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27歳絶賛彼女居ない歴=年齢が黒髪ロングの浮遊霊に丑三つ時に邂逅したら一目惚れしちゃった話

作者: 廼独鏡星

ふと目が覚めた。

大学生の頃は滅多に無かった。

最近酒を飲むと余計にトイレが近くなる己の体に嫌気が差しつつ、冷たい床に足を下ろす。

数年振りに再会したサークルの友人と調子に乗って飲み明かしたらこのザマだ。

眠気に抗うことを諦めた結果潔く脱ぎ捨てたスーツは、すっかり体温を失ってシワになっている。


「ほんとに俺、何してんだろうな…」

だるい体を引きずってトイレでジョボジョボと用を足す。

「あ〜〜…………」

ちなみに用を足した後、手を洗ったついでに顔も洗ってしまうのは俺の深夜帯限定のよくわからんクセだ。

顔面と膀胱だけやたらとスッキリした状態で布団に再び潜り込むと、ついつい己の虚しい人生を振り返ってしまう。


逢坂裕貴、27歳

童貞黒縁メガネの低賃金サラリーマン


はぁ……2行で俺の人生振り返り終わるじゃねぇか……

鬱鬱とした気持ちで目を瞑り、ぐるぐると思考を繰り返す内に眠気はやってくる。


「こんばんは…ねえ、あなたの名前は?」


はっ?


いやいやいや今なんか声聞こえなかったか??????

俺は一人暮らし、この歳まで独身貴族貫いてるんだぞ?ましてや幼い頃からずっと霊感なんて言われるものも無い。

二日酔いの見せる幻聴だと己に信じ込ませるようにぶんぶんとかぶりを振る。

「その反応だと聞こえてると思う…んだけどな…?こんばんは〜」

聞こえてない聞こえてない、俺の耳には決して何も聞こえてないからな???というかさては夢、リアルな夢を見てるんだな………よし、疲れてるならさっさと深い眠りにつくに限る。

布団を頭まで被って丸くなる。

別に怖いとか思ってないからな、断じて。

暫くすると声の主は諦めたのか声をかけてくることは無くなった。


「………」

もそりと布団から頭を出してみる。

そこに、居た。

「「………………………」」

ばっちり目が合うと、はにかみながら手を振られる。

ぱっと見俺のタイプどストライクの黒髪ロングで可愛らしいワンピースを着た大学生くらい…の女性かと思いきや足元がほぼ透けている。俺の幻覚でなければ確かに透けている。彼女の奥の棚に置いてある漫画が見えるのだ。

全く意味は分からないし、下手したら事案のこの状況を不法侵入だなんだと言って警察に通報するなんて判断は俺には出来なかった。


「…誰だ?」

「…私?私はゆき。漆原ゆきです。」

ゆきと名乗る彼女は申し訳なさそうに名を名乗る。

「その、私が見えているんですよね?」

「足元は透けているけどな。こうやって会話は可能らしいぞ。触れられるかどうかまでは知らん。」

「そうですか……」

「あ〜、聞きにくいこと聞くがお前は幽霊の類か何かなのか?」

ふと疑問に思ったことが口をついて出る。

「そうです。ついこの前に私の身体は死にました。」

「そうか…………」

「生まれついた時から身体が弱かったんです。なんとか20歳になって少ししたら容態が急変してしまって。そのままあっさり死んでしまいました。」

ゆきはこればかりは仕方ない、と諦めたように笑って肩をすくめる。

「そうか。」

逢坂はくしゃ、とゆきの頭を撫でる。

完全に無意識だった。

「え…………?」

そして眉にシワを寄せたままの表情で、ぶっきらぼうに話を始めた。

「気を悪くしたら悪かった。…その、俺の考えだがお前は生きるために頑張ってたんだろ?だから仕方ない、とかそんな風に笑うな。俺はまだ分からないが死ぬことなんて、世界から切り離されることなんて、そう簡単に割り切れるものじゃないだろ。」

「…………ッ」

「説教くさくなったな、悪い。」

気まずさを紛らわすように逢坂はぼりぼり頭を掻く。

「…なまえ、名前、なんていうんですか」

「俺の、か?俺は逢坂だ」

「おうさか、さん……」

ゆきの瞳からはボロボロと涙が溢れてくる。

「…誰も見ていないから、好きなだけ泣いておけよ」

背中越しに聞いた年相応の彼女の願いは、健気なものだった。


泣き止んだか…?

声が聞こえなくなったと思い、そっと後ろを振り返るとカーテンの隙間から光が差し込み始めていることに気付く。

ゆきは光を浴びて柔らかく微笑んでいた。

「……色々とありがとうございました」

「お前がそう思えるのなら」


丑三つ時の気まぐれによってもたらされた運命の出逢い。今生の別れが近いことだけは、互いに勘付いていた。


「……私、さよならは言いませんから」

「そうか」

「もしこの世界に来世が有るのなら、わたしはあなたの彼女になりたい」

ゆきは悪戯っ子のように微笑むと、逢坂の唇にふに、と柔らかい感触を残す。

「また逢いましょうね」

「ッたく……………このバカ早く行け」

しっしっ、と手をひらひらさせつつ口元を抑えて顔が赤いのを隠す。


「照れ隠し下手くそですね」

「うるせぇ」


頬を染めてふにゃりと笑った彼女は、いつの間にか光の中に溶けていた。そして気付いたら俺は、その辺のコピー用紙に文字を書き連ねていた。


……お前の年相応の願いの中に、俺が入っていたことだけが、俺の救いだったよ。

今度は、俺が迎えに行く。


がたん、と鳴った椅子の音だけが暗い部屋に響いた。

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