勝てば自由になれるかもしれない。

 婚約破棄されることによって私自身に付く傷など些細なことだ。

 もちろん他にも方法は探すが見つかるかは分からない。ただ第一王子の性格からすると高確率で賭けに勝てるような気がしてきた。これは賭けてみる価値はある。


 これからの私がするべきことは第一王子を見守ることだけ。他の令嬢との交流を間違っても邪魔しないように気をつけなければ。



(どうかお似合いのご令嬢が現れますようにっ!)



 目の前で王妃とはなんたるかを語る第一王子をよそに私は心の中で強く祈るのだった。

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