悪意なきツッコミ
「おっとこれは失礼。私はニヘラム。この村のBランク冒険者を務めさせていただいております」
いきなりそう声をかけてきたのは、長身痩躯の男性だ。
狐を思わせる細い顔に、大きな黒縁メガネをかけている。まさしく「インテリ」という言葉がぴったりな、線の細い男だった。
それにしても……この冒険者はBランクなのか。
冒険者のランクは、上からS、A、B、C、D、E。
Bは中堅に位置するランクなので、全体で見てもベテランの冒険者ということになるな。
実際にも、あんなに俺を睨んできた男たちでさえ、このニヘラムには尊敬の眼差しを向けている気がする。
「あなたのことは聞き及んでおりますよ、ユノさん。たしか栄誉ある剣聖殿の息子で……たしか《0ターンキル》という、愚にもつかないスキルを取得したのだとか」
「…………っ」
その言葉に、俺は思わず視線を横に逸らす。
いかに王都から離れた村といえど、ニヘラムはBランク冒険者。俺のことを知っているのも道理か。
「やっぱり見たことあると思ったぜ……」
「ってことはあいつ、外れスキル所持者か……?」
「呪われた人間のくせに、なに一丁前に冒険者になろうとしてんだよ」
ニヘラムの発言を受けて、周囲の冒険者たちもヒソヒソ話を繰り広げている。
やっぱり《剣聖の息子》が外れスキルを授かったことは、人々にとって衝撃的なニュースらしいな。
「あ、あんたら……」
その空気に耐えきれなくなったのか、フラムが一歩踏み出そうとする。
そんな彼女を、俺はすんでのところで制止した。
ここでトラブルを起こすのは得策ではない。俺と一緒にいるところを見られたら、彼女にとっても良くないだろう。
「…………あ、あの」
その険悪な雰囲気のなかで、新米受付嬢が首を傾げながら言った、
「すみません……私新米だからよくわからないんですが……。外れスキルだからといって冒険者になれないっていう規則ありましたっけ?」
しん、と。
一瞬にして場が静まり返った。
さっきまで薄ら笑いを浮かべていたニヘラムでさえ、すっかり真顔になってしまっている。
「はは、なにを言ってるんだ君は。剣聖の息子なのに、外れスキルを授かった……。そんな者を受け入れてしまったら、ベール村の評判が落ちると思わないのかな?」
「え、えとえと。ど、どうなんでしょう……?」
またも目を白黒させる新米受付嬢。
「でも、そういうときのために、ニヘラムさんみたいなベテラン冒険者がいるんだと思うんです。人々はいつも助け合うべきだって、ニヘラムさんいつも言ってました……よね?」
「…………」
「あ、でもユノさんには適応外っていうことなんでしょうか。そんな規約はギルドにもなかったはずですけど……。あ、ごめんなさいごめんなさい、勉強不足で」
「…………いや、そうじゃないんだが……」
やや小さな声でそう答えるニヘラムに、新米冒険者は「ふえっ?」とまた首を傾げた。
「ち、違うんですか……? じゃあなんでニヘラムさん、そんなにユノさんを馬鹿にしてるんでしょう……? ごめんなさい、私、なにも知らなくて……」
「ぷぷっ……」
耐えきれなくなったのだろう。隣のフラムが吹きだしてしまった。
他の冒険者たちは相も変わらず、押し黙っているのみだが……
新米受付嬢が悪意なくニヘラムを追い詰めていることに対し、若干、微妙な空気が生まれていることは否めなかった。
「くっ……!」
その空気が嫌だったんだろうな。ニヘラムが憎々しげに舌打ちをかます。
「仕方ありませんね……。ではユノさん、私が直々に認定試験に立ち会って差し上げましょう。光栄に思いなさい」
「「おお……!」」
ニヘラムの提案に、冒険者たちがどよめきをあげる。
「ニヘラム様直々の試験……。滅多なことでは見られないぞ……!」
「あのユノとかいう男、終わったな……」
――認定試験。
それはその名の通り、冒険者として認定されるための試験だ。
基本的にはCランク以上の冒険者が試験官となり、その試験官に認められた場合にのみ合格となる。もちろん勝つ必要はなく、あくまで認められさえすればいい。
その試験に――わざわざBランク冒険者たるニヘラムが立ち会うと言ったのだ。
「さっすがニヘラムさん♪ ユノさんの実力を確かめるなら、たしかに実力者のニヘラムさんが適任ですもんね♪」
「……ふん。まあ、そういうことさ」
ニヘラムはつまらなそうに鼻を鳴らすと、最後に俺を見て言った。
「なにをしているんだ。早くついてきな。認定試験を行うよ」
「は、はい……!」
――Bランク冒険者との試験。
この《0ターンキル》の強さを確かめる絶好の機会と言えるだろう。
あんなに自信があるようだから、まさかいままでみたいに一発KOってことはないだろうし。
身体の底から沸き起こる武者震いを感じながら、俺はニヘラムについていくのだった。
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