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終わりへの調べ-3

「いってきます!」

 元気に手を振るティナを、一人は微笑ましそうに、もう一人は困ったような笑みで、それぞれ見送る。

 二人の視線を背に浴びながら、ティナは森へ踏み出した。

 ――それが数十分前の出来事である。

「……まよっちゃった」

 ノクシルが鞄にしまってくれていた地図をぐるぐる回しながら、ティナは途方に暮れた。見上げると、ヴェンは森の出口を示してくれている。くれてはいる、の、だが。

「……うーん」

 ヴェンはなにかあったら自分が運べば良いと思っているようで、さっきから案内される道には崖や川が当たり前にあった。いざとなったら頼むしかないと思ってはいるのだが、ティナはまだ子どもとはいえ半分成人になったのだ、出来るだけ自分の力でなんとかしていきたかった。だがこの相棒は過保護気味になってしまったようで、迷っている今現在もすぐに下降してティナを引っ掴もうとしてくる始末だった。

「! 『まって』!」

「!」

 下降しようとしたヴェンの動きが止まる。この言葉も、もう何度言ったか分からない。

 上空でヴェンが心配そうに何回目かの旋回を始める。

 ティナは頭を抱えた。地図の見方はしっかり教わった筈なのだが、全く思ったようにいかない現状に焦りが生じる。

「――なんとか、するもん。だって、あのとき、なんにもできなかったんだから」

 こんなところで、あきらめられない。

 気を取り直して地図を見直そうとした時、ヴェンが軽く鳴いた。

「? どうし、」

 訊こうとした言葉は声になることなく静かに消えた。

 ティナの目の前の巨木の根から、よく知っている金色の片瞳が顔を覗かせていた。

「やっぱり、白姫、ここにいたんだね」

「ルシノ!? なんで?」

 「よいしょ」と言いながら地面から身体を引き抜いたルシノに驚くティナに、ルシノは楽しそうに笑った。

「ここの地形は変わりやすいんだ。ここから森を出るなら、この根の穴を通った方が分かりやすいよ」

「それをおしえにきてくれたの?」

 ティナが首を傾げながら言う。けれど現れたルシノの服装を見るに、それだけではないと思った。案の定、ルシノは右目の包帯に付いた汚れを軽くはたきながら苦笑した。

「じいちゃんが、そんなに心配なら俺もついて行けって」

「じゃあ――」

 ティナの瞳が輝く。

 復讐を誓ったとは思えないくらい眩しい光に、ルシノは痛む胸を押さえながら、優しく微笑んだ。

「俺も行くよ。白姫の兄さんにはなれないけど、代わりにはなれると思うから」

「? ルシノはルシノだよっ」

 役不足という意味なのか、力不足という意味なのか、或いはどちらでもないのか――逡巡し、ルシノは心の底から、苦笑した。

「森から出たら、まずは一番近いマタビ村に行ってみようか」

「うんっ」

 ティナが右手を伸ばす。ルシノは意味を考え――右手を差し出した。

「これからもよろしくね、白姫」

「うんっ! ルシノもいっしょなんて、うれしいなっ」

 ティナの屈託ない笑みに、復讐なんて望んでいないルシノの胸が静かに痛んだ。

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